BY MICHINO OGURA, PHOTOGRAPHS BY MISS BEAN, STYLED BY TETSURO NAGASE, HAIR BY TOMIHIRO KONO, MAKEUP BY TOMOMI SHIBUSAWA AT BEAUTY DIRECTION

前身頃は気品ある百合のモチーフがプリントされたシルクマテリアル、アームと背面は端正なストライプのコットンという異素材コンビのシャツ。羽生は風をはらんで揺れるスカーフのようなしなやかさを、マチュアな魅力で着こなす。
シャツ¥242,000(予定価格)/グッチ
グッチ クライアントサービス TEL. 0120-99-2177

羽生は一瞬で集中力を高め、無数の羽根が舞うドラマティックな空間に静かに佇んだ。GGパターンが鮮やかなジャカード仕立てのデニムトップスは手の込んだ一枚。カジュアルさとクチュール感の相反する魅力を内包するアイテムだ。
デニムトップス¥363,000(予定価格)/グッチ

そこにすっと立つだけで、物語の始まりを感じさせる存在感を放つ羽生。深いインディゴブルーからホワイトまでグラデーションを描くデニムのセットアップをスタイリッシュに着こなした。ホースビット ローファーで足もとはドレスアップしたい。
デニムトップス¥363,000・デニムパンツ¥242,000・靴¥152,900(すべて予定価格)/グッチ

ユースカルチャーを感じさせるバンダナプリントのシャツをラフにまとって。エレガントなホースビットローファーを履きながらも、しなやかな舞いで服のもつ世界を表現する。音楽に合わせて、呼吸と身体を意のままに操る魔法のような瞬間を捉えた。

シャツ¥170,500・パンツ¥159,500・ソックス¥27,500・靴¥152,900(すべて予定価格)/グッチ

30歳を迎えて、さらに大人の魅力を放つ羽生。GGパターンが躍るコットンブルゾンをラフにまとう姿もクール。ブレスレットやビットローファーの金具など、煌めきを加えることでよりラグジュアリーかつスタイリッシュにまとめることができる。シックなボストンバッグを相棒に、次なる目的地を目指して迷わず進んでいく彼の姿を思う。
ブルゾン¥368,500・シャツ¥313,500・パンツ¥159,500・ソックス¥27,500・靴¥152,900・ブレスレット¥693,000・バッグ¥412,500(すべて予定価格)/グッチ

