いま東京で食べるべきは、断然中国料理である。"タベアルキスト"のマッキー牧元が案内する、未知なる美味との幸福な出会い

BY MACKEY MAKIMOTO, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA

画像: 筆者のマッキー牧元氏。「蓮香」にて

筆者のマッキー牧元氏。「蓮香」にて

「最近のおいしい店は、どこですか」

 年間600回近く外食を重ねる食のジャーナリストという仕事ゆえに、人と会うと必ず聞かれる質問である。僕は返す。「それなら中国料理はどうですか? 今東京でいちばん面白いのは、中国料理なのです」。するとたいていの人は、不思議そうな顔をする。フランス料理や割烹、寿司屋やイタリアンを想像していたのだろう。あるいは星付きの店を予測していたのだろう。中国料理とは思ってもみなかったに違いない。だがここ数年の東京外食シーンの中で、中国料理店は劇的に変化して多彩になり、従来のイメージを覆す店が次々と開店しているのである。レストランに行くという行為は"非日常を楽しむ"という側面をもっているが、今、東京でその感覚を直截かつ気軽に味わえるのは、このジャンルをおいてほかにないのではないかと思う。

 ある日、先の質問をされた人たちを白金の「蓮香(レンシャン)」に連れて行ったことがある。店に入ってもまだ不思議そうな顔で、僕の説を信じていないようだったが、前菜だけでたちどころにその顔つきが氷解し、食べ進むうちにコーフンの度合いを増し、酒を飲み、笑い、大いに食べて、次の予約をして帰ることに相成った。
「蓮香」の料理は、中国人が常食している総菜料理だが、日本ではきわめて珍しい。

 たとえば「春キャベツ 塩漬け牛乳炒め」という料理がある。水牛の生乳に酢を入れて固め、塩蔵した「塩牛乳」と水でキャベツを炒めた、じつにシンプルな料理だが、食べれば、練れた複雑な塩気がキャベツを甘く猛々しく際立たせている。その塩気とキャベツの甘みが、猛烈にご飯を恋しくさせるではないか。

画像: 「春キャベツ 塩漬け牛乳炒め」は、素材も調理法もシンプルだが、現地から調達 した塩漬け牛乳が、一度 食べたら忘れられない深いうま味を醸す

「春キャベツ 塩漬け牛乳炒め」は、素材も調理法もシンプルだが、現地から調達 した塩漬け牛乳が、一度 食べたら忘れられない深いうま味を醸す

「よごれかす鶏」という変わった名前の料理は、「コールラビの漬物」がポイントである。ムチっとした肉にかじりつけば、コールラビの漬物がシャキッと弾けて、深い塩気を漂わす。そこにナツメの甘みがからみ、10年ものの陳皮の香りが抜けていく。

画像: "よごれかす鶏"こと、「順徳式鶏の香り蒸し 十年陳皮の香り」

"よごれかす鶏"こと、「順徳式鶏の香り蒸し 十年陳皮の香り」

 鶏肉の滋味、漬物の塩気、ナツメの甘み、陳皮のやや漢方のような香りという異なる四者の風味が共鳴し、食欲をあおって、箸が止まらなくなる逸品である。中国は広東省仏山市の料理だという。店主の小山内シェフが現地で食べて感銘を受け、漬物や調味料を買い込み、再現した。

その他、水分を保ったまま炒められた空心菜と唐辛子が共演し、舌を魅了する「空心菜尼西辛子炒め」。塩辛納豆の熟れた塩気が豚肉を生かし、"えだ椰子"の痛快な食感がアクセントとなる「雲南式回鍋肉塩辛納豆えだ椰子入り」。嚙みしめるほどに滋味がにじみ出る「ヤクの納西族スタイル」や、黄にらと八角、ニッキ、陳皮、エシャロットを漬けて味噌にした調味料で炒めた「黄金青菜とエビの台湾エシャロットソース」。圧倒的なきのこの香りにあふれた「シャングリラ松茸煮込み麺」など、中国料理通でも食べたことがないと思われる、刺激的な料理が並ぶ。

「ネタは尽きません」と、小山内シェフは言う。食べて思う。中国料理の底知れぬ深さを。われわれの想像や知見をはるかに超えた、何千という未知のひとつに出会える喜びが、この店では待っている。

画像1: 連載 
TOKYOチャイニーズは燃えている 
Vol.1

蓮香(レンシャン)

「中国の田舎料理と野菜料理がうちの基本」と語る小山内 耕也シェフ。黒板に書かれる品書きは、どれも見たことのない料理ばかりで、食べる前から未知への期待が高まる。 おまかせ¥5,900(税込)のみ

住所:東京都港区白金 4-1-7
電話:03(5422)7373
営業時間:18:30〜21:30(LO)
不定休

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.