トム・ハンクスが短編小説集『Uncommon Type』を上梓。私小説のような作品の逸話から、ハリウッド、ひいてはアメリカでいま起こっている諸問題まで胸の内を語った

BY MAUREEN DOWD, PHOTOGRAPHS BY JAKE MICHAELS, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 タイプライターや月面旅行への偏愛。複雑な家族構成の中で過ごした少年時代――。初めての自作短編小説集について、幼少期の体験を交えながら語ったトム・ハンクスのロングインタビュー。前編に続き、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・スキャンダル問題にはじまり、トランプ大統領などの時事問題やアメリカの歴史にも言及した後編をお届けする。


画像1: ハリウッドNo.1のナイスガイ
トム・ハンクスが語る
エンタメ、政治、歴史<後編>

 ハンクスはアメリカの好感度No.1俳優だ。バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で彼が演じた、ハロウィーン・モンスターのデヴィッド・S・パンプキンズという役でさえ広く愛されている。自分の書いた短編小説の登場人物も同じように、好感がもてるキャラにしなくてはならないというプレッシャーを感じたかと聞いてみた。

「『好感度モンスターになりきれ! いいか、おまえに求められてるのはそれだけなんだ』ってね」。ハリウッドの業界全体の声を代弁するかのようにハンクスは唱えた。この話題に関しては、彼は少し自己防衛的になり過ぎているようだ。

「暗い役は演じたくないとかいう問題じゃないんだ」と彼は言う。「ほら、映画で死刑執行人を演じたことだってある。するとジャーナリストは『ええ、でも “親切な死刑執行人役”でしたよね』って言う。人々を処刑することを仕事にする人間を演じるのは、決して楽しいものではなかったよ。『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)で人の頭を銃で打ち抜く役を演じたとき、彼らがなんて言ったと思う? 『そうですね。でもあなたがその人の頭をぶち抜いたのには、もっともな理由があったからじゃないですか』だって。僕は、007の映画で『ミスター・ボンド、おまえを殺す前に、この施設を案内してやろうか?』とか言うような悪役を演じることには興味がない。登場人物みんなに意味があって、筋が通っているストーリーが好きなんだ。それぞれの人物の動機も見えてくるし、理解できる。『この薬草をゴッサム・シティの上水道に混入して、街をオレのものにしてやる!』とかいう悪役を理解できるかい?」

「僕がぜひ演じてみたいと思う悪役の、もっともわかりやすい例は、シェイクスピアのリチャード三世と『オセロ』のイアーゴーだな。リチャード三世は体に障害があって自分が人と違う扱いをされることにうんざりしていた。彼はイギリスの王座に就くチャンスをつかんだけれど、一方のイアーゴーは出世の機会を逃してしまった。彼らには共感できる。だけど、おおかたの悪役の設定には疑問を感じるんだ。いったい何を演じればいいと思う? 僕が『アベンジャーズ』の悪役のロキを演じるなんて、そんなの誰も見たくないだろう? だけど、南北戦争時代に大統領だったジェファーソン・デイヴィスは演じてみたいと思う。いちばん考えなくちゃならないのは、僕の顔つきなんだ。僕を見て謎めいたものを感じる人はほとんどいないだろうからね」

 コメディドラマ『ラリーのミッドライフ★クライシス』の主演と脚本家を務めたラリー・デヴィッドのように、街行く人を怒鳴りつけたいと思うことはないのだろうか。常にみんなから“良い人”であることを求められるのはラクではないはずだ。

「いい人を演じているんじゃなく、僕がそういう人なんだよ! 申し訳ないけど」と彼は笑いながら言う。「僕は誰に対しても公平に接していると思うよ。だけど、ひとつ言わせてもらえば、僕の優しさにつけ込むような真似はしないほうがいい。その瞬間に、その人とのつき合いは終わるから。これに関しては、事実であることを証言できる人はいくらでもいるよ。僕はバカじゃないし、それほど甘くもない。少なくとも自分ではそう思っている。自分に優しい部分があることは知っている。生まれながらの気質でもあるし、今までの経験の結果でもある。それはそれでいいんだ。でも、時と場合による。何かにイライラしていてそれを振り払いたいとき、この一日をどう過ごしたいのか? この時間を僕はどう過ごしたいのか?ってことさ。ただとにかく、僕の優しさにつけこむことだけはしないでほしい。あとで痛い目に遭うことになるからね。僕はハッキリとものを言うし、誰かを怒鳴りつけたこともある。下品な言葉だって使うよ」

