傑作のブロードウェイミュージカル「RENT」が日米合作キャストで上演中、連日話題を呼んでいる。来日したオリジナル版初演時の演出家・マイケル・グライフに話を聞いた

BY NATSUME DATE, PHOTOGRAPHS BY MAIKO MIYAGAWA

画像: Michael Grief(マイケル・グライフ) 1959年生まれの演出家。ニューヨーク・ブルックリン出身。『RENT』(1996)をきっかけに『グレイ・ガーデンズ』(2006)、『ネクスト・トゥ・ノーマル』(2009)、『ディア・エヴァン・ハンセン』(2016)、『ヘルズ・キッチン』(2024)など、ブロードウェイのヒット・ミュージカルを次々手掛ける一方、オフ・ブロードウェイの良質な作品にも開発時から積極的に取り組む。『RENT』や『ヘルズ・キッチン』も、小規模なオフ・ブロードウェイ公演が評判を呼び、ブロードウェイ入りを果たしたものだ

Michael Grief(マイケル・グライフ) 1959年生まれの演出家。ニューヨーク・ブルックリン出身。『RENT』(1996)をきっかけに『グレイ・ガーデンズ』(2006)、『ネクスト・トゥ・ノーマル』(2009)、『ディア・エヴァン・ハンセン』(2016)、『ヘルズ・キッチン』(2024)など、ブロードウェイのヒット・ミュージカルを次々手掛ける一方、オフ・ブロードウェイの良質な作品にも開発時から積極的に取り組む。『RENT』や『ヘルズ・キッチン』も、小規模なオフ・ブロードウェイ公演が評判を呼び、ブロードウェイ入りを果たしたものだ

 アメリカ勢キャストに山本耕史とクリスタル ケイが加わった、英語ヴァージョンによるブロードウェイミュージカル『RENT』の上演が始まった。その初日のカーテンコールにサプライズで登場したのが、作詞・作曲・脚本のジョナサン・ラーソンと共働して『RENT』を世に出した1996年初演時の演出家、マイケル・グライフ。いまや、ブロードウェイで今シーズンだけでも3作品(『ヘルズ・キッチン』『ノートブック』『酒とバラの日々』)もの演出を手掛けるビッグネームが、この日のために来日した。

「日本に来られる機会はいままで限られていたので、とってもうれしいです。作品も、とても順調な仕上がりですね。私が『RENT』にかかわったのは、直近では2018年に米FOXテレビで放映した『RENTライブ』がありますが、このオリジナル・ヴァージョン演出の舞台を観るのは、確かブロードウェイの最終公演(2008年9月)の時以来。そのせいかものすごく懐かしくて、さまざまな思い出がこみ上げてきました。今回のメンバーによるプロダクションも、登場人物どうしの対話がしっかりと為され、互いにいい影響を与えあっていて、非常にいい舞台になっている印象です。“お互いをケアし合う”ということが、この作品の肝ですからね」

画像: マーク(山本耕史)とロジャー(アレックス・ボニエロ)

マーク(山本耕史)とロジャー(アレックス・ボニエロ)

  山本耕史という俳優が、1998年に日本初演の『RENT』でマーク役を演じて以来26年間、この役に並々ならぬ情熱を注ぎ続けてきたことも、山本自身から直接聞いたという。
「彼が人生において『RENT』にどれだけ影響を受けたかという話を伺って、心揺さぶられましたよ。うれしいですね。今回の舞台でもっともユニークさを感じたのも、マーク役の山本耕史さんの存在感でした。まず観客のみなさんが耕史さんのことを大好きなのが伝わってきて、観客が彼を通して他の登場人物を紹介されてゆく展開が、非常にスムースに行われていました。マークは、つねに観客とつながっている役割があるし、この日米ハイブリッド・ヴァージョンのホストとしても、完璧な人選だと思いました」

「演技におけるマークは、自分自身のことを抑えて他者に奉仕する精神を持つ人物なので、そこが表現できないとフラストレーションが溜まるんですが、耕史さんのマークは、たとえばルームメイトのロジャーが、恋人のミミに対して責任を負えない自身を責める姿を見て、まるで自分のことのように深刻に受け止めていた。同時に、マーク自身もままならない問題をいろいろ抱えていてつねに不安に駆られているわけですが、その葛藤も手に取るように伝わってきました。英語のせりふ? 彼が英語を母語としない俳優であることなんて、まるで感じませんでしたよ」

画像: 1996年初演時より“多様性”を語るパイオニア的な作品「RENT」。「属性ではなく、固有性を尊重してこその多様性です」(マイケル・グライフ)。(※写真は、2024年の東京公演より)

1996年初演時より“多様性”を語るパイオニア的な作品「RENT」。「属性ではなく、固有性を尊重してこその多様性です」(マイケル・グライフ)。(※写真は、2024年の東京公演より)

 1990年代のニューヨーク・イーストヴィレッジを舞台に、ボヘミアンの若者たちをリアルに描いた『RENT』は、ブロードウェイ・ミュージカルにおいて“多様性”を前面に押し出した点でも、実に画期的だった。マークはストレートの白人で、マークの元カノのモーリーンは白人で、黒人の女性弁護士ジョアンと付き合い始める。マークのルームメイトのロジャーは白人で、恋に落ちる相手のミミはブラック/ブラウンの女性。ミミの元彼ベニーは黒人シス男性で、彼らの友人コリンズは黒人のゲイ男性、というように、基本的な性的指向と肌の色の組み合わせが、実に多彩なのだ。今回、マーク役をアジア系の山本が演じたことで、さらにヴァリエーションが豊富になった感がある。
「今までアメリカやイギリスで観てきた中では、アジア系のロジャーは観たことがあったけど、マークはユダヤ人のアイデンティティを持つ設定なので、白人系になりがちでした。でも、確かに別の民族性もあり得ますよね。」

「民族性と性的指向の他に、持つ者と持たざる者の組み合わせも重要なんですよ。たとえば、弁護士のジョアンはブラック・アメリカンで、登場人物の中でもっとも恵まれた家庭に育っている人。同じくブラック・アメリカンのコリンズは哲学者で、教育水準がみんなの中で随一、というように、一般的にイメージされがちな設定を裏切るということも必要だと考えています。属性ではなく、固有性を尊重してこその多様性ですから」

 30年近く前から多様性を訴えてきた先達の言葉に、目からウロコの気づきと確信を得た。できることなら世界中のレント・ヘッズ(熱狂的な『RENT』ファンのこと)に、この山本マークを観ていただきたい。

日米合作 ブロードウェイミュージカル『RENT』

出演:山本耕史 アレックス・ボニエロ クリスタル・ケイ チャベリー・ポンセ他

<東京公演>
~2024年9月8日(日)
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11F)
問合せ先:キョードー東京
TEL. 0570-550-799(平日11:00-18:00/土日祝10:00-18:00)

<大阪公演>
2024年9月11日(水)~9月15日(日)
会場:SkyシアターMBS(JPタワー大阪6F)
問合せ先:梅田芸術劇場
TEL.06-6377-3800(10:00~18:00)

公式サイトはこちら

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