BY RYOKO SASA, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA
もし子ども時代に、自分がそこに存在することを無条件に祝福されたとしたら、人はより強く、より幸福に生きていけるのではないだろうか。「生まれてきてくれてありがとう」「そこにいてくれてありがとう」。本当は誰もがそう言ってもらいたいのに、そう言われる機会はとても少ない。
ファッション業界でPRの仕事をしている市ケ坪さゆりさんは、「イチゴイニシアチブ」というチームを立ち上げて、都内や神奈川県の児童養護施設の子どもたちの誕生日や七五三を祝う活動を続けている。着付け、メイク、カメラマンなど、人脈を生かして、その道のプロに声をかけて、子どもたちにありったけのおめかしをさせてお祝いをする。「美容師さんがきっちりと日本髪を結ってくれたりすると、みるみるうちに子どもたちの顔が輝いてくるんです」。 それを見守る職員や、シスターが喜びの声を上げる。
「やっぱり日本髪っていいわね」「可愛くなったわね」。隣に併設されている老人ホームのお年寄りが「おめでとう!」と、声をかけることもある。ここにいる子どもたちは、虐待や貧困で家で暮らせなくなるなど、さまざまな事情を抱えている。それでも大人が祝福すれば、この日は特別な一日になる。
ある女の子は家族が会いにくると知って、朝から落ち着かない。母親は、きれいに着飾った娘の姿を見るなり、ぎゅっと抱きしめ涙を流した。身寄りのない子は親代わりの職員と晴れがましく写真に収まる。親も自分で支度できないのは無念だろう。しかし、親ができないのなら社会が祝ってあげればいいではないか。そう市ケ坪さんは語る。子どもは昔からそうやって育てられてきたのだからと。
市ケ坪さんは語る。「活動を始めたのは2008年に起きた秋葉原通り魔事件に激しい衝撃を受けたのがきっかけです。当時娘がまだ小さくて、ある日突然自分の家族が奪われてしまうかもしれない恐怖に襲われました。でも、一方で加害者のことも考えたんです。社会に疎外されて育てば、その恨みが、社会に向けられてしまうこともあるんじゃないかって」。自分に何ができるかはわからない。それでも、彼女は手探りで、子どもたちのためにできることをしようと決めた。
私たちはみなそれぞれ違った色の苦しみを背負って生まれてくる。それぞれ才能もハンデもさまざまだ。だが、私たちはみな愛情を受ける価値があり、私たちはみな、社会に帰属する価値がある。そして、生まれてきたこと、存在していることに祝福を与えられてもいいはずなのだ。市ケ坪さんの「おめでとう」は、不完全で、苦しみの多い人生を歩く、われわれ大人に対しての「おめでとう」でもある。「おめでとう。私たち」