画像2: ハリウッドNo.1のナイスガイ
トム・ハンクスが語る
エンタメ、政治、歴史<後編>

 罵声や下品な言葉について話題から、それとなくハーヴェイ・ワインスタインのスキャンダル(※訳注:ミラマックスの創設者である映画プロデューサーのワインスタインが、長年にわたり女優などにセクシャル・ハラスメントを行っていた事件)に話を移してみた。ハンクスが『虚栄のかがり火』('90年)で演じたのシャーマンはこんな気分だっただろうか。

「僕はハーヴェイと仕事をしたことがないんだ」と、長い沈黙のあとでハンクスは言った。「だけどなんというか、うなずけるところがあるよね」
 何十年にもわたるセクハラ行為を知りながら、ハリウッドはどうして彼をかくまったのか?
「それはとてもいい質問だ。こういうことで権力者が排除されないのは、社会の本質的な問題のような気がするね」と彼は言う。「僕はハーヴェイを叱るような立場ではないけど、何かが堕落していたことは明らかだ。『私は60~70年代に育ったので……』なんて言い訳は通用しない。僕だって同じ時代に育っているしね。だから、そうだな、権力のある立場にいる者が、その権力をどう扱うかの問題だと思うんだ。立場上許されるからといって、八つ当たりしたり、部下を惨めな気持ちにすることが大好きな人を、僕はいくらでも知っているよ」。

 そういう人は自分の実績ゆえに、そういう権利を持っていると思い込んでいるのだと彼は言う。「ウィンストン・チャーチルだったか、イマヌエル・カントだったか、オプラ・ウィンフリーだったか忘れたけど、誰か偉大な人が言っていたよ。『金持ちになり権力を握ると、その人のそもそもの人となりが表れる』って」

「今回の件は、まさにその典型なんじゃないかな。金持ちで有名人で権力者だからって、太ったバカ野郎だとは限らないからね。おっと、失礼、いまの『太った』は忘れて。でもごぞんじの通り、ハーヴェイをちょっとしたバカ野郎だと言ったのは僕が最初じゃないからね。哀れなハーヴェイ。いや、同情しちゃいけない。こんなふうにおおやけになるまでに、ここまで時間がかかったことも驚きだね。僕も記事を読んでいて、『アシュレイ・ジャッドになんてことをするんだ!おい、僕は彼女が大好きなんだぞ。やめろって。フェアじゃない。いい加減にしろ!』って思ったよ」

 私はハンクスに、ハリウッドやシリコン・バレーという場所が、今もなお激しい性差別者や闊歩する性犯罪者に対する沈黙の共謀がまかり通り、女性の権利に対して暗愚な世界であるのはなぜかと尋ねてみた。
「僕は、テレビ史上最も偉大な番組のひとつが『マッドメン』だと思っているんだ。なぜなら、舞台となっている時代(性差別やセクハラがまかり通っていた60年代のニューヨーク)へのノスタルジーとか愛着がまったくなかったから」とハンクスは言う。「登場人物はみな歪んだ性格で、残酷で意地悪な人たちだったけれど、『ちょっと待て、こういう問題っていまも続いているんじゃないのか? 何か手を打つべきじゃないのか?』と思わせる。それは、驚くべきことでなはくて、悲劇なんだ。そして、そうした問題はいまも起こっているかって? 信じがたいことだけれど、(ここでハンクスは汚い言葉を使った)私はそうだと思っているよ」

 アメフト選手のキャム・ニュートンの、女性スポーツ記者に対する女性軽視発言問題に関して聞いてみたところ、ハンクスは彼にやや同情的だった。「そういう軽率な行為を私も犯したことがあるからね」と彼は言う。「『やあ、モーリーン。元気かい、スウィーティ?』とか、『まあ、だからさ、スウィートハート』、『ああ、ドール・ベイビー。その質問にはどう答えていいかわからないな』みたいなことを平気で言う世代から僕自身そう遠いわけではないし、うっかり自分もそうしてしまっていた可能性もある。仕事場のルールをつねに学ぶ必要があるということだね」

 

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