BY MASANOBU MATSUMOTO
2018-'19秋冬シーズンのバレンシアガのコレクションは、アーティスティック・ディレクター、デムナ・ヴァザリアにとって特別なものになった。ショー会場の中央には人工の雪山がそびえたち、その斜面をカラフルなグラフィティが埋め尽くしている。
モデルが着用したシャツにプリントされた電話番号は、実際に架電してみると自動音声が流れる専用ダイヤルにつながる。一方、パーカにプリントされたロックバンドは、じつは架空のもの。何が実在し、何がフィクションか。その境界線を揺さぶるようなウィットに富んだ遊び心は健在だ。もはやブランドの定番となったロゴアイテムに関しては、ヴァザリアがチャリティ支援を行う「WORLD FOOD PROGRAMME(国連世界食糧計画)」が選ばれた。元ソビエト連邦の構成国だったジョージアに生まれ、子どもの頃にソ連の崩壊による内戦を経験した彼にとって、食糧難は自身が実際に直面した課題でもある。このコレクションは、ヴァザリアがファッションを通じて伝えたいこと、今の時代にファッションができることで、満ち溢れている。
「特にこのショーは、バックステージでさえも物語のようだった」とヴァザリア。そして彼は、“体験であるショーを記録にとどめるツール”として、ビジュアルブックを作ることを決めた。
ヴァザリアと米国のRizzoli社によって完成された『バレンシアガ ウィンター 18』は304ページにわたり、見応えたっぷりな仕上がりだ。フォトグラファーは、バレンシアガの広告を手がけたこともあるジョニー・デュフォートと、以前ヴェトモンの写真集を担当したピエール=アンジュ・カルロッティの2人。モデルのキャスティングの様子から、ショーのバックステージ、ランウェイ終了後の会場風景など、彼ら2人だから切り取れる、クリエイティブチームとの親密な時間が収められている。
忘れてはいけないのは、このコレクションは多くのジャーナリストやファンにとっても、特別なものだったということだ。初めてウィメンズとメンズのショーが統合され、ヴァザリアは、メゾンのアイデンティティであるアーカイブも着想源にした。とりわけ、ブランドの創設者であるクリストバル・バレンシアガが残した「バスクジャケット」は、3Dボディスキャンニングやデジタルフィッティングなどの新しい技術を駆使してモディファイされた。現代のファッション史に刻むべき出来事が、この本のなかにある。
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バレンシアガ ジャパン
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