BY HILARY MOSS, PHOTOGRAPHS BY JOANN PAI, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
バティスト・ブイグとその母であるマリー=リーズ・ジョナックと話していると、まるで彼らの家族に養子として迎えられているような楽しい空想が広がる。2人の仲は本当にうまくいっているようだ。どちらものんびりとしていて、いつも文学やアートを引き合いに出すブイグは、母親のビジネスセンスや働きぶりと完全に対照をなしている。
彼らの教えてくれた素敵な物語は、ジョナックと、ブイグの父親となる男性が出会ったところから始まる(ジョナックのなめらかなフランス語のアクセントは最高のナレーションだ)。彼はパリで休暇を過ごしていたダイバーだった。そしてジョナックはモデルで、ミス・フランス・コンテストに出場している最中だった。シンガポールまで遊びにおいでと誘われたジョナックは、彼を訪ねて行った。そしてふたりはアジアで8年間を過ごし、その間に息子が生まれたのだ。
数十年ほど話を進めよう。ジョナックは今ではベテランのフレグランス・コンサルタントだ。そして、30歳になるブイグは、ルイ・ヴィトンやジバンシィのコミュニケーション部門で働いてきた。職業上の興味が重なり合うのだから、彼らのコラボレーションはもはや必然だったと言える。「香水をつくってみようかなと、しばらく考えていました」とブイグは回想する。「もちろん、自分の母親がやっていることをやるのは嫌だという思いもありました。だけど、自分はフレグランスの世界のことをよく知っているんだって徐々に気づいたのです。そしてそれは、母がその世界で働いているおかげだってね」。
2016年の春、彼はジョナックに、天然成分だけを使った香水をつくってみないかと提案。彼女は即座に無理だと言った。「自分に問いかけてみたんです、『なんでバティストにああ言ったんだろう?』って」とジョナック。「私はいつだって、挑戦する方を選んできたんです。誰かに『不可能だ』と言われたら、『オーケー、やってみようじゃない』って。だから、私は彼のところに戻って言ったんです、『やってみましょう』って」