困っている子どもは、大きな声を上げて困っていることを世に伝える術すべをもたない。声なき声に耳を澄まし、手を差し伸べる。そんな活動をそれぞれの形で続ける4人にノンフィクション作家の佐々涼子が話を聞く

BY RYOKO SASA, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA

 もし子ども時代に、自分がそこに存在することを無条件に祝福されたとしたら、人はより強く、より幸福に生きていけるのではないだろうか。「生まれてきてくれてありがとう」「そこにいてくれてありがとう」。本当は誰もがそう言ってもらいたいのに、そう言われる機会はとても少ない。

画像: 10年前、気づいたら自転車を走らせ近所の児童相談所を訪れていたという市ケ坪さゆりさん。「そのときは為すすべもないことに気づき、ただ引き返しました。そこから何をするか考え、児童養護施設を訪ねました」 ほかの写真をみる

10年前、気づいたら自転車を走らせ近所の児童相談所を訪れていたという市ケ坪さゆりさん。「そのときは為すすべもないことに気づき、ただ引き返しました。そこから何をするか考え、児童養護施設を訪ねました」
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ファッション業界でPRの仕事をしている市ケ坪さゆりさんは、「イチゴイニシアチブ」というチームを立ち上げて、都内や神奈川県の児童養護施設の子どもたちの誕生日や七五三を祝う活動を続けている。着付け、メイク、カメラマンなど、人脈を生かして、その道のプロに声をかけて、子どもたちにありったけのおめかしをさせてお祝いをする。「美容師さんがきっちりと日本髪を結ってくれたりすると、みるみるうちに子どもたちの顔が輝いてくるんです」。 それを見守る職員や、シスターが喜びの声を上げる。

画像: 七五三をお祝いされる女の子たち。「着物は背中でも語れるのがいいですね。帯には人の気持ちもこめられている」 PHOTOGRAPH BY JOJI WAKITA ほかの写真をみる

七五三をお祝いされる女の子たち。「着物は背中でも語れるのがいいですね。帯には人の気持ちもこめられている」
PHOTOGRAPH BY JOJI WAKITA
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「やっぱり日本髪っていいわね」「可愛くなったわね」。隣に併設されている老人ホームのお年寄りが「おめでとう!」と、声をかけることもある。ここにいる子どもたちは、虐待や貧困で家で暮らせなくなるなど、さまざまな事情を抱えている。それでも大人が祝福すれば、この日は特別な一日になる。

 ある女の子は家族が会いにくると知って、朝から落ち着かない。母親は、きれいに着飾った娘の姿を見るなり、ぎゅっと抱きしめ涙を流した。身寄りのない子は親代わりの職員と晴れがましく写真に収まる。親も自分で支度できないのは無念だろう。しかし、親ができないのなら社会が祝ってあげればいいではないか。そう市ケ坪さんは語る。子どもは昔からそうやって育てられてきたのだからと。

画像: キリ スト教系の施設で行われた七五三 PHOTOGRAPH BY JOJI WAKITA ほかの写真をみる

キリ スト教系の施設で行われた七五三
PHOTOGRAPH BY JOJI WAKITA
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 市ケ坪さんは語る。「活動を始めたのは2008年に起きた秋葉原通り魔事件に激しい衝撃を受けたのがきっかけです。当時娘がまだ小さくて、ある日突然自分の家族が奪われてしまうかもしれない恐怖に襲われました。でも、一方で加害者のことも考えたんです。社会に疎外されて育てば、その恨みが、社会に向けられてしまうこともあるんじゃないかって」。自分に何ができるかはわからない。それでも、彼女は手探りで、子どもたちのためにできることをしようと決めた。

画像: 一期とは仏教用語で生まれてから死ぬまでの間、一生を指す。「どんな境遇に生まれても生を全うし、幸せに生きてほしい」と市ケ坪さん。NPOなどにはあえてせず、自由な活動として続けているが、マーク代わりに苺のブローチを着用することも ほかの写真をみる

一期とは仏教用語で生まれてから死ぬまでの間、一生を指す。「どんな境遇に生まれても生を全うし、幸せに生きてほしい」と市ケ坪さん。NPOなどにはあえてせず、自由な活動として続けているが、マーク代わりに苺のブローチを着用することも
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私たちはみなそれぞれ違った色の苦しみを背負って生まれてくる。それぞれ才能もハンデもさまざまだ。だが、私たちはみな愛情を受ける価値があり、私たちはみな、社会に帰属する価値がある。そして、生まれてきたこと、存在していることに祝福を与えられてもいいはずなのだ。市ケ坪さんの「おめでとう」は、不完全で、苦しみの多い人生を歩く、われわれ大人に対しての「おめでとう」でもある。「おめでとう。私たち」

 

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