BY MICHINO OGURA
スマートフォンを片手にアプリを立ち上げれば、そこには世界中のファッションブランドの最新作がずらりと並ぶ。自分がいる場所も時間も選ばずにショッピングが可能となった今、わざわざ時間を割いてショップに出かけ、丁寧すぎる接客に悩まされながら買い物をするなんてナンセンス? 自分自身ショップから足が遠のくにつれ、ファッション業界は大きな分岐点に立っているのでは、という気持ちが強くなる。そんな状況のなか、未来のショッピング体験にポジティブな予感を与えてくれる企業が現れた。
2008年にローンチされた「Farfetch(ファーフェッチ)」は、歴史あるメゾンから新鋭のデザイナーズブランドまで網羅するラグジュアリーECサイト。自社では在庫を抱えずに、世界の1,000を超えるパートナーブランド、セレクトショップ、百貨店などから、商品が直接利用者に配送されるよう設計された、デジタルマーケットプレイスだ。たとえばあるブランドの靴を注文すると数日後には手もとに届くが、発送元はパリの本店のこともあれば、LAのセレクトショップの場合もある。今年8月には、OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOHを傘下に持つニューガーズグループを買収するなど、ファッション業界を活性化する一翼(いちよく)を担っている。創業者であり、現CEOのジョゼ・ネヴェス氏に「あまりに快適なショッピング体験。考えたあなたは天才ですね!」と伝えると、柔和な笑顔をたたえながら「ファッションへの情熱があったからだよ」と答えてくれた。
過去にシューズブランドを立ち上げた経験もあり、生粋のファッション業界人であるネヴェス氏は、意外や、将来的にも実店舗はなくならないだろうと予測する。
「洋服は身にまとうもの。サイズや素材など、身体的な感覚に訴える体験が重要であることはこの先も変わりません。音楽などのメディアと違い、ファッションが完全にデジタル化されることはないでしょう。ただ、デジタルとフィジカルの世界が融合していくことは止められない。そこで、私たちが行っている“ストア・オブ・ザ・フューチャー”という未来型店舗の開発が重要になってくるのです」