BY KANA ENDO
いま、良質なシスターフッド作品が充実している理由
シスターフッドとは、1960年代から70年代にかけての女性解放運動でよく使われた言葉で、男性優位の社会を変えるため、階級や人種、性的指向を超えて女性同士が連帯することを表すもの。2010年代になるとSNSの普及により女性の地位向上ムーブメントが高まり、2017年に起こった#METOO運動をひとつのきっかけにして、声を上げる女性たちがさらに増えた。そんな時代背景も手伝い、女性たちが手を取り合って進もうとする姿を描くシスターフッドを題材とした作品が数多く制作されるようになってきている。
たとえライバルであっても女性は共闘することができる――『スキャンダル』
2016年に「FOXニュース」で起こった事件を元に描かれた作品。ニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソンは番組の降板を言い渡され、CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで告発する。当初グレッチェンの告発に賛同する女性は少なく、孤独な闘いを強いられることに。だが、同じ経験をした女性が徐々に声を上げ出すと、FOXの看板キャスターであるメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)も、自身の経験を思い起こし、やるせない気持ちが高まってくる。一方、キャスターへの道を貪欲に狙っている若手社員のケイラ(マーゴット・ロビー)はロジャーの部屋を訪ねると、立ち上がってポーズを取るように言われーー。
この作品の特筆すべき点は、ケイラ以外のほとんどの主要人物が実名で描かれ、実際のニュース映像なども用いられているところだ。ニコール・キッドマンとシャーリズ・セロンは特殊メイクを施し、グレッチェンとメーガン本人に驚くほど似ており、まるでドキュメンタリーのようでもある。ストーリーはグレッチェン、メーガン、ケイラの3人の視点で描かれるが、年齢もキャリアも立場もバラバラの彼女たちが最後は手を取り合い共闘していく。これこそがシスターフッドの鍵だ。連帯するもの同士が仲良しであることは必要なく、考え方の違いはあるが、それぞれの立場でできることをし、支え合うことで、社会をより良く変えられる力をもっているのがシスターフッドの強さなのではないだろうか。このグレッチェンの告発の翌年である2017年に、#METOO運動の発端になったワインスタイン事件が明るみに出るが、#METOO前夜に起きた彼女の勇気ある告発が、社会を変えるきっかけになったのは言うまでもない。
友情より強い絆で繋がったバディ映画の新機軸――『ハスラーズ』
デスティニー(コンスタンス・ウー)は新入りのストリッパー。クラブ内で孤立し思うように稼ぐことができず、トップダンサーであるラモーナ(ジェニファー・ロペス)に教えを請うことに。ラモーナはデスティニーにダンスや客への振る舞い方を教え、意気投合していく。金融業界の好景気も手伝い、みるみるうちに金を稼げるようになったデスティニーは、姉妹のように仲良くなった仲間たちと幸せを味わっていた。そんなときリーマンショックが起こり、客足は激減。恋人との間に子供ができたデスティニーはクラブを辞めることに。
数年後、離婚したデスティニーは再びクラブで働き始め、ラモーナと再会する。だがクラブは衰退しており、金融危機以前のように稼ぐことはできず、ラモーナはある計画を立てる。それは金融マンの元客に連絡し、ドラッグを混ぜた酒で朦朧とさせ、クラブでクレジットカードを使わせる“釣り”という手口。これが大成功し、再び裕福な生活へと返り咲く。しかし次第に関わる人数が増え収集がつかなくなり、ついに警察沙汰になってしまう。
この作品は、ニューヨークのストリップクラブで働く女性たちによる実際の事件を元にしたクライムエンタテインメントだ。ラモーナが「私達は真面目に働いても生活は豊かにならないのに、身勝手なマネーゲームでリーマンショックを起こした男たちはなぜ今も豊かな生活をしているのか。だから私があいつらから奪う」と憤るシーンがある。もちろん彼女たちが行ったことは犯罪行為ではあるが、女性たちをモノとして扱い、蔑んできた男性たちが罰を受けないのは理不尽に思える。被害にあった男性は、騙されたと気づきつつも、世間体を気にして名乗り出ない。つまり彼女たちは男から金を奪うだけでなく、その虚栄心を利用し、マチスモをも崩壊させたのだ。男性たちに客体化されていた自らの価値や生き方を取り戻していく彼女たちの姿は爽快だ。美しいダンスにポップな音楽など、一見娯楽性が高いように見えるが、男性優位社会への皮肉をたっぷり含んだ社会派の一面もある作品。
褒め合うことで高め合う、学園コメディを新境地へ導いた『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
モリー(ビニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・デヴァ−)は大の親友で卒業を控えた高校生。モリーはイェール大学、エイミーはコロンビア大学と、ふたりとも超名門大学に進学が決まっている。彼女たちはいわゆるガリ勉で、高校生活を勉強に捧げ、恋愛や遊びにうつつを抜かすクラスメートたちを見下していた。だが卒業前日、そんな一見チャラいクラスメートたちも実はハーバードやスタンフォードに合格していたことを知り、「私達と違って遊びほうけていたはずなのになぜ!?」と愕然とする。そこで、モリーとエイミーは高校生活を取り戻すべく、初めてのパーティーへ繰り出そうとするのだが。
タイトルにある“ブックスマート”とは、本で勉強した知識はあるけれど、実体験を伴っていない人という意味で、まさにモリーとエイミーの高校生活を表している。ぱっと見、学園コメディと思われるかもしれないが、これまでの学園モノとは全く様相が異なる作品だ。まず登場人物はZ世代で環境問題や社会問題に意識が高い。モリーは史上最年少で最高裁判事になることを目指しており、部屋にはRBGことルース・ベイダー・キンズバーグの写真が貼られ、レズビアンであるエイミーの書棚にはシャーロット・ブロンテの作品が並ぶ。また、アメフト部のリーダーと可愛いチアリーダーがカップルで、というステレオタイプな設定もなく、やんちゃな男子役をアジア系俳優が演じ、LGBTQの生徒を揶揄するくだりも一切ない。さらに、恋愛にフォーカスせず、女性同士の友情を描いている点も今どきだ。
モリーとエイミーは相手のことを本人よりも熟知しており、常に「あんた最高にイケてる!」とお互いを褒め、自信を高めあっていく。ガリ勉だがユーモアのセンスもファッションセンスも抜群。負け組としてではなく、イケてるクラスメートたちも実は彼女たちと仲良くなりたいと思っていた、という描かれ方が観ていて嬉しくなる。セクシュアリティや人種、ルッキズムなどあらゆるステレオタイプから脱却し、人を個として尊敬すること、同性同士が手を取り合うことの大切さを、今の時代の高校生が教えてくれる。
※今回紹介している3作品はすべて2022年3月29日時点での配信作品です
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