当サイトで連載中の「音楽と美酒のつれづれノート」の挿絵も好評な画家・マツモトヨーコの絵画展が、大阪の阪急うめだ本店の美術画廊にて開催される)2026年2月25日(水)~3月3日(火))。今回の展覧会の出展作品について、話を聞いた

BY T JAPAN

画像: 鮮やかな色彩とリズミカルなラインで、花のある日常の風景が描れる。 《Lovely power》(2024) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

鮮やかな色彩とリズミカルなラインで、花のある日常の風景が描れる。
《Lovely power》(2024) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

なにげない‟日々のかけら“が人生を、世界を作る。
そういう一片を描き続けていきたい

「やさしいちから」――。展覧会のテーマについて尋ねてみた。「力というと、権力や時に暴力、強くマニッシュなイメージを思い浮かべがち。最近のニュースを見聞きしても、いろいろな原因が重なり合っている状況を力で一掃して、力づくでなんとかしようという・・・。正義って何だろう、力が強ければよいのかと考えてしまう。でも、“やさしさ”もパワーなのではないかと思う」とマツモトさん。「人間が本来持っている愛情とか思いやり、やさしい力に着目すべき。芸術家にできることは、そちらの力を伸ばすことだと思って描いています」。

画像: 《土曜の午後のソナチネ》」(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

《土曜の午後のソナチネ》」(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

 そのために何を描き、どのように伝えていくのか。「毎日の暮らしのさもないこと、日々のごはん、布団で眠ること・・・当たり前のように思えるけれど、それが難しい状況にある人もいる。なんでもない日々のことやものは、当たり前ではなくて本当はすごく大切なもの。ささやかな日常が続いていくこと、それが人生になる。そういう人生がたくさん集まることが国になり世界になると思うんです」。声高にスローガンやアジテーションを発するより、日常のなかの何でもないけれどいとおしいもの、いかなる世の中になっても残したいかけがえのないものを表現したい、と言う。

画像: 《春の便り》(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

《春の便り》(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

「身近なもの、暮らしのなかのちょっとした幸福なひととき。卑近だけれど誰しもわかる一単位、でも大切にしたい時間を描きたいです。ここに流れている空気はいつまでもあってほしい、あらねばならないと思うものをーー。いついかなるときも自分が本当に求めるもの、大切だと思うものを表現しないといけないと思っています」とマツモトさん。とはいえ、説教くさいものを描きたいわけではないと言う。自身も元気がなくなったとき、誰かの作品に出合って活力を取り戻すように、「万人を鼓舞できなくても、たったひとりでも、絵をみてくれた人の何か小さなエネルギーになったらうれしい」。

「今も旅の途中」――世の中で一番大切なことは
自由であること、平和であること

画像: 《海を夢見る》©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

《海を夢見る》©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

 マツモトさんはよく旅に出る。大阪出身だが父が転勤族で、子どもの頃から北へ東へと引越しが多い環境で育った。知らないところへ行くことも、“移動すること”自体も好きなのだと言う。近所の散歩はもちろんのこと、一日1万円でいかに遠くまで行って帰ってこられるかを楽しんだり、「青春18きっぷ」を愛用して日本各地を旅したり。だが、旅先でスケッチをすることはない、と言う。「身ひとつで旅をし、“受容体”となり、さまざまな刺激をたっぷり受けて、自分自身を太らせて帰るんです」。そうやって自分のなかにやがて落ち着いていくものを静かに見つめるのだ。

 この20数年間のあいだいつも(コロナ禍の期間を除いて)、マツモトさんは年に1,2回、洋上の人となる。客船に乗り込み、世界各地に寄港しながら、船上で絵や版画の講座を開催するのだ。
「最初は集団生活なんてできるだろうか不安だったけど、乗ってみたらめっちゃ楽しくて、天職や!と思った」と笑う。船上の日々は、マツモトさんの人生観にも変化をもたらした。

 小さい頃から絵を描くのが好きで、京都の美大に入学した。大学院を卒業後、装丁などエディトリアルの仕事をしたいと30代半ばで上京。精力的に活動するなか、あるとき船で展覧会を行ったことをきっかけに、客船に乗って絵画の手ほどきをする運びに。「船にはいろいろなお客様、さらに様々な分野のエンターテイメントを供する人たちもいて、多様なのに不思議とフラットなんです。いろんな人たちと一緒に、毎日水平線を眺める生活を続けていたら、視点が変わったんですよ。それまではどこか、功なり名を遂げねばいけないのではと焦ったり、モヤモヤする時期もありました。それが、上ばかり見るのではなく水平な方向を見つめていこう、自分のやることをちゃんとやっていけばいいんだ、という確信のようなものが生まれたんです」

画像: 「花はどこか人を思わせる造形をしているように感じます」。 《路傍の春》(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

「花はどこか人を思わせる造形をしているように感じます」。
《路傍の春》(2025) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

 歩いて、電車や船に乗って、大好きな馬にも乗りながら、マツモトさんは出かけていく。
「近所の人とも、国同士でも、まずはお互いを知るところから、対話をすることが大事だなと思います。世界が平和でないと物見遊山などできない。だからこそ、行ける限り、わざわざでも行き続けます。行ける状況の継続と延長を願って。いまは船が通れない場所や旅先として訪ねて行けないところがありますが、本当は世界のどこへでも行けることが望ましい」。

 ふだん家にいるときは、朝から制作に励む。描くモチーフは、器や椅子などの室内の風景や、植物や果実が多い。人の姿が描かれることはあまりないが、作品からは、つい先ほどまでそこにいた誰かの気配やぬくもりが、そこはかとなくたちのぼってくる。日常のなかでふと感じる季節の空気、通り抜けていく風、部屋をやわらかく満たす音楽、ひと息つくお茶の時間、暮らしのなかのささやかな幸福感。「ベタやけど結局のところ、世の中で一番大切なのは平和であり、自由であることーー。自分なりにそれを描いていきます」。

画像: 《いまも旅の途中》(2023) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

《いまも旅の途中》(2023) ©マツモトヨーコ アクリル、アクリルガッシュ/水彩紙

「マツモトヨーコ絵画展―やさしいちから―」
会場:阪急うめだ本店 7階 美術画廊
住所:大阪府大阪市北区角田町8番7号
会期:2026年2月25日(水)〜 3月3日(火)
開館時間:10:00〜20:00 ※最終⽇は16:00終了
入場料:無料
TEL. 06-6361-1381

マツモトヨーコ●1958年大阪府生まれ。画家・イラストレーター。京都市立芸術大学大学院版画専攻修了。『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和著・サンマーク出版)シリーズの装画ほか、書籍、雑誌、新聞、企業のカレンダー、パッケージなどのイラストを多数手掛ける。「好きなものは各駅停車の旅、海外ドラマ、スパイ小説、動物全般。ときどき客船「にっぽん丸」のアート教室講師を担当します」。
公式インスタグラムはこちら

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