BY RYO YAMAGUCHI, PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, STYLED BY YUKARI KOMAKI
今の日本でユニークなジュエリーを作るふたりの作家をご紹介しよう。ともに甲府の郊外にアトリエを持つ、塩島敏彦と村松 司だ。塩島は、昔の欧州のジュエリーで作り方がわからないものに出合うと、再現するのに無我夢中になる。べっ甲などに金銀の模様を打ち込む“ピクウェ”や、ガラスの粉末を型に入れて焼成する“パート・ド・ヴェール”など欧州のジュエラーでももはや再現が難しい技術に挑戦し、日本人らしい花鳥風月の世界をデザインに取り入れ、見事な作品を作っている。彼の作品を欧州の人に見せても、それが現代の日本で作られたということに驚嘆するのだ。
村松は、日本のジュエリー技術において最も遅れている“エナメル”の世界に飛び込んだ若手だ。エナメルというのは、基本的にはガラスを貴金属に焼きつけるものであり、素材の価値ばかりを気にする日本のマーケットではこれまであまり評価されなかった。しかし、多様な色彩で自由な形を表現できるエナメルは、優れたジュエリーを作る技術として、もっと理解されていいものである。彼は透明なステンドグラス状の“プリカジュール”と呼ばれる技法を多用し、しかもそれに精緻なぼかし模様を加えた作品を多く作っている。
ふたりとも“売れるならなんでも作る”という作家ではなく、自分の納得のいくものだけを山里でコツコツ作っているので、その作品はあまり市場には出回っていない。だが、これからは日本のジュエリー界も成熟に向けて変わらざるを得ない。そうした中で、最も注目されるべき名工といえるのがこのふたりであろう。
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