近年、ビジネスの“場”やスタイルは大きく変化しつつある。それがもたらすものは効率性やスピードアップだけではない。会員制ビジネス・サロン「kudan house」が志向する、新たなビジネスの感性とは

BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY MAGIC KOBAYASHI

画像: 2階のバルコニーから俯瞰した庭園。以前からある樹木はそのままに、もみじなどの日本の植物を植えている ほかの写真をみる

2階のバルコニーから俯瞰した庭園。以前からある樹木はそのままに、もみじなどの日本の植物を植えている
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 また、日本庭園は、次世代のビジネス・モデルについて考えるきっかけにもなったと話す。
「もっとも参考になったのは、ポートランド日本庭園。ここはNPO法人で、入場料のほか会員からの寄付で成り立っていて、オーナーもいなければ税金もいっさい使われていない。CEOのスティーブ・ブルームさんともディスカッションをしましたが、彼らは積極的に資金集めを行い、安定的に運営し、価値の高いものを提供しているんです。さらにおもしろいのは、会員自身が庭の維持管理をするために働いていること。お金を払って外部の人に作業を発注するのではなく、会員が“学び”として庭を一緒に作っていく。日本庭園に関わることが“生きがい”になり、自然にコミュニティの基盤になって、ひいては社会的な活力になる。この数年、日本でも“CSV経営”という言葉がはやっていますが、ポートランド日本庭園は、まさにソーシャル・ビジネスのお手本です」

 この“CSV経営”とはハーバード大学の教授マイケル・ポーターが提唱したもので、“クリエイティング・シェアド・バリュー(共有価値を創造する)経営”の略語。従来は相反するものとされていた、社会課題に対する活動と企業の営利活動を、同時に取り組もうとする経営アプローチを意味する。

「日本人は、これからますます多くの社会課題と向き合わないといけなくなる。いま、優秀なビジネスパーソンの多くは、そういった課題を解決するビジネス、お金だけでなく“生きがい”も得られるビジネスに目を向けています。その知恵を一緒に出すようなプログラムをより多く実施していきたいし、このサロンからもソーシャル・ビジネスが生まれればいいなと考えています」

画像: 桂離宮にも使われている、伝統的な砂利詰めの技法「あられこぼし」も ほかの写真をみる

桂離宮にも使われている、伝統的な砂利詰めの技法「あられこぼし」も
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画像: 「いつできるの? どう作るの?とスピードを求めると、庭師はいい仕事ができないし、“わかりました、あなたに合わせた庭を作ります”となってしまいます。損得だけを考える主人だと、そういう庭になる。きっとこの庭にも、僕の姿や心が形として表れているんだろうと思います」と吉川氏 ほかの写真をみる

「いつできるの? どう作るの?とスピードを求めると、庭師はいい仕事ができないし、“わかりました、あなたに合わせた庭を作ります”となってしまいます。損得だけを考える主人だと、そういう庭になる。きっとこの庭にも、僕の姿や心が形として表れているんだろうと思います」と吉川氏
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 日本庭園ができたことで、吉川氏や社員の意識にも変化があった。「“まあ、いいか”“今すぐ決めなくてもいいか”と思えることが多くなった気がします」と笑う。平凡な言い方だが、空間にリラックス感が生まれたということだ。

「そのリラックス感が、意外と大事なんです。ビジネスは、急いでやらないといけないこと、スピードが求められることだけではありません。時間をかけてゆっくり考えたり、誰かと同じ空間を共有したほうが、じつは大きな成果が得られることも多くある。むしろ、そういったスピード、効率化を優先する仕事は、近い未来、AIやロボットがとって代わるだろうし、また、速さを重視して情報処理的にものごとを判断すると、AさんでもBさんでも、誰がやっても同じ答えになってくる。そもそもビジネスは差別化がポイントですから、逆効果ですよね?」

 企業が、経営ミーティングや、顧客とのコミュニケーションを深めるイベントのためにこのサロンを貸し切ることもある。そして、その多くが“まあ、いいか”の効果を実感して帰るという。「人間はリラックスしていないと、時間をかけて対話できないもの。そういう意味でも、日本庭園や、もともと邸宅、つまり生活空間であったこの建物は、これからのビジネスにとって有意義ですし、ここだからこそ生まれる“ひらめき”やアイデアに期待したいと思います」

kudan house
住所:東京都千代田区九段北1-15-9
※会員制。会員資格はプログラムに参加すること。実施予定のプログラムは、公式サイトにて随時公開
公式サイト

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