インディアナ州インディアナポリス。モダニズム建築と関わりの深い家族が建てたのは、周辺の風景と著名なモダニズム建築の家にインスパイアされた家だった

BY JULIE LASKY, PHOTOGRAPHS BY KEVIN MIYAZAKI, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)

 チャンドラー夫妻のためにバークがデザインした家は、意図的に考え抜かれた透明なガラスの壁や、表情豊かな素材使い、突き出した平らな屋根といった要素が「ミラー・ハウス」を想起させる。

画像: インディアナ州コロンバスに建てられた数々のモダニズム建築をフィーチャーした長編映画『コロンバス』には、バーク自身と彼女が2006年に手がけたアーウィン・ユニオン銀行の支店が登場する PHOTOGRAPH BY TONY CENICOLA

インディアナ州コロンバスに建てられた数々のモダニズム建築をフィーチャーした長編映画『コロンバス』には、バーク自身と彼女が2006年に手がけたアーウィン・ユニオン銀行の支店が登場する
PHOTOGRAPH BY TONY CENICOLA

 3,500平方フィートもの敷地をもつチャンドラー宅は、「ミラー・ハウス」と同じように、大きな共有スペースをあいだに挟んで、夫婦のためのエリアと子どもたちのエリアが分かれている。キッチンの壁には、目を引く青いセラミックのタイルを使用した。これは「ミラー・ハウス」のキッチンの壁に施された青いガラスモザイクへのオマージュだという。

 チャンドラー宅も「ミラー・ハウス」も、モダニズム建築の重要なテーマに沿ってデザインされている。それは、家の中と外の境界をなくすこと。ゆっくりと変わりゆく眺めを動的な芸術作品とすること。雨風から身を守るだけでなく、人の心を落ち着かせる場所にするーーといったことだ。「ただ、いくら『ミラー・ハウス』が素晴らしいといっても、夫妻があの家のモノマネを望んでいるわけではないのは明らかでした」とバークは語る。実際に彼女が提案した家は、チャンドラー夫妻のニーズに応えると同時に、その素晴らしい土地にもふさわしいものとなった。

 チャンドラー宅は、1平方フィート当たり300ドルという費用をかけて2016年秋に完成した。全体を亜鉛の羽目板で覆われ、マホガニーの木枠の窓がついたこの家は、土地の一番高いところに建っている。幹線道路からつながる曲がりくねった私道にはオークやアメリカスズカケ、カエデ、クルミなどの木々が植えられ、家の後ろ側の坂を下ると広々とした草地が見える。

 家の中心にあるのは、両側を熱効率の高いガラス製の長窓で囲われたリビング&ダイニングだ。松の心材(木材の中心寄りの赤身の強い部分)の羽目板を貼った壁で2つに仕切られていて、片方には同素材の四角い空間があり、奥にキッチンが隠れるように配置されている。ここの松材には、インディアナ州・テレホートにあった1900年代のベーキングパウダー工場の梁が使われている。工場が解体された際にチャンドラーが手に入れたのだ。

 この家には、小さなプライベートルームもたくさんある。チャンドラー夫妻は、たがいの仕事場と、現在19歳、18歳、14歳になる子どもたちのためにそれぞれの寝室とバスルームを作るよう依頼した。「基本的には、子どもたちとできるだけ同じ空間にいるようにしているの」とメアリーは言う。バスルームはどれも「ひじや頭がぶつからずになんとか身動きできるくらいのサイズ」だし、寝室にはテレビは置かない。そうして家族全員が共同スペースに集まるようにしているのだという。

画像: チャンドラー夫妻の主寝室。部屋ごと、季節ごとに窓からの眺めは変化する

チャンドラー夫妻の主寝室。部屋ごと、季節ごとに窓からの眺めは変化する

画像: 裏手にある草地から見たチャンドラー家の景観。2012年にチャンドラーがランニングをしていたときに、偶然この土地を見つけた

裏手にある草地から見たチャンドラー家の景観。2012年にチャンドラーがランニングをしていたときに、偶然この土地を見つけた

 部屋ごとに、窓から見える景色は異なる。家族の共有の部屋からは壮大な景色が見え、それぞれのプライベートな部屋からはもう少し小さく切り取られた風景が見える。その眺めはまた、季節ごとに劇的に変化する。「インディアナ州では、一面雪に覆われたパノラマと、暑い夏の緑あふれる景色の両方を楽しむことができるんです」とバークは指摘する。この家は、その両極端な美しさを存分に活かすよう、また両極端な気温の変化にも対応するように設計されているのだ。

 突き出た屋根の軒下には、バークが“台座”と呼ぶ、整えられたスペースが建物全体を囲むようにつくられた。石灰岩で舗装された部分やツゲの低木が植えられているところもあるなど表面のしつらえはさまざまで、屋外用シャワーが設置された小さなスペースもある。この“台座”が、家の外と内の境界がゆるやかでスムーズにつながるように見せている。

 この豪華なテラスで、家族は朝日を浴びたり、夕方には、草を食べに森から現れる鹿を観察したりする。メアリーにとって、この家のいちばんの使命は、建物とそこに住む人間、そして屋外の自然とのあいだに情緒的なつながりを生み出すことだ。「家に降り注ぐ太陽とか、いつも開かれたドアとか。あるいは、中庭から家に入ったり出たりして草地の上を飛ぶ白頭ワシを眺めることとか――。それが、私たちの生き方そのものなんです」

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