BY KIN WOO, PHOTOGRAPHS BY JAMIE STOKER, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
「ファッション・イン・モーション」はV&Aの主催するイベントで、デザイナーたちのランウェイショーをより広い層の観客に見せることを目的としている。モリーは、アレキサンダー・マックイーンやグレース・ウェールズ・ボナーといった、このイベントでショーを行ってきた名だたるゲストデザイナーたちに仲間入りすることになった。これまでもアイニックな場所で何度かショーを開催してきたモリーにとっては、その会場リストにV&Aが新たに加わることになる。過去にはロンドンのICA(現代芸術センター)やテート・モダンを彼女の世界観が色濃く出た舞台に変えて、ショーやプレゼンテーションを開催してきた。
今回、V&Aでショーを開催することによって、モリーのデザイナーとしての進化のステージがまたひとつ上がったともいえる。彼女はロンドンでもっとも輝かしい新たな才能のひとりと目されており、チュールとタフタが奇妙なバランスでミックスされた華美で退廃的なドレスは、彼女のシグネチャーとなった。わずか3年のうちに、モリーはザ・ファッション・アワードの若手デザイナーの登竜門「ブリティッシュ・エマージング・タレント」部門に2度ノミネートされて2度目に受賞を果たし、今年度のLVMHプライズのファイナリストにも選出された。
ショーを数日後に控えたモリーは、博物館のお気に入りの場所を再訪し、新たなインスピレーションを求めて資料を閲覧していた。館内の美術図書館では、フランス・ルネサンスやピカソをテーマにした古めかしい香りのする本をパラパラとめくった。「何も思い浮かばないときはここに来て、書棚からふと目に留まった本を引き抜くの。だからここに来るのは、何かしら迷いのあるときかもしれない」と彼女は言う。
セントラル・セント・マーティンズ在学中は(2014年に、自身のブランド立ち上げのため修士課程を中退)、ここで長い時間を過ごした。ただし、ファッションにまつわる書物より、アーティストの評論集や歴史書の方が好きなのだと彼女は言う。確かに、モリーのつくる服には、しばしば歴史的な衣服からの影響が見受けられる。17世紀のナイトガウンやヴィクトリア朝時代のドレスに興味があるといいつつ、本人は「でも、それだけってわけじゃないんだけど」と言う。