BY NANCY HASS, TRANSLATED BY G.KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
シッダールト・カスリワルは、インドのジャイプールにある老舗ジュエラー「ジェム・パレス」の跡取り、ムンヌの息子として生まれた。子どもの頃からブラジルの鉱山やパリへのビジネストリップに同行していたという彼は、「ルビーやサファイアのビーズをポンと渡されて、これで遊んでろ」と言われたものだと語る。
カスリワル家は、9代にもわたり宝飾業界で活躍しつづけている。109年の歴史を持つ店とその工房は、ダイアナ元妃、ガーヤトリー・デヴィ王妃(エヴァ・ガードナー並みの美女であったジャイプールの王妃)、ロックスターのミック・ジャガーなどのために、華麗なジュエリーをデザインしてきた。2012年にムンヌが脳腫瘍により54歳で亡くなると、友人からは「シド」と呼ばれる33歳の息子が、デザイナーになる。父ムンヌの功績で、インドの高級ジュエリーは、かつてヨーロッパの老舗メゾンにしか与えられなかったような国際的な評価を得るようになった。また、ムンヌは、スピネルなどあまり注目されなかった宝石に脚光を浴びせた。シドは、2015年にムンバイに新しいブティックをオープンした。彼は、インドの伝統的なイメージとモダンなセッティングの技術の融合を目指している。
「そろそろ身を固めてほしい」という母親の思いを明るくかわしながら、人を惹きつけるチャーミングな魅力にあふれるシドは、途方もないレベルの宝石と最高のパーティを求めて世界中を飛び回っている(最近の収穫は、ラスベガスのアンティーク・ショーで見つけた古い10カラットの天然ダイヤモンドだそうだ)。旅行中でもなく、インドにもいないときは、マンハッタンのアッパーイーストサイドにあるアトリエにいる。このタウンハウスのスイートには深紅の布が張られた調度品がしつらえられ、きらめくジュエリーの数々をのせたベルベットのトレイを並べ、彼はクライアントをもてなすのだ。「私はこうなるべく育てられたんですよ」と言う。「これ以上の人生なんて想像できないですね」
(写真左)「私たちはジャイナ教徒なので、動物を崇め、モチーフとしてデザインにも取り入れています。孔雀のイヤーカフや、ダイヤモンドとルビーを用いたエナメルのインコの指輪など」
(写真中央、右)「父はカエルが大好きで、ふざけてるような表情が気に入っていたようです。この指輪は20年ほど前にデザインされたもので、今でもアメシストなどさまざまな宝石を使って作っています」
「カスリワル家は、このアンティークのミニチュア絵画を何枚か持っています。リスの尻尾の毛一本で作られた筆で描かれているんですよ」
(写真左)「父のムンヌは、史上最も才能のあるジュエラーのひとりだったと思う。父が仕事に取り組む姿は、魔法を目のあたりにしているようでした。手もとにあるのはスピネルです」
(写真右)「エメラルドとダイヤモンドと真珠が施されたターバン用のピンは、いつの日かくるであろう私の結婚式のために、父が2年かけて作ってくれたもの」