BY MASANOBU MATSUMOTO
かつて、ガブリエル・シャネルは、革新的と呼ぶに相応しい、さまざまなものを創り上げた。ファッションの概念を一変させ、現在もメゾンのエスプリを体現しているオートクチュール。また、イランイランやジャスミンなどの天然香料に、20世紀の科学的産物アルデヒドを配合した、かつてない香り「シャネル N°5」。これは、ファッションデザイナーが初めての作り上げた香水でもある。
そして、1932年に発表されたハイジュエリー「BIJOUX DE DIAMANTS(ダイアモンド ジュエリー)」。シンプルに石を並べたジュエリーが主流だった当時、ガブリエルが挑んだのは、星や太陽、羽根をモチーフにしたモダンで詩的なコレクション。そのなかにはブレスレットやブローチなど多様な着用を可能にするものもあり、ハイジュエリーの自由で現代的なスタイルをいち早く打ち出したのが、ほかでもないガブリエルだった。
パリ1区、カンボン通り31番地。その4階にあるシャネルのクリエイション スタジオの扉に、いまも掲げられている「マドモアゼル プリヴェ」の文字ーーそれを冠にした展覧会が、東京、天王洲のB&C HALLで開かれている。会場に並ぶのは、歴史的なピースに加え、今年2月に逝去したカール・ラガーフェルドと新アーティスティック ディレクター、ヴィルジニー ヴィアールによるオートクチュール、「シャネル N°5」のボトル、ガブリエルがデザインしたジュエリーの復刻版など。それぞれのキャプションには、制作時間やそれを手がけた“メティエダール(芸術的な手仕事)アトリエ”の仕事についても記載されており、シャネルのクリエイションの遍歴、そしてそれらを支えてきた職人たちのサヴォアフェール(唯一無二のノウハウ)について、深く知ることができる内容だ。
シャネルにとってアイコニックな5つのカラーで区分けした展示構成も面白い。メゾンを象徴する黒と白。ガブリエルが“命の色”と表現し、コレクションには必ず1ルックは登場させたレッド。彼女が休暇を過ごしたドーヴィルやビアリッツのビーチを想起させるベージュ。そして、ガブリエルの重要なインスピレーション源のひとつであったゴールド。鑑賞者は会場を巡りながら、シャネルのコードの秘密を解き明かしていく。
10代のころにシャネルでインターンを務めていたソフィア・コッポラが、本展のために制作した映像作品も見どころだ。これは、シャネルのアーカイブ映像をコラージュしたもので、ガブリエルをはじめ、カトリーヌ・ドヌーブやマリリン・モンロー、ティルダ・スウィントンなど、メゾンの新旧アイコンが混じり合う。こうした作品や展示内容が、見る者に改めて伝えるメッセージは明確だ。ガブリエル・シャネルの世界は、それを愛する人々の手によって更新され、また新しいインスピレーションに満ちているということだ。
『マドモアゼル プリヴェ展 ー ガブリエル シャネルの世界へ』
会期:〜12月1日(日)
会場:B&C HALL
住所:東京都品川区東品川2-1-3
開場時間:11:00〜20:00(入場は開場の30分前まで)
料金:無料(CHANEL公式LINEアカウントより要予約)
電話:0120-552-735
マドモアゼル プリヴェ展 サイト