はらりと一粒の涙が頰を伝ったのは、風の中でポーズをとった一瞬だった。身につけたファブリックの軽やかさを表現するために用意した背景の布が風をはらんでダイナミックにはためく中で、天をあおいだ美しい横顔は、奇跡的に捉えられた一枚。撮影中もスタッフにやさしく「頑張ろう」と声をかける羽生。クリエイティブな現場をさらに高めようとするプロフェッショナルな姿勢が垣間見えた。
シャツ¥242,000(予定価格)/グッチ
羽生結弦スペシャルインタビュー
早朝、スタジオに向かって撮影スタッフがホテルを出発すると、前日まで晴れていた仙台の空に雪が舞い始めた。氷上の王・羽生結弦と対面する日にふさわしい、ひんやりとした緊張感に包まれる。
グッチのブランドアンバサダーを務める羽生は、この日のために選ばれたルックを身につけると、時に静謐に、時にダイナミックに、洋服のもつストーリーを身体の動きで的確に表現していく。2022年7月にプロに転向し、現役時代よりもさらに幅広いダンスの練習を積み重ねているという彼。陸上での動きはより美しく進化しているように見える。
「それでも、やはり自分はフィギュアスケーターなんだなと思います。ジャズ、バレエ、ヒップホップなどさまざまな勉強もしましたが、陸上でそういう動きの練習をしても、イメージしている疾走感が氷上でないと出せないところもあるので、少しもどかしさを感じたりもします」
羽生は、ソチと平昌の冬季五輪で二度の金メダルに輝き、数多くの栄冠を手にしてきた。それでもなお持てる技術を更新し、"表現"の本質に迫ろうとしている。何が彼を突き動かしているのか?
「平昌五輪が終わって、そこからは苦しい4年間でした。その後、北京五輪が終わってプロに転向してから素晴らしい方々と巡り合うことができて、競技のフィギュアスケートから解き放たれました。僕はどれだけ井の中の蛙(かわず)だったのかとわかったし、まだまだ学ぶことがたくさんあると気づかせていただいたんです」
なかでもクリエイティブな側面を開花させたのは「アイスストーリー」というアイデアだ。出演・制作総指揮、脚本執筆までを羽生自身が務め、演出をMIKIKO(演出振付家)が手がける、氷上を舞台とした壮大なエンターテインメント。彼の言葉を借りると、"「命」とは何か。「わたし」とは何か。そんな途方もない問いへのヒントになりたいと思い、物語とプログラムを綴る"とある。2023年から『GIFT』『RE_PRAY』『Echoes of Life』と3回にわたって行われたツアーは大成功を収めている。
「1回の公演で2 時間半ずっとひとりで滑り続けるというのは、通常のアイスショーでは考えられないこと。でも観客の方々は僕を観に来てくださっているので、すべてのプログラムで感動を伝えたい。いろいろな手法や視点を盛り込んで、ディテールにもこだわって作っています。現役のときのようにひとつのプログラムで見せるというよりも、僕のアイスストーリーの中では、プログラムはひとつのピース。もちろんそれ自体に物語はありますし、完結しているように見えるけれど、さらに次につながっていくものと考えています」
現在進行形で唯一無二の表現を追求する羽生。未来へのビジョンについて尋ねると、少し厳しい表情に変わった。その先については日々の努力を怠ってはたどり着けないものであると言う。彼の誠実さはここにある。
「正直、未来って何だろう、暗くて怖いなと思うところがあります。一歩一歩続けていくしかないし、何かイメージを固めてしまったらそれ以上のものにはなれないし、そこにしかたどり着けないと思うんです。4回転アクセルに挑んだときもそうでしたが、誰にもわからない道を開拓することは怖さと対面すること。その場所が真っ暗に見えるからこそ、多くの可能性があるんだろうなと思って、逆に今はそれを大事にしていますね」
プロ転向を機に取り組んでいることがもうひとつある。2023年3月より羽生が座長を務め、信頼するスケーターとゲストで構成される宮城でのアイスショー『notte stellata』だ。東日本大震災を経験した彼だからこそ、被災地から希望を灯す何かを発信したいと発案したものだ。この取材が行われたのは、狂言師の野村萬斎をゲストに迎えた、2025年の公演を終えたばかりの頃。羽生が2015-16シーズンのフリープログラムとして作った『SEIMEI』(萬斎主演の映画『陰陽師』の曲を使用)と、萬斎が震災への鎮魂の祈りをこめた過去の演目『MANSAIボレロ』という、ふたりの代表作に特別な演出を施し、今年の『notte stellata』ではこの2 演目を披露した。
「『SEIMEI』を作ったからこそ、萬斎さんに出会えました。このプログラムで自分の表現技法の原点が定まった気がします。萬斎さんからは日本人が文化的にもっている呼吸のリズムについて教えていただきました。そこから、自分の表現の中にはいつも日本の文化があることを意識しています。『SEIMEI』を最初に演じた10年前は、萬斎さんのお話を聞いても頭で考えることで精いっぱいでしたが、今回は一緒にお話をしながら、お互いのインスピレーションやイメージする形をマッチさせていくという感覚があった。プロになってからの3 年間は必死にもがいて走ってきたけれど、僕も成長できているんじゃないかなと感じています」
3.11から14年たった今も、被災地への支援を変わらず続けている羽生。復興に対する思いは彼の原動力になっている。
「僕の役割は語り部みたいなものなのかなと思っています。幸いなことに、僕をきっかけに支援してみようと思ってくださる方がこんなにたくさんいるのだと気づいたんです。知名度や蓄積してきた記録といったものを最大限に生かしながら、3.11のことに関してはずっと活動し続けなきゃいけないと思っています。被災者、当事者として当時のことは全部思い出せるけれど、街の風景もどんどん変わっていく。記憶というのは薄れていってしまうものです。元の風景を知っている人間だからこそ、震災を経験したときに、こんなことを大切にしなくてはならないんだと学んだものについては、伝え続けていきたい。自分が演技をすることで、募金活動だけではなく、実際に東北に足を運んでいただいたり、その土地のものに思いを馳せてもらったり、本当に小さなことでもいいので、そういうきっかけであり続けたいなと思っています」

ひとすじの風をまとい、研ぎ澄まされた空気とともに目の前に舞い降りた羽生結弦。その視線は、さらなる高みをめざす――。
シャツ¥242,000・パンツ¥181,500・ソックス¥27,500・靴¥152,900(すべて予定価格)/グッチ
羽生結弦(はにゅう・ゆづる)
プロフィギュアスケーター。1994年12月7日、宮城県仙台市生まれ。4 歳からスケートを始める。2016-17シーズンでは史上初となるGPファイナル4連覇を達成。2014年ソチ五輪、2018年平昌五輪2大会連続で金メダルを獲得。2022年7月にプロフィギュアスケーターに転向後は、初の単独公演『プロローグ』、スケーター史上初の東京ドームでの単独公演『GIFT』をはじめ、『RE_PRAY』『Echoes of Life』『notte stellata』を開催。
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