時間という要素を特に大切に思っていると語る、世界的ガーデンデザイナー・ピィト・アゥドルフの日常の一片を紹介する

INTERVIEW BY ELIZABETH TYLER, PHOTOGRAPH BY RICARDO LABOUGLE, TRANSLATED BY YUMIKO UEHARA

ピィト・アゥドルフ(ガーデンデザイナー)の7:00 A.M.

 私のデザインはいつも植物から始まる。どんな場所でも、まずはその気候と土壌で育ちやすい品種について学ぶのだ。利用できる植物の候補が揃ってから、構造や季節性を検討する。ガーデンデザインは絵の具ではなく植物で描く作品だ。全体の構成や草木の成長を念頭に置いて進めていく。

 時間という要素を特に大切に思っている。展覧会なら数カ月だが、植栽は数年かけて進化していくものでなければならない。たとえばここ、スペインのメノルカ島にハウザー&ワース(註:スイスの大手画廊)が新たに建設したギャラリーの場合、夏の数カ月間が最も観光客が多いのだが、その時期には地中海沿岸の自生植物は大半が最盛期をすぎている。そこで想像力をはたらかせ、ユーフォルビア、エキウム、ヘリクリサム、アガパンサスなど、独特の構造とテクスチャーをもつ植物の取り合わせを考案した。このイメージをベースに、初年度以降も現地に足を運び、様子を確かめ必要な調整を判断する。永遠に完成はしないのだ。

画像: アゥドルフ、77歳。スペインのメノルカ島のギャラリー、ハウザー&ワースにて、2021年11月28日に撮影

アゥドルフ、77歳。スペインのメノルカ島のギャラリー、ハウザー&ワースにて、2021年11月28日に撮影

 1970年代、両親が経営するレストランの仕事を離れて園芸店で働いたことがきっかけで、私は植物と造園にすっかり心を奪われた。当時の植物園といえば、草木を人工的に飾り立てた、かしこまった場所ばかり。庭はもっと環境に寄り添ったものになるはずじゃないか、ひとりでに奥行きが生まれるものじゃないか、そんなふうに思えてならなかった。そこで妻のアンニャと一緒に、1980年代に、オランダのフメロ村で育苗園を始めた。園芸と造園の仕事を同時進行していたおかげで、入手困難だった多年生植物など、幅広い草木と触れる機会がもてた。ヨーロッパ各地の園芸家との縁もできた。土地に適した品種を使い、できるだけ自然な造園をするという手法で、花だけではない、植物のさまざまな面を知ってもらう庭造りをつねに心がけている。冬のシードヘッド(註:咲き終わって種が残った花がら)や、そのシードヘッドをついばむ小鳥にも、美は宿る。私が手がけた庭園の多くは──ニューヨークでは、建築事務所ジェームズ・コーナー・フィールド・オペレーションズとデザインスタジオのディラー・スコフィディオ+レンフロとともに、ハイライン公園をデザインした──公共の場所だ。そうした場所で人と自然との触れ合いが生まれている。庭や草木という存在が人間にとってどれほど大切か、理解が広まりつつある。

 私自身は、自分にできることで最善を尽くすだけだ。私が受けてきたような影響を生み出せているかどうかはわからない。ただただ着想に没頭しているだけという気もする。きわめて合理的に生態学に沿った発想をするが、心の一番深いところにある思いを植物が引き出してくれるので、迷いや不安はない。これでいいと思えるまで手を動かすだけだ。芸術家と職人が交ざり合っているようなものだね。仕事をするためには依頼主が必要だが、私にしかできない、私らしい仕事をしている手ごたえがある。ガーデンデザイナーの仕事はとても手間がかかるものだが、その手間こそが美しく、複雑さの中に芸術が生まれる。

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