「ミラー ハリス」の創業者で、注目のフレグランスブランド「パフューマー H」の代表でもある調香師のリン・ハリス。その香りのアイデア源となる“ネイチャーハンティング”の朝の散歩に同行し、フレグランスづくりのプロセスを追った

BY AIMEE FARRELL, PHOTOGRAPHS BY JAMIE STOKERS, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 いま注目のイギリス人調香師、リン・ハリスはライラックを見つけようと躍起になっている。ある春の朝、彼女はロンドンのリージェンツ・パークで、人の手の入っていない一角へと分け入っていった。野草やヤマニンジンの花の生い茂る春らしい景色を見て、「すごく牧歌的ね」とつぶやく。ロンドン中心部の絶えまない車の騒音も、この静かな場所では鳥の声やセント・メリルボーン教会の鐘の音にかき消され、ほとんどと言っていいほど耳に届かない。「都会にいるのに、自然のただ中にいるみたいに感じるわ」

画像: 暖かくのどかな春の朝、セントラル・ロンドンのメリルボーンを散歩する、フレグランスブランド「パフューマー H」の創設者リン・ハリス。いま売れっ子の調香師はリージェンツ・パークの中のヨーク・ブリッジで立ち止まってタンポポをひとつかみ摘み取り、「嗅覚は私たちにとって最も大切な感覚なの」と言う。彼女は自身のブランドと並行して、キャンドルメーカーのシール・トゥルドンや、バッグが人気のアニヤ・ハインドマーチとコラボレーションしたフレグランスやキャンドルも手がけている ほかの写真をみる

暖かくのどかな春の朝、セントラル・ロンドンのメリルボーンを散歩する、フレグランスブランド「パフューマー H」の創設者リン・ハリス。いま売れっ子の調香師はリージェンツ・パークの中のヨーク・ブリッジで立ち止まってタンポポをひとつかみ摘み取り、「嗅覚は私たちにとって最も大切な感覚なの」と言う。彼女は自身のブランドと並行して、キャンドルメーカーのシール・トゥルドンや、バッグが人気のアニヤ・ハインドマーチとコラボレーションしたフレグランスやキャンドルも手がけている
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 ハリスは、伝統的な嗅覚のトレーニングを受けたイギリス人女性初の調香師だ。彼女は毎朝のようにこんなふうに歩き回っては、植物を採集している。ここリージェンツ・パークは、プリムローズ・ヒルにあるハリスの自宅と、メリルボーンにある「パフューマー H(PERFUMER H)」のショップ兼ラボの中間にある。「パフューマー H」は、彼女が2015年に立ち上げたイギリスのフレグランス専門ブランドだ。「この匂い、大好き」。道端から摘み取ったひとつかみのタンポポの葉の匂いを深く吸い込んで言うと、バスケットの中に葉を入れた。「この青々とした香りを嗅ぐと、すぐさま子どもの頃の気分に戻れるの」

画像: 自宅とショップを結ぶ公園の裏手でライラックを見つけ、かけがえのない香りを吸い込むハリス。この花の芳香は「White」のインスピレーション源となった。「White」はパフューマー Hが2018年に発表した冬のフレグランスで、スエードや小麦粉の香調も用いられている

自宅とショップを結ぶ公園の裏手でライラックを見つけ、かけがえのない香りを吸い込むハリス。この花の芳香は「White」のインスピレーション源となった。「White」はパフューマー Hが2018年に発表した冬のフレグランスで、スエードや小麦粉の香調も用いられている

画像: 「植物採集は私にとってとても大切なこと」と語るハリス。彼女のショップとオフィスは、コケや樹皮、花やシダなど、自然の中で見つけたあらゆるもので飾られている。そういったものすべてが、彼女の制作過程において嗅覚を刺激する材料となるのだ ほかの写真をみる

「植物採集は私にとってとても大切なこと」と語るハリス。彼女のショップとオフィスは、コケや樹皮、花やシダなど、自然の中で見つけたあらゆるもので飾られている。そういったものすべてが、彼女の制作過程において嗅覚を刺激する材料となるのだ
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 ハリスはウェスト・ヨークシャーのハリファクス出身で、学生時代や長期休暇には、祖父母の住むスコットランドのアバディーン近郊の田舎町で自然に囲まれて過ごした。この地での体験が、四季折々、絶えず姿を変える自然への親近感や創造力を培った。それは今もハリスのインスピレーション源であり、彼女のつくり出す香りの特徴にもなっている。

「私にとって、香りを生み出すとき季節感はとても大事なもの」と彼女は言う。20代前半で、ハリスはイングランド北部からパリへ移り住み、今は亡き調香師モニーク・シュランジェのもとで学んだ。その後、香りの都グラースに移り、フランスの名門香料メーカーであるロベルテ社に5年間在籍したのち、現在は独立した調香師として同社で仕事をしている。「南フランスに住んでいた頃は、季節の移り変わりが本当に恋しかった。季節の変化によって思考のプロセスも変わるし、あらゆる面で暮らしが活気づくものだから」と彼女は話す。

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