BY KEIKO HOMMA, PORTRAITS BY KAZUYA TOMITA
始まりは、パールの内側への探求心
TASAKIの2015年はとびきりセンセーショナルだった。ロンドンを拠点とする気鋭デザイナー、メラニー・ジョージャコプロスとのコラボレーション「M/G TASAKI」が目を見はるほど斬新だったからだ。スライスされ、切り口をあらわにした淡水真珠のピアスやリング、ネックレス。パールの切断面を目にすることなど、大抵の人にとっては人生初だったろう。

Melanie Georgacopoulos(メラニー・ジョージャコプロス)
父はギリシャ人、母はフランス人。アテネで金銀細工の基礎を学び、その後英国のエディンバラ芸術大学で彫刻を、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでジュエリー制作を学ぶ。2010年に自らのブランドを立ち上げ、パールを主素材とした独創的な表現を追求。2015年にTASAKIとのコラボレーション「M/G TASAKI」がスタートし、そのアーティスティックなデザインで高い評価を受けている。
「私がパールに魅了されたのは、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに在籍していたときのこと。ジュエリー制作の授業で、ふと思いついてパールを半分にスライスしてみたのです。パールの切り口は意外にも、木の年輪のようでした。パールが貝の中で大きくなるときにできた、成長過程の記録のような線の積層。予想もしなかった美しさに夢中になりました。でも、今後もパールをスライスし続けるなら、パールという宝石にしっかりと向き合わなくてはいけない、そう考えました。そして今も向き合い続けているのです」
アイコニックな存在となった「スライスド」の他、ミニマルな「スクエアリーフ」も人気の高いシリーズ。ゴールドのスクエアな薄板(リーフ)が、まるで布地のような柔らかさでパールを覆うデザインだ。ともすればコンサバティブになりがちなパールが、ゴールドとの巧みな組み合わせで、エフォートレスなジュエリーに変身している。

スクエアリーフネックレス(YG/ 淡水真珠、全長約45㎝)
¥1,540,000/TASAKI
©TASAKI

スクエアリーフブレスレット(YG/ 淡水真珠)
¥770,000/TASAKI
また、新たに加わった「ディスクパール」シリーズでは、淡水真珠に加えて大粒の南洋真珠 白蝶もセット。TASAKI独自の素材、SAKURAGOLD(サクラゴールド)のディスクの背後から、上質な南洋真珠 白蝶がそっと顔を出している。鏡面のようにポリッシュされたSAKURAGOLDのディスクと、つやめくパールとの鮮やかな対比。

ディスクパールリング(SG/南洋真珠白蝶/ ダイヤモンド)
¥1,375,000/TASAKI
©TASAKI

ディスクパールピアス(SG/南洋真珠白蝶/ ダイヤモンド)
¥1,540,000/TASAKI
©TASAKI
「パールそのものの形を露出させるのではなく、丸い形を少し覆い隠して、好奇心を刺激するようなデザインにしています。きれいな丸い形をあえて隠し、素材との対話をうながしているのです。アシメトリーなデザインが多いのは、躍動感や自由さを表現したいから。パールはダイヤモンドに比べて輝きが控えめと思われがちですが、その輝きは内側から湧き上がってくるようでしょう?」
シンプルであるほど、見えない部分に手間がかかる
彼女のデザインはどれもごくシンプルだが、ジュエリーの製作に関わったことのある人が見れば、それらがとても手間のかかった仕立てであることがわかるはずだ。パールは自然のものだけに、きれいな丸に見えても、工業製品のように完全な真円ではない。微妙な調整を加えながら、隙を見せないシャープなデザインを実現するには、手間を惜しまない職人たちの高度な技が必要とされるのだ。
「デザインがシンプルであるほど、作り方は複雑になります。ゴールドのディスクを鏡のように磨き上げるのだけでも大変ですし、パールも大きさや色がきれいに揃っていないと違和感が生まれます。TASAKIの技があればこそ、私のアイデアを製品にすることができるのだと実感しています。10年前にパールをスライスしてくださいとお願いしたとき、もしかしたら職人さんたちはショックを受けたかもしれません。でも今、そのスライスしたパールがベストセラーになっているのは本当に嬉しいことです」

ディスクパールネックレス(SG/南洋真珠白蝶/ 淡水真珠/ダイヤモンド、全長約80㎝)
¥4,180,000/TASAKI
©TASAKI
TASAKIとの出会いは2013年。彼女の作品に関心を持ったTASAKIの社長、田島寿一氏がコンタクトし、これまでにないコラボレーションが始まった。パールのオーソリティブランドと、パールに魅入られたデザイナー。これ以上はない組み合わせだろう。TASAKIはメラニーを長崎にある自社アコヤ真珠養殖場にも招いたことがある。豊かな自然の中で真珠貝を育む作業を目の当たりにし、彼女も大いに感銘を受けたという。
「とてもエモーショナルな体験でした。小さな貝の赤ちゃんを育てるところから始まって、ひと粒のパールを取り出すまでに約3年から4年。その間ずっと人の手で世話をし続けるわけですから、パールは愛の産物なのだと強く思いました。養殖場では海をきれいな状態に保つための努力も行われていて、環境保護についても考えることの多い、有意義な旅でしたね」

パールが解放され、ファッションと一体となる日
2024年はTASAKIの創業70周年を祝うイベントで、パールのTシャツを披露した。1万9850粒もの淡水真珠ひとつひとつに彼女自身が糸を通し、約6ヵ月かけてパールだけでTシャツを縫い上げたのだそうだ。真珠貝を素材としたジュエリーやハンドバッグ、ウォッチのデザインにも興味があるというメラニー。TASAKIとともにこれからやってみたいアイデアはさまざまにある。

スクエアリーフリング(YG/ 淡水真珠)
¥550,000/TASAKI
©TASAKI
「ヨーロッパの若い女性たちは、パールをフォーマルではなく、カジュアルなファッションアイテムとして普段づかいするのが好き。このところランウェイでもパールをよく見かけますし、パールは今とてもホットな存在になっていると感じます。TASAKIと私のコラボレーションは、ジュエリーとファッションの魅惑的なバランスを追求する試みでもあります。パールをフォーマルなイメージから解放し、ファッションの一部として受け入れて楽しんでいただくこと。それが私の目指すところです」
問い合わせ先
TASAKI
TEL. 0120-111-446