BY RYOKO SASA, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA
子どもが幸せであるためには、家族も幸せであることが必要だ。NHKでアナウンサーを務めていた内多勝康さんは、53歳で早期退職をして、医療的ケアの必要な子どもたちと家族のための短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーとなった。
彼は、アナウンサー時代に、医療的ケアの必要な子どもたちの置かれた現状をテレビ番組の取材で知った。子どもが病気になると、まず治療が行われる。しかしそれが終わると、人工呼吸器や胃ろうなどの処置をされた子どもたちのケアは家庭へ引き継がれ、家族がケアを行わなければならない。制度のはざまで、医療的ケアを必要とする子どもたちを受け入れる幼稚園は少なく、学校へ上がってもケアは四六時中家族が担う。親は時に仕事を失い、家の中に子どもと取り残されることとなる。
「夜も2時間おきに痰の吸引をしなければならないなど、夜も眠れず、自分が体調を崩しても病院にすら行くことができない。家庭も崩壊し、母親がひとりで看ている場合も多い。想像を絶する状況です。こんなことが世の中にあるのかと衝撃を受けました。最悪の場合、虐待も起こりうる。これは社会が支えなければならないと考えました」。その5年後、イギリスの子どもホスピスをモデルにした、家族一緒にくつろぎながら滞在できる「もみじの家」ができる。そのタイミングで誘いがあり、新しい世界に飛び込んだ。
「もみじの家」では、最長9泊10日、家族と、あるいは子どもだけでも宿泊することが可能だ。看護師、介護福祉士のほか、幼い子どものために保育士がいるのが特徴で、連携してケアにあたり、家族はその時間で用事をすませ、ゆっくりと休養することができる。「多くの子どもたちは幼稚園に通い、友達と過ごし社会性を育みますが、医療的ケアの必要な子どもたちはそのチャンスに恵まれない。しかし、ここに来ると、彼らにとって、楽しく、安心できる家族以外の居場所がある。それはとても大事なことだと思っています」。課題もある。「このような施設を支える制度がないため、寄付でまかなっている状況です。それでは安定的な運営が難しい」
建物の大きな窓からは、9月の光が溢れるほど差し、紙で作った小さなモビールが風に揺れていた。この日5人の小さな子どもたちが、ペットボトルのおもちゃで遊んでいた。竿(さお)にそれがぶら下げられており、ふたについたひもを引っぱると、紙で作ったコスモスの花びらが落ちる仕組みだ。ポンと軽い音がしてふたが開き、花びらがはらはらと子どもたちに舞い落ちて、スタッフの拍手が起きる。その花びらに秋の光が反射し、子どもたちの顔がほころんだ。
「あなたは、ここでくつろいでいい。幸せでいていい」。そんなメッセージが私の上にも降り注いでくるようだった。24時間、365日介護の日々を送ってきたお母さんは、この施設にたどり着き、一杯のお茶を勧められただけで、ほっとした表情になるという。このような施設が全国にできるのが願いと話す内多さん。経済効果や生産性というものさしをはずした場所に溢れていたのは、ただ、掛け値なしに慈しまれることの豊かさだった。