東京都現代美術館ではじまった美術家、オラファー・エリアソンの個展。そこでオラファーが提示してみせる“新しいエコロジー”とは。本展のキュレーションを務めた長谷川 祐子さんに話をきいた

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 《あなたの移ろう氷河の形態学(過去)》2019年(左)、《メタンの問題》2019年(中央)、《あなたの移ろう氷河の形態学(未来)》2019年(右) 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《あなたの移ろう氷河の形態学(過去)》2019年(左)、《メタンの問題》2019年(中央)、《あなたの移ろう氷河の形態学(未来)》2019年(右)
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

 人間ではなく、地球が絵を描く――いわば脱人間中心主義的な姿勢は、じつは、オラファーの他の作品にも見られることだと長谷川さんは言う。たとえば、紙の上に置いた氷河が自然に溶け、顔料と混ざり合っていくことで抽象的な水彩を作り上げた《あなたの移ろう氷河の形態学》シリーズ。これもまさに人間だけではなく、氷河と人間がコラボレーションして描いた絵だ。

「また、(7つの異なる波長の光を同時に当て、黄色から青までのグラデーションを伴った影を壁面に出現させる)《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》もそうでしょう。この作品スペースに立てば、きっと自分が主導で動くというよりは、影によって自分が動かされるという逆転した状況を体感できるはずです。一方で《サステナビリティの研究室》で展示している、バクテリアの作用を利用して作った顔料は、微生物が作り上げたものだと言えます。つまり人間以外のものが“アクター(行為者)”になることを許容し、そして、それらの力を信じながら、オラファーはものづくりを行なっているのです」

画像: 《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》2020年 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》2020年
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

 3月14日にはじまる予定だった本展は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開幕を6月9日に延期した。その自粛期間中、オラファーと長谷川さんは「STAYING TOKYO」と題したオンラインイベントでトークセッションを行った。そこで、オラファーは、つぎのようなことを話していた。

「インドでは、ガンジス川に人と同じような権利が与えられており、つまり自分を汚染する企業をガンジス川は起訴することができる。同様にエクアドルでは山に権利があり、ニュージーランドには木に権利が認められている。動物や植物、虫や海、山にも、人権と同じような権利がある――そういう考え方が、徐々に広まっています」

 人間を頂点にしたヒエラルキーを取り払い、植物や虫の視点、海や空の視点を含めながら、そういったものがどういうふうに関わりあっているのか、自然を多くのものの関係性の総体として考えることは、現代のエコロジーのひとつの潮流だという。そして、改めて言えば、自分たちもそれに関わっていること、その自然の一部であることを実感させるのがオラファーのアートである。

画像: 《ときに川は橋となる》2020年 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《ときに川は橋となる》2020年
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

『ときに川は橋となる』という展覧会名は、おそらく多くの人にとってイメージしにくい、理解しにくいものだろう。「水の上なんて渡れないではないか」「むしろ川は陸地を分断する存在ではないか」ーーただ、もしそんなことを思ってしまったら、それは、あなたが“人間の視点”からのみ、川を眺めているからかもしれない。

 このタイトルは、本展で初公開となる新作インスタレーションの名前でもある。スペースの中央に水が入った丸い水盤が置かれ、水面で起こるゆらぎやさざなみが上空のスクリーンに投射されるそのインスタレーションでは、水がまるで意思をもって自由に動いているように見える。そして、美しく複雑、また予測できない水のかたちの移ろいに、鑑賞者はハッとしたり、しみじみしたりと心がつられていくのだ。

「このタイトルは(いままでにない、新しいものの見方を促す)オルタナティブな思考を詩的に表したもの」と長谷川さんは教える。もし、人間以外の視点に立てば、水の視点に立てば——そういった、思考のシフトチェンジをこの展覧会は促してくれる。

『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』
会期:6月9日(火)〜9月27日(日)
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜
料金:一般 ¥1,400、大学・専門学校生・65 歳以上 ¥1,100、高校・中学生 ¥500、小学生以下無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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