創業160周年を迎える老舗ジュエラー、ブシュロン。その歴史をひも解けば、時代の先端を捉え続けた革新の精神に触れられる。メゾンの想いを込めて制作されたショートフィルムも必見だ

BY HIROKO NARUSE

 パリ・ヴァンドーム広場にブティックを構えた最初のハイジュエラーとして知られる「ブシュロン」は、今年創業160周年を迎える。由緒ある老舗なのにもかかわらず、コレクションがいつも新鮮で魅力的、タイムレスに輝いているのはなぜだろう。時代をリードする女性像が表現されたメゾンの代表作を中心に、ブシュロンならではのエピソードを通して、その秘密を読みといてみよう。そこから、公開中のオリジナルショートフィルムに通じるキーワードが明らかになる。

「ヴァンドーム広場26番地」
 ブシュロンは1858年にフレデリック・ブシュロンによって、当時のパリのラグジュアリーの中心地、パレ ロワイヤルで創業。先見の明の持ち主だったフレデリックは、1893年に貴族の館が集まるヴァンドーム広場の26番地にブティックをオープンした。そのブティックは、それまでサロン形式でジュエリーを販売していたブシュロンにとって、現代的なジュエラーへの進化を意味する象徴的な存在だった。ヴァンドーム広場とラ・ぺ通りに面した、美しい光が当たる角地を選んだ彼は、アトリエもブティックの上階に移設。最高の環境を得て、フランスの宝飾界をリードするハイジュエリーを生み出していった。

画像: 1914年頃のヴァンドーム広場のブティック

1914年頃のヴァンドーム広場のブティック

「女性の心まで解き放つ」
 ブシュロンのジュエリーは、他となにが違っていたのだろうか。まず最初にあげられるのが、現代に通じる軽さとしなやかさを持ち合わせた、動きのあるデザイン。たとえば1889年のパリ万博でグランプリを受賞した、クジャクの羽根に着想を得た“プリュム ドゥ パオン”ネックレスが、その象徴だ。フレデリック・ブシュロンとアトリエチーフのポール・ルグランが創った、さらりと首に巻きつけたようなネックレスには留め金がなく、スマートにデコルテを飾ると同時に、身に着ける女性を束縛から解放する。伝統と格式を重んじる宝飾界では、画期的な作品だった。その大胆なフォルムから、このデザインのネックレスは“クエスチョンマーク”との愛称で呼ばれるようになったという。

画像: 1883年制作「プリュム ドゥ パオン」ネックレス

1883年制作「プリュム ドゥ パオン」ネックレス

「まるで布のようにしなやかに」
 デリケートな表現がきわだつ、ブシュロンのジュエリー。それには、フレデリックの生い立ちが大きく関わっている。繊維業を営む家に生まれた彼は、幼い頃から布に親しんできた。その柔らかさ、心地よさ、軽快さを、ブシュロンはゴールドや宝石で表現した。このようなクチュール的な要素を持つジュエリーは、他のメゾンにはないものだ。現在“デリラ”と呼ばれている、ゴールドをしなやかなスカーフのように仕立てたネックレスの原型は、1883年に誕生。パーティで出会った女性のシルクのスカーフを拾った時に、瞬時に恋に落ちたロシアの皇太子が、その素晴らしい瞬間を永遠のものにするためにブシュロンにオーダーした、というエピソードが残っている。

画像: 1883年制作 スカーフ状のゴールドメッシュのネックレス PHOTOGRAPHS: COURTESY OF BOUCHERON

1883年制作 スカーフ状のゴールドメッシュのネックレス
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF BOUCHERON

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