スキャパレリの
シュルレアリスム的
クチュール・ジュエリー

A Closer Look at Schiaparelli’s Surrealist Couture Jewelry
スキャパレリのアーティスティック・ディレクター、ダニエル・ローズベリーは、2020年春夏オート・クチュール・コレクションで、メゾンのアイコン的モチーフの数々をよみがえらせた。作家であり画家でもあったジャン・コクトーがデザインした目のモチーフも、その中のひとつだ

BY ALICE CAVANAGH, PHOTOGRAPHS BY AUDREY CORREGAN, MODEL BY SOMPA(Elite Paris), TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 デザイナーが洋服のコレクションをつくるとき、たいていジュエリーは最後のにぎやかし的存在になる。後からの思いつきというわけではないにしろ、ジュエリーが主たる存在になることはめったにない。スキャパレリの2020年春夏オート・クチュール・コレクションで、このメゾンのアーティスティック・ディレクターである米・テキサス州出身の34歳、ダニエル・ローズベリーが思いついたのが、まさにこれだった。

「今シーズン、気づけば私は、ジュエリーを中心にすべてのルックをデザインしていました。ジュエリーは、このコレクションそのものになっていたんです」と彼。パリでのショーの一週間前、アトリエにある白い木製の長机いっぱいに置かれた、キラキラと輝く装飾品の入ったトレーを見やりながらそう語ってくれた。彼はもっともお気に入りだというジュエリーを見せてくれた。それは人工パールと、歯の形をした真鍮の鋳物――ひとつひとつにダイヤモンドの虫歯があしらわれている――が並んだチョーカーで、エドワード朝時代のヒラヒラした立ち襟のような形をしている。「昔からあるパールネックレスの、いかれたバージョンですね」と彼はニヤリと笑いながら言う。「個人的には、これは『まっすぐ美術館行き』って感じだけど」

画像: 1937年にジャン・コクトーがエルザ・スキャパレリとともに生み出した目の形をしたブローチを、ローズベリーは、デジタルプリントしたエナメルの眼球をあしらった真鍮製イヤリングとしてよみがえらせた

1937年にジャン・コクトーがエルザ・スキャパレリとともに生み出した目の形をしたブローチを、ローズベリーは、デジタルプリントしたエナメルの眼球をあしらった真鍮製イヤリングとしてよみがえらせた

 10年勤めたNYのラグジュアリーブランド、トム ブラウンでのデザイン・ディレクターの職を辞した後、ローズベリーは昨年4月にスキャパレリへやってきた。パリのヴァンドーム広場にあるネオ・クラシカル様式の大邸宅のひとつに、その本社がある。20世紀のファッション・デザイナーの中でもっともアバンギャルドなことで知られたエルザ・スキャパレリがメゾンを創立したのは、1920年代後半のことだった。デザイナーとしての教育を受けたわけではなかったが、彼女はフランスの首都のモダニストが集うクリエイティブな環境の中に、自らの活動の原動力となる場を確立した。サルバドール・ダリ、アルベルト・ジャコメッティ、ジャン・コクトーといった芸術家たちとの友情は、彼女の非常にコンセプチュアルでウィットに富んだデザインを特徴づけるものとなっただけでなく、美術館に飾りたくなるようなコラボレーションアイテムにもつながった。1937年にダリと制作した、靴が逆さまになったように見える黒いフェルト・ハットもそのひとつだ。

画像: ラインストーンがシャンデリアのように連なったイヤリングは、コクトーがスキャパレリのためにつくった目のブローチを彷彿させる

ラインストーンがシャンデリアのように連なったイヤリングは、コクトーがスキャパレリのためにつくった目のブローチを彷彿させる

 さて、こういった貴重なアーカイブは、ローズベリーにとって、制作に使えるアイコン的なシュルレアリスムデザインの宝庫となった。1937年にコクトーがこのメゾンのためにデザインした目の形のブローチは、今シーズン、ローズベリーの手によってコケティッシュな真鍮製アイウェアのフレームや、イヤリングとしてよみがえった。イヤリングには、デジタルプリントしたエナメルの眼球があしらわれ、不気味でハイパーリアルな雰囲気に。1947年にスキャパレリのフレグランス「ル・ロワ・ソレイユ(太陽王)」のボトルのふたとしてダリがつくった太陽のモチーフは、刺繍になって登場。さらにローズベリーは、スキャパレリが1938年に発表したゴシックな「スケルトン・ドレス」も復活させた。パッドを縫いつけて骨格を立体的に表現した構築的なドレスで、彼はそれをインスピレーション源に、骨格のモチーフを刺繍した肘上丈のイブニンググローブを作成。縫いつけたパーツは、真鍮ビーズやパール、貝殻といったアンティークジュエリーだ。

