多くのファンが待ち望んでいた野田秀樹の2年ぶりの最新作、第26回公演『兎、波を走る』が6月から東京、大阪、博多で上演される。2度目の出演となる高橋一生をはじめ、松たか子、多部未華子といった時代を映した人気の俳優たちが野田のもとに集結するのにはどんな理由があるのだろう

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA, HAIR&MAKE- UP BY MAI TANAKA, STYLED BY TAKANORI AKIYAMA

画像1: 野田秀樹の作品創りの現場で
高橋一生が見出したものとは

 2021年、NODA・MAP作品初出演の『フェイクスピア』で、高橋一生は、読売演劇大賞で最優秀男優賞を受賞した。その演技に対して評価を得た作品は、これまで幅広い分野でキャリアを積んできた彼にとって、どんな経験であり、どんな意味を持つのか。新作の稽古が始まってから中盤にさしかかった5月の下旬、稽古後にインタビューに応じた彼に、まずはこの問いを投げかけてみた。 
「舞台を演ってきてよかったなと思いました。演劇はこれまでも数多く演らせてもらってはいますが、白井 晃さんとなら演ってみたいという気持ちがあったので、白井さんとは何度もご一緒させていただきました。これからどうしていくべきかと考えていたときに、タイミングよく野田さんから何度かワークショップにお声がけいただいて、それが『フェイクスピア』の時でした。その作品を通して、演劇を演ることが、改めて面白いと思えました」

 演じ手に面白いと実感させる魅力ある作品の脚本と演出を手がけた野田秀樹。高橋はどんなところに惹かれたのだろう。
「NODA・MAPの作品は4次元的というか、演劇でなければできないだろうという表現の方法で創られていると思います。芝居の仕方として“役作り”に関することをさせなくて、普通なら“これは役が繋がらない”ということも、野田さんは一つの役として創っていきます。時間軸や人格、3次元的には捉えづらいものをやっていらっしゃるというイメージを抱いていました。実際に参加して思ったのは、とても楽しいということ。僕は“役作り”というもの自体に懐疑的だったので、こういうふうに演らせてもらえるんだ!と、面白さを感じました。俳優とは、そもそも作家の方が伝えたいメッセージをどれだけ体現できるかというところがあります。だから僕は表現の道具として使ってもらえるなら使って欲しいという感覚しかなかったんですが、それが野田さんの考えと合致していたんじゃないでしょうか。これでいいんだ、間違っていなかったんだということを実感できました。演劇界の第一戦で活躍されてきた方が、僕が感じていることに限りなく近しいことをずっと体現されていたんだということが、確認できてよかったと思っています」

画像2: 野田秀樹の作品創りの現場で
高橋一生が見出したものとは

 演劇で演じることへの確固たる考えを持ち、経験豊富な高橋だからこそ、野田の現場で受け取ったものがどんなものだったかを自らの視点で言葉にしてくれる。そんな高橋がこれまで経験してきた演劇作品の中で、“あれを演ったから、今の自分がある”と思えるような作品を挙げてもらった。 
「白井晃さんの『4four』と『マーキュリー・ファー』と野田さんの『フェイクスピア』だと思います。“演出家から引き出してもらったか”と聞かれることがありますが、僕はこれまでの作品で引き出してもらったと思ったことはないんです。もともと自分の中にあるものをたまたま見つけてくれて大きくしてくれただけで、僕自身は最初から自覚してやっていること。だから僕を覚醒させてくれたという感覚はあまりありません。むしろ、どうしてわかってくれないんだろうと思うことのほうが多かった。だからこそ白井さんと野田さんは、そのことに気づいてくれた人だと思っています」
 
 高橋は作品と向き合ったとき、演じるときにはすでに自分で見出しているものがあって、それを表現している。自らの表現についても、譲れないこだわりがあった。 
「僕の表現の方法はすごくマイノリティだったと思います。それを見て、“マイノリティでいいよ”っていってくれるのが、演劇においては白井さんと野田さんでした。例えば“怒る”という表現をするとき、一般の人が見てわかる“怒る”ということを演ってくれといわれます。僕はそういうのがあまり好きではないので、それは演りたくないとなってしまうんです(笑)。別の方法で人って怒れないかなという感覚がずっとありました。それに気づいてもらいたかった。“怒る”という表現を一般的な怒り方で演じることには、演る意味がないんじゃないかと思っていました。奇をてらう必要はないんですが、そんな僕の中から出てくるものを掬い上げてくれるのが、やはり白井さんと野田さんでした」

