ハンドルを握り続ける
ラルフ・ローレン

Ralph Lauren Is Still Behind the Wheel
驚くべき数のヴィンテージ・カーを蒐集する、NYファッション界の大御所ラルフ・ローレン。貴重なコレクションを前に、クルマに寄せる情熱を語った

BY GUY TREBAY, PHOTOGRAPHS BY BENJAMIN NORMAN, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI (RENDEZVOUS)

「私は子どもの頃、自分の自転車を持っていなかったんだ」。とある午後、ラルフ・ローレンはブロンクス北部、モショル・パークウェイの質素な中流家庭で育った少年時代を回想してこう語った。

 私とローレンは今、約4500㎡もの総敷地面積を持つビルの中にいる。ウェストチェスター郡の郊外、ベッドフォード・ヒルズ中心部からは少し外れた、ソウ・ミル・リバー・パークウェイからやや入った場所だ。ここにローレンは広大な不動産を所有している。ネイルショップやオフィス用品店といったありふれたショップが入った小さなモールの駐車場を通り抜けたところで、ビルの周辺はよくあるオフィス街のように見える。以前に一度だけマスコミのひとりが訪れたことを除けば、このビルの場所と実態はバットマンの秘密基地“バットケイブ”並みに秘密にされてきた。

 ここには、“数億円の価値がある車輪のついた乗り物”、すなわちローレンの自家用車がおかれている。少年の頃に持てなかった自転車への憧れを補ってあまりあるコレクションだ。このインタビューの数日後、2017年の9月12日には、2018年春夏ファッションウィークのイベントのひとつとして、エディターや評論家、ブロガー、写真家、インフルエンサーたちがここに集められ、コレクションのプレゼンテーションと着席形式のディナーパーティが開催された。しかし招かれたゲストの多くは、クルマに関していえば自分の運転手の電話番号以上の知識を持っていない面々だったと言って間違いないだろう。

画像: ラルフ・ローレンはニューヨーク州のベッドフォード・ヒルズに多層階のガレージを持つ。ここには、値段をつけることができないほど貴重なヴィンテージカーがコレクションされている。1955年製のジャガー「Dタイプ」の前に陣取るラルフ・ローレン

ラルフ・ローレンはニューヨーク州のベッドフォード・ヒルズに多層階のガレージを持つ。ここには、値段をつけることができないほど貴重なヴィンテージカーがコレクションされている。1955年製のジャガー「Dタイプ」の前に陣取るラルフ・ローレン

 黒いカーペットが敷かれたスペースに白い台座がいくつも置かれ、クルマがディスプレイされている。ジッパー付きの黒いつなぎを着て革のベルトを締め、鮮やかな青い靴紐のスニーカーを履いたローレンは、それらのクルマのあいだを歩き回り、一台一台について純粋な愛情を込めて説明を加えた。何台かにはみずから乗り込んで私を狭い車内へ招き入れ、カーボンファイバーの内装や合成樹脂製のハンドルや、その他さまざまな細部を見せながら、「こういったクルマのディテールが、つねに私のデザインに影響を与えてくれるんだ」と言う。

 だが実のところ、クルマの技術的なレベルや工学的な美しさ以上に印象的だったのは、カーコレクション全体が醸し出す富と力の圧倒的なオーラだった。このガレージで行ったプレゼンテーションとパーティを通じて、ローレンは伝えたいことがあったはずだ。それは、ラルフ・ローレンという巨大なブランドを作った男が、少なくともクリエイティブ面で再びハンドルを握ることになった、ということである。急速に変化するアパレル市場の中、時代に追いつこうともがき続けるこの会社の支配権を奪い返す戦いは、一年のあいだ続いた(訳註:2017年2月、当時のCEOステファン・ラーソンが着任1年2カ月で退任した)。経営面においては、ローレンは7月にパトリス・ルーベをCEOに任命した。ルーべは、P&Gでグローバル美容事業を手がけていたものの、アパレル産業は未経験の人物だ。

画像: ローレンは約500名の招待客をこのガレージに招き、ファッションショーと着席形式のディナーを開催した

ローレンは約500名の招待客をこのガレージに招き、ファッションショーと着席形式のディナーを開催した

“高価なおもちゃのコレクション”の総額について尋ねると、ローレンは「金は関係ないんだ」という。「値段をつけるなんてことはしたくない。クルマのコレクションも洋服作りも、今まで私がやってきたことすべては情熱から生まれたもの。そうやってこのビジネスを築き上げてきた。私はこれまで一度も、ビジネスのために机に向かって勉強したことはないよ」

 多くのアメリカ人と同じく、ローレンのクルマに対する思いは感傷的であり、それは子ども時代に端を発している。彼は、父親が乗っていたネイビーブルーの1949年製ポンティアックのテールフィンの形を驚くほど鮮明に覚えている。そのフロントには、いまとなっては政治的に問題がありそうな、ネイティブアメリカンを象ったオーナメントもついていた。

 ローレンが初めて購入したクルマは、イギリス製のクラシックなスポーツカー、モーガンだった。修理費を支払うことができなかったローレンは、やむなくこのクルマを売却したが、当然のごとく、のちに買い戻した。そして今、モーガンはこのベットフォードのガレージの最上階に鎮座している。保管されている80台以上のほかのクルマと同様、キュレーターと専任の整備士たちの手によって入念に整備されている。ちなみに、彼の所有するクルマの多くがマットブラックであることは、好事家たちの間では「本物の目利き」の証だと称賛されているそうだ。

 

This article is a sponsored article by
''.