日本酒のトップメーカー黒龍酒造による、最高級熟成酒の入札会。日本酒業界で初となった入札会で何が行われたのか? 

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY HAYATO TAKAMI

“日本酒ブーム”と言われて久しい。メディアでたびたびとり上げられることもあり、日本酒専門店は増え、海外への輸出も堅調だ。だが全体を見渡せば、国内市場は1970年代をピークに縮小し続けている。そんな日本酒業界で、今後の指針のひとつになるようなイベントが先日、開催された。

 福井の銘蔵「黒龍酒造」が「熟成酒の入札」をするという知らせが飛び込んできた。この世界では聞き慣れない「熟成酒」と「入札」。3〜7年熟成させた純米大吟醸「無二」を、黒龍酒造がこの日初めて公開するのだという。

画像: こだわりのボトルとケースで「無二」が登場

こだわりのボトルとケースで「無二」が登場

 この世界では通常、酒造メーカーが小売価格を決める。しかし今回は、秋のリリースに向け、売り手に価格を決めてもらうという前代未聞のトライアル。いったい何が起きるのか。2018年6月14日。会場である六本木のモダンバスク料理店「エネコ東京」を興味津々で訪れてみると、特約店(酒販店)のバイヤー66人が会場に集まっていた。

 熟成酒とは何か? 黒龍酒造の水野直人社長は言う。「父が20年以上前から氷温で長期保存していた試験酒を何度か試飲してみたところ、日本酒本来の美味しさを保ちつつ、独特の香りや味わいが深まっていました。その経験から、日本酒の長期熟成のポテンシャルを意識するようになったのです」

 熟成酒と銘打っている酒はほかの蔵にもあるが、蔵の貯蔵庫に置いてあったものが偶然おいしくなったというものが多い。一方、黒龍酒造は長期熟成をしっかり見据えて原酒造りを行い、氷温庫で温度管理をして熟成させている。
 今回リリースするのは、2012~2015醸造年度の原酒をマイナス2度の氷温貯蔵で寝かせたもの。兵庫・東条産の山田錦を35%まで磨き、九頭竜川の伏流水を仕込みに使った。「時を満たして辿りつく唯一無二の一滴」という意味で、『無二』と命名した。

画像: 利き酒は別会場で。公開されたデータを見ながら、バイヤーの皆さんは真剣だ

利き酒は別会場で。公開されたデータを見ながら、バイヤーの皆さんは真剣だ

 入札会をさかのぼること数ヶ月。今年2月には「Madame Sake」代表・Adrienne Saulnier-Blache氏を、3月には「京都吉兆 嵐山本店」総料理長・徳岡邦夫氏と、長期熟成日本酒BAR「酒茶論」の上野伸弘氏、「ロオジエ」シェフソムリエの中本聡文氏を迎えて、熟成酒の品質評価会議が開かれた。彼らの評価に基づいて黒龍酒造が決定した1本あたりの価格を最初に提示して、入札会は始まった。

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