画像: (写真左)ユニークな真鍮ボタンの数々は、このメゾンのアイコン的モチーフをもとにしたもの。中には、コクトーや、彫刻家のアルベルト・ジャコメッティがデザインしたモチーフも (写真右)特大サイズのシャンデリア・イヤリング。再利用した真鍮やヴィンテージのクリスタル・ジュエリーでできている

(写真左)ユニークな真鍮ボタンの数々は、このメゾンのアイコン的モチーフをもとにしたもの。中には、コクトーや、彫刻家のアルベルト・ジャコメッティがデザインしたモチーフも
(写真右)特大サイズのシャンデリア・イヤリング。再利用した真鍮やヴィンテージのクリスタル・ジュエリーでできている

画像: 人工パールと歯の形をした真鍮の鋳物が並んだチョーカー。歯のひとつひとつにダイヤモンドの虫歯がついている

人工パールと歯の形をした真鍮の鋳物が並んだチョーカー。歯のひとつひとつにダイヤモンドの虫歯がついている

「最初は、コスチュームジュエリーをつくる意義がどこにあるのかわからなかった。こういった女性たちは当然、本物を買うことができるのだから」と、自社のオート・クチュールの顧客について言及しながら、アトリエでローズベリーは打ち明けた。「それに、本物っぽく見えるようにつくるというのも好きになれなかった」と、一点もののシャンデリア・イヤリングをそっと持ち上げながら、彼はつけ加えた。肩に届く長さのイヤリングはさまざまな小さなパーツを集めてつくり上げたもので、その中にはこれもまたスキャパレリのシンボルのひとつである、真鍮製の南京錠もある。「でもほどなくして気づいたんです、これはコレクションのメッセージを示す手段になるかもしれないと。『我々はこういったアクセサリーを、シュルレアルなもの、ショーで見せる価値のあるものだと捉えています』というメッセージをね」

画像: (写真左)退廃的なムードの真鍮のイヤリング。これも、コクトーの目のブローチをオマージュしたもの (写真右)今回のコレクションの「目」モチーフは、メガネのフレームとしても登場

(写真左)退廃的なムードの真鍮のイヤリング。これも、コクトーの目のブローチをオマージュしたもの
(写真右)今回のコレクションの「目」モチーフは、メガネのフレームとしても登場

 それぞれのアイテムを目立たせるための真っ白なキャンバスとして、ローズベリーはショーの前半に登場する一連のルック――端正でエレガントな仕立てのウールのスーツ――をデザインした。この徹底したシンプルさの発想源となったのは、エルザ・スキャパレリその人の服装だ。「アトリエには、フィッティング中の彼女の写真が飾ってあるんですが、そこで彼女は、こんなふうに無駄のない仕立ての服を着て、おかしな蛇のブレスレットをつけているんです」。

彼が例示したのは、エレガントな紺色のウールのスーツ。ハイウエストのワイドパンツと丈の短いカーディガンジャケットの組み合わせで、ジャケットのラペルには、今回のコレクションに登場するシャンデリア・イヤリングとよく似たデザインのきらびやかな刺繍が施されている。「あのオート・クチュールの黄金期に立ち戻った気分です」と彼。「80年代後半、クリスチャン・ラクロワとイヴ・サンローランの時代に。皆、ドアノッカーみたいな形の巨大なイヤリングをつけていたころにね」

画像: アンティークジュエリーのパーツを縫いつけたグローブ。スキャパレリが1938年に制作した「スケルトン・ドレス」を元にしている

アンティークジュエリーのパーツを縫いつけたグローブ。スキャパレリが1938年に制作した「スケルトン・ドレス」を元にしている

画像: スキャパレリの「スケルトン・ドレス」(1938年) COURTESY OF THE PHILADELPHIA MUSEUM OF ART

スキャパレリの「スケルトン・ドレス」(1938年)
COURTESY OF THE PHILADELPHIA MUSEUM OF ART

 彼の説明によれば、ショーがフィナーレに向かうにつれ、ルックはますます退廃的になり、宝石が散りばめられたドラマティックなイブニングドレスが登場し、非現実的で奇抜なファッションの様相を呈してショーはクライマックスを迎える予定だ。彼は、マネキンに着せてある状態の、真鍮やクリスタルで飾り立てられた鮮やかなサファイアブルーのドレスを指し示した。「簡単に言ってしまえば」と、そのドレスを着る人について彼はこう言った、「宝石箱が歩いているみたいに見えるでしょうね」

 

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