長年、ヴァレンティノのデザイナーとして活躍し、2025年5月にバレンシアガのクリエイティブ・ディレクターに就任したピエールパオロ・ピッチョーリ。彼が愛すること、ものを通して、その横顔を浮き彫りにする

BY LAURA MAY TODD, TRANSLATED BYJUNKO HIGASHINO

画像: KUBA DABROWSKI/WWD/GETTY IMAGES

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 イタリア人ファッション・デザイナー、ピエールパオロ・ピッチョーリ(58歳)は、1980年代半ば、ローマ・ラ・サピエンツァ大学で文学を学んでいた頃、テレビ番組『Donna Sotto le Stelle』放映用のショーの収録現場を初めて見に行った。イタリアの著名なデザイナーたちがスペイン階段で作品を披露するショーに彼は魅了された。だが、ローマから約56㎞南の海辺の町ネットゥーノで、タバコ店を営む両親のもとで育ったピッチョーリは、自分のような庶民にファッション界のキャリアなど不相応だと思い込んでいた。そんな彼の背中を押したのが、高校時代につき合い始め、結婚後32年間、彼と人生をともにしてきたシモーナ・カッジャだ。
「シモーナが『あまり考えすぎなくていい』と言ってくれて。理性的な僕は、彼女から直感の大切さを教わった」とピッチョーリ。彼女に勇気づけられて、ピッチョーリはローマのヨーロッパデザイン学院(IED)に転入。1989年に卒業後、ブルネロ・クチネリやフェンディで研鑽を重ね、1999年にIEDの同窓生だったマリア・グラツィア・キウリとともにヴァレンティノに入社し、アクセサリー部門を担当した。約10年後、共同クリエイティブ・ディレクターに昇格。2016年、キウリのディオール移籍後は、ピッチョーリが単独で指揮を執った。「ひとりになってから自分の感性をためらいなく表現できるようになった。理由を説明する義務からも解放されたしね」。

クラシックなロマンティシズムに遊び心や躍動感を加え、ヴァレンティノの歴史に新たな一章を刻んだ。そのクリエーションの核は、フェミニンなシルエットと、ハッとするほど斬新なカラーだ。2018年のメットガラで女優フランシス・マクドーマンドがまとった、滝のようにドレープが流れるオペラコートやイエローグリーンのジャンプスーツがその一例だ。また、彼はアイコニックな「ヴァレンティノ レッド」をモダンに再解釈して、鮮烈なフューシャカラー「ピンク PP」を編みだした。

画像: 「1 月にインドを訪れた。プラヤグラージで12年に一度開催されるマハー・クンブ・メーラー─色彩と人であふれ、人々の魂が響き合うヒンドゥー教最大の巡礼祭をずっと見たくて。二泊して、もののシルエットや花々など、目に映るすべての本能的で原初的な美を夢中で撮り続けた」 COURTESY OF PIERPAOLO PICCIOLI

「1 月にインドを訪れた。プラヤグラージで12年に一度開催されるマハー・クンブ・メーラー─色彩と人であふれ、人々の魂が響き合うヒンドゥー教最大の巡礼祭をずっと見たくて。二泊して、もののシルエットや花々など、目に映るすべての本能的で原初的な美を夢中で撮り続けた」

COURTESY OF PIERPAOLO PICCIOLI

画像: 「17年前、妻と3人の子どもたちと訪れたサルデーニャ島。法律を学び、子どもが生まれるまで不動産業界で働いていた妻と僕は支え合いながらこれまでの道を築いてきた。今回のパリへの転居はいいタイミング。10年前だったら、子どもたちがまだティーンエイジャーで何かと難しかった。彼らも立派な大人になったよ」 COURTESY OF PIERPAOLO PICCIOLI

「17年前、妻と3人の子どもたちと訪れたサルデーニャ島。法律を学び、子どもが生まれるまで不動産業界で働いていた妻と僕は支え合いながらこれまでの道を築いてきた。今回のパリへの転居はいいタイミング。10年前だったら、子どもたちがまだティーンエイジャーで何かと難しかった。彼らも立派な大人になったよ」

COURTESY OF PIERPAOLO PICCIOLI

「17世紀のスペイン人画家、フランシスコ・デ・スルバランの絵に描かれたドレスの量感やカッティングに着想を得ている。クリストバルも彼の作品に影響を受けていた」

FRANCISCO DE ZURBARÁN, “SAINT URSULA,” CIRCA 1635, MUSEI DI STRADA NUOVA, GENOA

画像: 「ルネサンス絵画には珊瑚が多く登場し、イエス・キリストもよく身につけている。珊瑚は"守護"の象徴で、割れたときは悪いエネルギーから守ってくれているという言い伝えも。迷信深いわけじゃないが、そういう考えにどこか惹かれる。僕が普段つけているのは18世紀シチリア産のピンクがかった赤い珊瑚の天使のペンダントと、1970年代の赤い珊瑚のネックレス」 COURTESY OF 1STDIBS

「ルネサンス絵画には珊瑚が多く登場し、イエス・キリストもよく身につけている。珊瑚は"守護"の象徴で、割れたときは悪いエネルギーから守ってくれているという言い伝えも。迷信深いわけじゃないが、そういう考えにどこか惹かれる。僕が普段つけているのは18世紀シチリア産のピンクがかった赤い珊瑚の天使のペンダントと、1970年代の赤い珊瑚のネックレス」

COURTESY OF 1STDIBS

画像: 「ヴァレンティノの2022年秋冬オートクチュールコレクションのショーのテーマは《The Beginning》(始まり)。在籍して23年目を迎えていた僕にとって、象徴的なテーマだった。若い頃、このローマのスペイン広場で収録中のショーをよく見に来た。駅で一晩過ごし、始発で帰宅して。2022年秋冬のショーの前日、階段に上ったとき、あの頃の自分が見えた。当時の僕に戻りたいと思った」 VITTORIO ZUNINO CELOTTO/GETTY IMAGES

「ヴァレンティノの2022年秋冬オートクチュールコレクションのショーのテーマは《The Beginning》(始まり)。在籍して23年目を迎えていた僕にとって、象徴的なテーマだった。若い頃、このローマのスペイン広場で収録中のショーをよく見に来た。駅で一晩過ごし、始発で帰宅して。2022年秋冬のショーの前日、階段に上ったとき、あの頃の自分が見えた。当時の僕に戻りたいと思った」

VITTORIO ZUNINO CELOTTO/GETTY IMAGES

「ロバータ・フラックの『愛は面影の中に』(1969年)はいつも心にある歌。僕にとってこの曲はブラックカルチャーの象徴でもある。ヴァレンティノの2019年春夏オートクチュールコレクションのショーが催されたのはイタリアで危険な排外主義が広がっていた時期で、フリルやリボンだけでは語れない何かを伝えなければと思った。そこで、オートクチュールを未来の視点で解釈し、ブラックモデルをメインに起用することにした。この曲はこれまで少なくとも三度のショーで使った」

ATLANTIC RECORDS/ALAMY

「2018年春夏のオートクチュールコレクションのショーで出番を目前に控えたモデルのフラン・サマーズ。このシーズンはきわめてクチュール的な世界を表現したくて、羽根で飾った帽子、ハイヒール、黒のストッキングといった小物を取り入れた。もちろん現代的な味つけをして」

COURTESY OF PIERPAOLO PICCIOLI

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