歴史的遺産を残しつつ、新しいパリの顔を見せるマレ地区に誕生した「ラファイエット・アンティシパシオン」。現代アートの新プラットフォームとなる注目の建築と概要を、現地からリポート

BY KAORU URATA

画像: 高さ19mのスリムな展示空間

高さ19mのスリムな展示空間

 中庭をUの字に囲む7層の建物の総面積は、2,200㎡。大小の床面が積層になった850㎡の展示空間は、作品の大きさなどに応じてスペースの天地を変えられる、高さ19mの「展示タワー」である。このプラットホーム式の床を電動式モーターで操作して、垂直に伸びる歯板上をスライドさせ、49パターンの空間構成を作ることができる。限られた面積の中で、アーティストが制作し展示することを考慮して、地下には350㎡の制作工房まで設計されている。ここから直接、作品を展示空間に搬入することも可能だ。こうしてあらかじめ、予期せぬ演出や用途に応えられるような空間設計を提案するのもOMAが得意とする点である。過去に、水圧で床を昇降させる一軒家や、用途に応じて引き込んだり畳んだりできる劇場を考案してきた経験から、必然的に導かれたアイディアともいえる。

 地上階には、グルテンフリーかつオーガニックな食材を使用したメニューを提供するカフェ&レストランWild&the Moonがあり、来場者の集いの場となっている。セルフサービスで、一杯のコーヒーを片手にぼんやりと過ごすにも、友人や家族たちとの会話を弾ませてくれるひとときにもいいだろう。カフェコーナー全体のレイアウトと、木製の書棚、テーブルと椅子は、フランスのデザイナー集団Ciguë(シグー)がデザインを手がけている。

画像: シグーがデザインしたA Rebours(ア・ルブール)。店内の商品は定期的にリニューアルされる ©MARIS MEZULIS

シグーがデザインしたA Rebours(ア・ルブール)。店内の商品は定期的にリニューアルされる
©MARIS MEZULIS

 Lafayette Anticipationsは2つの道から通り抜けができ、展示会に入場せずとも自由に出入りができるショップA Rebours(ア・ルブール)も館内に併設されている。この内装と什器デザインもシグーによるものだ。うなぎの寝床のように奥に長い空間で、ステーショナリーや雑貨、装飾品など、あまり他店舗では流通しないアーティーな商品を販売する。

 マレ地区は、新しいパリの側面を発信する地区である一方、景観や歴史的価値のある建築の保全地区であるがために、厳格な建築基準を遵守することもプロジェクトの最優先の条件であった。それならフランス人建築家を起用した方が手っ取り早かったようにも思えるが、建築事務所OMAによってこうした柔軟な空間構成が完成したことには、大きな意味がある。伝統と将来の交差点となるこの場所で、クリエーターたちの新たな創作活動にふさわしい場が求められていたからだ。歴史を塗り替えていく立場を担うギャラリー・ラファイエット企業財団による、今後の文化プログラムにも大きな期待が寄せられている。

画像: 43,rue Sainte-Croix-de-la-Bretonnerieに面したLafayette Anticipationsの入り口 PHOTOGRAPHS: ©LAFAYETTE ANTICIPATIONS

43,rue Sainte-Croix-de-la-Bretonnerieに面したLafayette Anticipationsの入り口
PHOTOGRAPHS: ©LAFAYETTE ANTICIPATIONS

Lafayette Anticipations
(ラファイエット・アンティシパシオン)
住所:9 rue du Plâtre 75004 Paris
営業時間:月・水・日曜11:00~20:00、木・金曜~22:00
定休日:火曜休
電話:+33 (0)1 57 40 64 17
入場料:8ユーロ(4月30日まで5ユーロ)
公式サイト

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