BY DEBORAH NEEDLEMAN, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
イギリスのような高度な先進国に暮らしながら、カゴを編むことを生業とする人がいる。彼らは、魚を海から仲買い業者へ、あるいは、じゃがいもを畑から食卓へ運ぶといった実用性や、市場の切実な需要に応えるためにカゴを作っているわけではない。彼らがカゴを編むのは、作り手自身の中にある、より大きなニーズに応えるためだ。
現在46歳になるアンマリー・オサリバンは、もの静かだが自信を内に秘めた女性だ。アイルランドの開放的とは言いがたい田舎町で育ち、競泳選手になった。水中にいる時が一番自分らしくいられるという。14年ほど前、ふとした気まぐれで柳カゴ編みの1日教室に参加した彼女は、カゴ編みが水泳と同じくらいワクワクする体験であることを知った。「私には、どちらも線を描いていく感覚でした」と彼女は言う。「同じ動作をひたすら繰り返して形を作りあげていくーー。それがすばらしく美しいと思ったのです」。たくさんの枝とナイフだけを使って自分の手で何かを作り上げる感覚は、背中を力強く押されるような経験だった。「初めはただカゴを編んでいただけだったのが、自分自身の人生を編むような感覚へと変わっていきました」と彼女は説明する。
6年前、オサリバンは、夫のトム・マックウォルターと子どもたちとともに、イースト・サセックスのルイスという町から近くの田舎へと引っ越した。素材となる植物から製品まで、カゴ編みの一連のプロセスをすべて彼女自身が管理することができるようにするためだ。夫妻は、17世紀に建てられた小さな家を購入し、まるでパッチワークのキルトのように少しずつ手を加えていった。家の周辺には20種類もの柳を植えた。おそらく何百年も前の田舎の職人がそうであったように、オサリバンも作品のための素材に囲まれて暮らしている。それを栽培して収穫し、仕分けして、乾燥や加工も自ら行なっているのだ。
しかし実用性が売りだった先人たちとは違って、オサリバンのカゴは素朴な、手作りの美しさが特徴だ。ナチュラルで、よりシンプルなライフスタイルを喚起する彼女の作品は、ハイエンドな店でも販売されている。昨今、工芸品の価値を見直す風潮が高まっているものの、依然としてカゴ細工は原始的な作業であり、2本の手で1日に作ることのできる数には限界がある(オサリバンの場合、1日にできるのは1つか2つだ)。