BY REIKO KUBO
香港で大ヒットを記録した映画『淪落(りんらく)の人』の日本公開に先駆けて、主演の香港スター、アンソニー・ウォンが来日した。『インファナル・アフェア』や『エグザイル/絆』で輝いた名優は、この『淪落(りんらく)の人』で香港のアカデミー賞である金像賞5度目の受賞を果たした。また監督のオリヴァー・チャンも同賞の最優秀新人監督賞、ヒロイン役のクリセル・コンサンジも最優秀新人賞と三冠を射止めた。
ウォンが演じるのは、突然の事故で半身不随となり、車椅子で一人暮らしをする初老のリョン・チョンウィン。妻と離婚し、最愛の1人息子はアメリカ留学中。次々とヘルパーをクビにしてきた頑固者のチョンウィンのもとに、サム・リー演じる元同僚が若いフィリピン人女性の家政婦エヴリン(クリセル・コンサンジ)を連れてくる。広東語の話せないエヴリンとは意思の疎通も難しく、チョンウィンはイライラを募らせるが……。
「僕の母は昔、香港の西洋人のうちで家政婦の仕事をしていたことがあり、子どもながらに母の苦労を見て育った。だから僕も、我が家でお手伝いさんをお願いするようになってからは、彼女たちが働きやすいように気を遣っているつもりなんだ」
家政婦を雇う側、雇われる側の気持ちを知る彼だからこそ、両者の関係の中にも通い合うものを描きたかったのかというと、そうでもないと言う。
「実際、僕の母は晩年10年ほど車椅子生活を送っていたから、介護する側、される側の動作や気持ちもわかっていたつもりだ。でも、出演のきっかけは母のことよりも、脚本がとてもよく書けていたから。そしてオリヴァー・チャン監督と初めて会って話を聞いたとき、とても誠意に溢れた人で、夢を実現させようと頑張っている姿に胸を打たれた。だから僕も暇だし、時間もたっぷりあるし、人助けになればと思って。どんな映画として完成するかなんて考えてもいなかったんだ」