BY KAORU URATA
パリのファッションウィークが閉幕した3月10日、現代アートやデザイン、ファッションを発信するギャラリー「Lafayette Anticipations(ラファイエット・アンティシパシオン)」がマレ地区に誕生した。
4月30日までグランドオープンニングを飾る展示は、アメリカ人アーティストLutz Bacherによる《The Silence of the Sea》と題された作品だ。 床に散りばめられたスパンコールやガラス開口部に貼られたフィルムが室内に光を拡散させ、壁面には海辺に放置された丸太小屋に風が吹きつける映像が投影されている。音と光のやや非物質的な表現で来場者に建築を体感することを促しており、時折、壁面から迫ってくる強い風の音が空間の立体感を誇張し、臨場感を与える。具象的なインスタレーションや作品の展示とは異なり、どこまでがアーティストによる表現なのか、あるいは建築に取り入れられた効果なのか、その境界をあえて曖昧にさせている点が興味深い。
Lafayette Anticipationsの母体となるギャラリー・ラファイエット企業財団は、創業者でコレクターでもあるムーラン家が2013年に立ち上げたファンドで、330以上の作品を所有する。だが、財団の現在の目的は作品のコレクションではなく、現役アーティストたちのプロジェクト支援にある。このLafayette Anticipationsの完成は、制作と表現を公開する重要なプラットフォームの幕開けといえるだろう。
そもそもこの建物は、今も近隣にある百貨店BHV(ギャラリー・ラファイエットグループ)のために1891年に建立された工業建築だ。当初は倉庫や、百貨店で販売した麦わら帽子を修理するアトリエとして使われ、後に女子養成学校、高等教育育成学校などの教育施設としても機能してきた。このような歴史的背景を持つ20世紀の近代遺産といえる建築が、世界で最も注目されるオランダ出身の建築家レム・コールハースが率いる建築事務所OMAによって、6年の月日をかけて生まれ変わったのである。