アイスランド出身で、現在はベルリンを拠点に活動するアーティストの兄とシェフの妹。ふたりは、人々の心と体の両方を満たすことが自分たちの使命だと考えている

BY GISELA WILLIAMS, PHOTOGRAPHS BY FRANK HERFORT, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 2014年、ヴィクトリアは兄を追ってベルリンにやってきた。そして兄妹のコラボレーションによる、他に類を見ないプロジェクトが立ち上がった。オラファーのスタジオ内にあるSOE(スタジオ・オラファー・エリアソン)キッチンは、単なるスタッフの食堂でもアートスタジオでもない。その両方であり、またどちらでもないといったところだ。週に4回、120名のスタッフたちは、長い木のテーブルを囲んでベジタリアンのランチを食べる。

このキッチンでは、食事は仕事の合間にささっとすませるものではなく、正午のひと時を楽しむサロンのようなものだ。ここには著名な科学者やアーティストも訪れる。スタッフたちはデザートの代わりに、現代アーティスト、エメカ・オグボウが語るアフリカからの移住者の話や、姉弟のアートユニット、シムラブロスに精進料理の話を聞いたりする。コペンハーゲンから高校の聖歌隊が来たときには、スタッフを巻き込んでレナード・コーエンの「ハレルヤ」の大合唱がスタジオ中に響き渡った。

画像: スタジオの料理チームと一緒に料理をするヴィクトリア

スタジオの料理チームと一緒に料理をするヴィクトリア

 ヴィクトリアは、幼い頃の思い出にインスパイアされたスカンジナビア風創作料理のテイスティングメニュー(少量ずつのコース)を提供するレストラン「ドッティル」をSOEの近くにオープンした。だが1年半後の2017年にはSOEに戻り、友人や地元の人々を対象にした新たなシリーズ企画を手伝うことにした。2018年の春には、ヴェラーヌ・フレディアニによる女性シェフたちを描いたドキュメンタリーがSOEで上映された。また、2017年10月にはカナダ人シェフでフードアクティビスト(食に関する活動家)であるジョシュア・マハラジを招いて、学校や病院などの施設向け給食を改善した経験について語ってもらった。

これらのイベントのあとには、自家製のフォカッチャとハーブ入りラタトゥイユがふるまわれた。オラファーによれば、彼のアートが観客に能動的に体感することを求めるように、オラファーとヴィクトリアのプロジェクトも「食べることは単に食物を受動的に消費することではない」と人々が理解することが目的だという。

画像: キッチンとダイニングスペースを仕切る陳列用のガラス棚には、ヴィンテージの電球などのガラス製品がたくさん並べられている

キッチンとダイニングスペースを仕切る陳列用のガラス棚には、ヴィンテージの電球などのガラス製品がたくさん並べられている

 オラファーとヴィクトリアは8月、レイキャビクのマーシャルハウス(かつての魚肉加工工場を改装したアートセンター)に、ベルリンのSOEに次ぐ第2のスタジオとして「SOEキッチン101」という期間限定の食の空間をオープンした。キムチライスにきゅうりのナムルと焼きなすを添えたヴィクトリアの料理が並んだレストランのテーブルの上には、オラファーが制作した多面体の照明が吊り下げられていた。

ふたりは、i8ギャラリーや、イベントスペースを運営するメンギといった地元のアート関連企業と組んで、詩の朗読会や演奏会、講演会などの企画を次々と打ち出している。すべて順調にいけば、今年中にはベルリンのスタジオでもこうした企画を本格的にスタートさせる予定だ。しかし当面は、2001年に亡くなった父の思い出の詰まったアイスランドでの暮らしを兄妹で一緒に楽しみたいと思っている。ヴィクトリアは言う。

「今も、父が乗っていたヘルガ・マリア号が近くに停泊しているときは見に行くことがあります。私たちの心の中には、いつも父がいる。彼が生きていたら、私たち兄妹が一緒に働いていることを喜んでくれたと思います」

 

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