今年、開場50周年を迎えたPARCO劇場。数々の名作を生み出した演劇の中心地で、年間を通して記念上演が行われている。現在上演中の三谷幸喜の傑作『笑の大学』を通して見えてきた演劇の真の魅力とは──

BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

 1973年5月に渋谷PARCOに誕生したPARCO劇場は、西武劇場という名称で開場。1976年にPARCO西武劇場、1985年にPARCO劇場へと改称し、2020年1月、建替えを経て渋谷PARCOに新生PARCO劇場としてオープンし、今年で50年。アニバーサリーイヤーである2023年は、1月5日、正月お馴染み公演となった『志の輔らくごin PARCO』からスタート。『PARCO劇場開場50周年記念シリーズ』は年間を通して続き、ラインナップは以下の通り。

『志の輔らくご in PARCO 2023』 1月5日~1月31日
『ラヴ・レターズ』 1月12日・18日・27日
『笑の大学』 2月8日~3月5日
『ミュージカル「おとこたち」』 3月12日~4月2日
『ラビット・ホール』 4月9日~25日
『ラヴ・レターズ 』 4月12日・19日・21日・23日
『夜叉ヶ池』 5月2日~23日
『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』 6月6日~25日
『桜の園』 8月8日~29日
9月  蓬莱竜太 演出作品
10月 宮本亞門 演出作品
11月 G2 演出作品
12月 栗山民也演出 『海をゆく者』

 常に時代を察知し感じとり、演劇を通してある種の文化を生み出し続けてきたPARCO劇場らしい、新作、名作を織り交ぜた12公演。日本の演劇界を潤わせる劇作家、演出家を見出し、手を取り、生み出してきたPARCOプロデュースならではの、珠玉のラインナップだ。

画像: 二人芝居の究極の面白さを、内野聖陽(右)と瀬戸康史(左)が演じてみせる

二人芝居の究極の面白さを、内野聖陽(右)と瀬戸康史(左)が演じてみせる

『笑の大学』作・演出の三谷幸喜は、「当時まだ西武劇場という名前だったPARCO劇場で、ニール・サイモンの『おかしな二人』を観ました。はじめて舞台が面白く感じ、自分でもやってみたいと思いました。あの日、あの作品を観ていなかったら、いま僕はここにいなかったと思います。舞台作品を作るきっかけを与えてくれたPARCO劇場の50周年に、僕自身大好きな作品の『笑の大学』で参加できることを大変嬉しく思っております」と、祝いのコメントを寄せている。

画像: シンプルなセットだからこそ、演者の生き生きとした表情が冴えわたる

シンプルなセットだからこそ、演者の生き生きとした表情が冴えわたる

『笑の大学』はパルコ・プロデユース公演として青山円形劇場にて1996年初演。同年、読売演劇大賞“最優秀作品賞”に輝き、翻訳劇としてロシア、韓国、中国、フランスでも上演され、大いなる賞賛を得た。今回、日本では1998年以来の上演。伝説の三谷作品、内野聖陽、瀬戸康史での二人芝居ということで前評判は高く、PARCO劇場公演のあとは、新潟、長野、大阪、福岡、宮城公演を経て、4月13日より兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで16日まで。その後、4月20、21日に、沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと大劇場にて、長きにわたった上演の大千穐楽を、いよいよ迎えることになる。

 PARCO40周年記念公演『ホロヴィッツとの対話』、『国民の映画』、2020年リニューアルオープン記念シリーズでは三谷文楽『其礼成心中』、PARCO MUSIC STAGE『三谷幸喜のショーガール』、『大地(Social Distancing Version)』と、三谷作品との繋がりは強く、その三谷幸喜が50周年イヤーに贈った作品が『笑の大学』だ。

画像: 警視庁検閲官・向坂陸男を演じる内野。生真面目だが人情深い人物を、渋みを増した存在感で魅せる

警視庁検閲官・向坂陸男を演じる内野。生真面目だが人情深い人物を、渋みを増した存在感で魅せる

画像: 瀬戸が演じるのは劇団の座付作家・椿一。舞台に情熱をかける青年を、ユーモアと哀愁を交えて表現

瀬戸が演じるのは劇団の座付作家・椿一。舞台に情熱をかける青年を、ユーモアと哀愁を交えて表現

 戦時色濃厚な昭和15年。劇団「笑の大学」座付作家・椿一(瀬戸)が、警視庁検閲係・向坂陸男(内野)のところに、新作喜劇の上演許可を得にやってきたところから始まる。非常時に喜劇など断じて許さないと言う向坂。一蹴され、とぼとぼと帰る作家の背中…というのは安に想像できる構図だが、向坂を内野のような百戦錬磨の名優が演じること、椿を内野と対峙することができる技量を持つ瀬戸であることの意味が、『笑の大学』にはある。

 上演中止に追い込もうとする向坂は、内容の変更を椿に申し付ける。向坂の要求は、部外者の無謀の連発。しかし、何が何でも上演許可を得ようと椿は、その要求をうまく取り込みながら、その壁を乗り越えるようと作家魂が滾るかのごとく、書き直しに挑戦。

画像: シリアスなシチュエーションのもと、笑いを誘うシーンを絶妙に織り交ぜて観客を魅了する

シリアスなシチュエーションのもと、笑いを誘うシーンを絶妙に織り交ぜて観客を魅了する

 向坂と椿の丁々発止は、二人で演じる落語を味わうかのように濃密かつ快濶。観客の感性はフル回転させられて、心地よい。至って生真面目に、次第に大汗を掻き、髪を振り乱しながら己の役目を全うしようと奮闘する対極の二人。真逆の目的の達成をそれぞれ目指しながら、それぞれに新しい世界が見えてくる……その瞬間を客は目撃する快感。これぞ演劇、これぞナマの味わい、なのである。劇場でしか体感しえない興奮を得て、劇場をあとにすることができるのが『笑の大学』だ。

画像1: PARCO劇場50周年に寄せて──
三谷幸喜作品『笑の大学』が伝える
劇場という濃密な空間
画像2: PARCO劇場50周年に寄せて──
三谷幸喜作品『笑の大学』が伝える
劇場という濃密な空間

 この二人の役者を静なる能力で支えるのは、舞台となる会議室の趣、小道具の質の高さとセンス。こういうところに抜かりないのも、PARCOプロデュース作品に信頼を寄せる理由のひとつである。

 作品を愛し、大事に扱い、ぬくもりあるプロデュースは、近年ではSNSを活用して、客との交流も図る。Twitterにて、#PARCO劇場50周年おめでとう に寄せられた多くの人の劇場、作品との思い出を読むと、共に演劇を愛し、劇場の再開を願いながらコロナ禍を乗り越えた同士たちを愛おしく思う。

画像: 約2時間の作品はセットチェンジ一切なし。至ってシンプルな会議室の空間で、この上なく濃密な時間を体感することができる

約2時間の作品はセットチェンジ一切なし。至ってシンプルな会議室の空間で、この上なく濃密な時間を体感することができる

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