BY HIROYA ISHIKAWA
近年、東京を中心にバーがブームとなり、カクテルが話題になることも増えている。そんな流行の最中だからこそ、より存在が際立つカクテルがある。それが1924年に誕生した、帝国ホテル初のオリジナルカクテル「マウント フジ」だ。
当時、世界一周旅行のクルーズ船で欧米の一行が来日した際に、帝国ホテルで行われた祝賀パーティのウェルカムカクテルとして考案されたもので、雪化粧をまとった「富士山」に赤い太陽が昇る瞬間をイメージしたといわれるドラマチックな見た目が日本を象徴し、記憶にも残る一杯となっている。
時代が変われどもレシピは不変で、オールド・トム・ジンをベースに、レモンジュースやパイナップルジュース、卵白、生クリーム、さらにはサクランボを原料としたリキュールのマラスキーノがブレンドされている。一般的にジンベースのカクテルはドライジンを使うことが多いのだが、「マウント フジ」では甘口のジンを使用。キリッとしたキレのよさを秘めながらも、甘い香りや優しい口あたりが印象的なカクテルに仕上げられている。そして、完成から100年もの間、ビバレッジリストに掲載されつづけ、国内外のさまざまな人たちに愛され、飲み継がれてきた。
この伝説的なカクテルは、現在、帝国ホテル 東京内のバーで提供されている。なかでもメインバーである「オールドインペリアルバー」は、「マウント フジ」誕生の前年に完成した建築家フランク・ロイド・ライトによる「ライト館」の意匠が、現本館の中で残されている場所だ。店内の一角を彩る幾何学模様の壁面やバックバーに施されたテラコッタは「ライト館」当時のものである。それゆえ、そこかしこに「ライト館」の面影が感じられる。そんなノスタルジックな雰囲気をたたえた「オールドインペリアルバー」で「マウント フジ」とともに過ごす時間は、まるで100年前にタイムスリップしたかのよう。カクテルの特徴的な味わいはもちろん、幾多の歴史を重ねてきた帝国ホテルだけが醸す、深淵なるロマンにも酔いしれたい。
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF IMPERIAL HOTEL
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