トム・ハンクスが短編小説集『Uncommon Type』を上梓。私小説のような作品の逸話から、ハリウッド、ひいてはアメリカでいま起こっている問題についてまで、胸の内を語った

BY MAUREEN DOWD, PHOTOGRAPHS BY JAKE MICHAELS, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

画像2: ハリウッドNo.1のナイスガイ
トム・ハンクスが語る
エンタメ、政治、歴史<前編>

 インタビューを受けながらランチの寿司を食べているハンクスは、ユニクロのジーンズ、ジェームス・パースの黒いTシャツ、ラルフ・ローレンのブーツ、スモーキー・ベアのロゴが施されたフィルソンの腕時計というカジュアルな格好だ。デヴィッド・ヤーマンの銀のブレスレット、彼の子どもたちのイニシャルからとった“School of Hard Knocks(人生経験)” と刻印された卒業記念指輪は、「すばらしい妻」からのプレゼントだという。そして、ルルレモン(※訳注:女性に人気のフィットネス・ウェアブランド)の暗い色調のジャケットを羽織っている。

「へんな目で見ないでくれよ」と彼はおどけて言った。「事情を説明すると、このあいだの日曜日、妻のリタが『外出しましょう』と言ったんだ。僕はトレーニングウェアを買わなきゃいけなかった。ルルレモンのお店に入ったら、これが目に入った。着た感じは悪くなかったから『これって、男性が着ても問題ないのかな?』聞いたんだ。そしたらみんなが問題ないというから、こうしてルルレモンを着ているというわけさ」

 ハンクスは今、引き締まった体型をしている。「自分が2型糖尿病であることが2013年にわかって、それに合った食生活に変えると、驚くほどの効果があったんだ」。
 役作りで大幅な体重の増量と減量を繰り返したことで糖尿病になったと、記事で読んだことがある。しかし、彼は私にこう言った。「それは違う。地球でいちばん最低な食生活が原因だよ。これまでずっと、砂糖の入ったものばかり食べてきたんだから」

 ハンクスは「有名俳優という特権の誘惑を感じないわけではない」と認める。 プライベートジェットに乗ることは「まさにクラックやコカインのように中毒性がある」と。それでも、ハリウッドというバブルとは関係のない普通の人々について書くことには、特に苦労しなかったと言う。
「ここサンタ・モニカでの生活は、『The Real Housewives of Beverly Hills』(※訳注:ビバリーヒルズに住むリッチなマダムたちの実態をドキュメンタリータッチで描いた人気テレビ番組)みたいなものじゃない。四六時中、あんなふうにリップグロスをつけている人なんていないし、しょっちゅうレストランに行っては『あなたの娘のバート・ミツバー(ユダヤ人の女の子の成人式)に私を招待してくれなかったわね』なんて口論をする人もいない」

 このほかにも、4人の友だちが宇宙船を作って月まで飛んで行くという、未来を舞台にした空想的な物語もある。タイプライターだけでなく、ハンクスは長年、月まで飛んで行くということに取りつかれていたらしい。この短編小説が2014年に『ニューヨーカー』に掲載された際、2,3人の評論家がこれに飛びついた。オンライン・マガジン『Slate』の評論家は「可もなく不可もないこの物語が、出版という狭き門のボディーガードに制止されることなく通り抜けることができたのは、ハリウッドでのキャリアのおかげだ」と主張した。米紙『シカゴ・トリビューン』のライターは、妬みの気持ちを認めつつ、ハンクスを「道楽半分の素人」と評した。

「そういうコメントは読まないんだ。読んでもろくなことがないからね」と彼は言う。「『あなたの本を称賛する書評を読みましたよ』とか、『あなたの映画をすばらしく高く評価した記事だ』とか誰かに言われて実際にその評論を読んでみると、『これのどこが“高い評価”なんだ。あらゆる角度で卑劣な攻撃ばかり、話の核心さえつかめていないじゃないか』ということになる。僕はもう61歳だし、自分がどうよかったかとかどうダメだったかとか、そんな記事を読んでいる暇はないんだ。僕が新聞に名前の載るような有名人であるのは事実だし、そんなことは勝手に彼らに論じさせておけばいい」

 私は彼に、「PEGOT(ピューリッツァー賞・エミー賞・グラミー賞・アカデミー賞・トニー賞をすべて受賞すること)」を狙っているのかと聞いてみた。
 彼は笑って言った。「ときにはダメもとで挑戦し、下手でもやり続け、自分の殻をやぶり、誰かに批判され、いろいろなものを捨てて、さらに努力を重ねる。そうやって人は上達するんだ。私もそうやってきた。ほら、この短編集もそうさ。ちゃんと正しいフォーマットで書かれているけど、完璧というわけじゃない」

「ニューヨーク・タイムズ・ブック・レヴュー」のコーナーでも答えているように、ハンクスは大の読書家で、自宅には大量の本がある。そんな人物はハリウッドでは変わり者なのではないだろうか?
「まわりには、僕はテクノロジー嫌いだと思われているんじゃないかな。なぜなら現在のコンテンツ産業の流行は、ポッドキャストとか、Huluやネットフリックスで配信される10話完結のドラマに移ってきているから」と彼は言う。「ディナーパーティの席で、僕が『南北戦争に関するかなり興味深い本を読んだんだ』なんて言うと、まわり人たちは『ふーむ、なるほど…』と言って次の話題にいってしまうんだ」

 彼が高校時代にいちばん好きだった本は、トルーマン・カポーティの『冷血』だ。今はアラン・ファーストやフィリップ・カーが書く、冷戦時代のスパイストーリーが好きだという。殺人や陰謀がテーマの小説には興味がない。サイコパスの気持ちになりきって小説を書くこともない。ふだんの彼と同じように、サーフィンをしているときの気分で書くという。

ハリウッドNo.1のナイスガイ トム・ハンクスが語る エンタメ、政治、歴史<後編>

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