画像: シャツ¥74,800/イーライト(ナイスネス) イーライト TEL. 03-6712-7034 パンツ¥37,400/エンケル(ヨーク) エンケル TEL.03-6812-9897 靴¥52,800/ギャラリー・オブ・オーセンティック(フット・ザ・コーチャー) ギャラリー・オブ・オーセンティック TEL. 03-5808-7515

シャツ¥74,800/イーライト(ナイスネス)
イーライト
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パンツ¥37,400/エンケル(ヨーク)
エンケル
TEL.03-6812-9897

靴¥52,800/ギャラリー・オブ・オーセンティック(フット・ザ・コーチャー)
ギャラリー・オブ・オーセンティック
TEL. 03-5808-7515


 いわゆる“役作り”ではないアプローチで作品に臨む高橋が、今回の『兎、波を走る』の稽古での時間の使い方として何に一番時間を割いているのだろう? 彼には積み重ねた日々の稽古を通して見出したことがあった。 
「肉体的なムーブが重要になっていくと思っています。台詞が届くように言わなければならないんですが、作品として語っていることを語らなければならない局面では、言葉だけでなくムーブメントが必要になってきて、自分の動きひとつで何か、注目させたり、注目させなかったり……。そういう役割が課せられているような気がして、動きに関しては重要視しなければならないなと思っています。言葉よりも“生声”に限りなく近い作り物であって、その作り物を体現しなくてはならないときに、ある程度の“動き”が重要になってくるんです。内実を含んだものが表に出てくるようなものなのですが、ラストに向かってどんどん辛辣になっていくので、その部分の体の使い方を試行錯誤しています」

 言葉と肉体の動きを生の舞台で表現するのは、まさに演劇の真骨頂。その指揮をする野田秀樹の現場は、何がほかの現場と違うのだろう。
「まず、野田さんは板に上がりますから(笑)。演出家の方は交通整理をするのが上手い方が多いと思うんですが、“一度とっちらかしてみようよ”と提案できる人は少なくて、さらに板に上がる方となるとほとんどいません。白井さんは伴走してくれて、すべて責任を取る方。野田さんは責任も取ってくれますし、全部をひとまとめにして舞台にまで立ってしまうんです。稽古場で何回もトライしている野田さんを目にすると“やっぱり取り繕っていない。全く嘘がないな”と思います。“演出家としていなきゃ”という虚勢を張ることもなく、僕たちと同等の位置にもいますし、演出家としてコンダクトする位置にもいる方です。野田さんの演出のもとでその世界を体現していく現場は、プロフェッショナルが揃っているんだなと実感しました。当たり前のことなんですが、それが演劇においてなかなかないことだと僕は思います」

 その現場には、野田秀樹への揺るぎない絶対的な信頼があった。カンパニーが一つの方向に向かって懸命に創作に挑んでいるからこそ、多くの観客を魅了する作品が誕生するのだ。

画像3: 野田秀樹の作品創りの現場で
高橋一生が見出したものとは

高橋一生(ISSEY TAKAHASHI)
1980年生まれ。ドラマ、映画、舞台と多彩な役を演じ、幅広い分野で活動。舞台『天保十二年のシェイクスピア』で第45回菊田一夫演劇賞、NODA・MAP『フェイクスピア』で第29回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。現在、ドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』の制作陣が再集結した映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が公開中。

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』
作・演出:野田秀樹
出演:高橋一生 松たか子 多部未華子
秋山菜津子 大倉孝二 大鶴佐助 山崎一 野田秀樹

東京公演
会場:東京芸術劇場プレイハウス
期間:2023年6月17日(土)〜7月30日(日)
※全公演にて当日券あり

大阪公演
会場:新歌舞伎座
会期:2023年8月3日(木)〜8月13日(日)
※7月8日(土)チケット一般発売

博多公演
会場:博多座
会期:2023年8月17日(木)〜8月27日(日)
※7月8日(土)チケット一般発売
公式サイトはこちらから

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