BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
シャンパーニュは、時計やジュエリー、オートクチュールのドレスと同じように、“ラグジュアリー”を体感させてくれる飲み物。なかでも、その華やかさが際立つのが「ヴーヴ・クリコ」だろう。1772年にフランスのランスに創業。二代目当主フランソワ・クリコの妻で、夫亡きあとメゾンの後継者となったマダム・クリコ(ヴ―ヴ・クリコ)の時代から「品質はただひとつ、最高級だけ」をモットーに、つねに時代の最先端をゆく味わいのシャンパーニュを生み出している。
ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン社代表取締役CEOのジャン=マルク・ギャロは、その”ラグジュアリーたるゆえん”をこう語る。「シャンパーニュは、とにかく時間に負うところが多いワインです。シャンパーニュには瓶詰めのあと、ノン・ヴィンテージで15カ月、ヴィンテージで3年熟成させなくてはならないという規定があります。私たちの最高級キュヴェ『ラ・グランダム』に至っては、10年間熟成させています。長い時間の中でゆっくり熟成し、エレガントな味わいになっていく。その“時間”こそがラグジュアリーの証だといえるでしょう」
ジャン=マルク・ギャロは、2014年から現職にあるが、以前は「カルティエ」「クリストフル」などでマネジメント職を歴任、2011年からは「ルイ・ヴィトン」取締役副社長として辣腕を振るってきた人物。誰よりも“ラグジュアリーの本質“を知っている。時間をかけてていねいに作られるものこそ、心に響くと考えている。「ヴーヴ・クリコ」は時に「ジュエリーメゾンのような趣がある」ともいわれるが、このことについて聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「確かに、共通するところは多いと思います。『イエローラベル ブリュット』はフラッグシップの指輪やペンダントに例えることができますし、ヴィンテージや『ラ・グランダム』はハイ・ジュエリーのラインのようでもある。ですが、最大の共通項は、“美しくあること”、“最高級のものを作ること”というスピリットにあるのではないかと私は考えます。つねに最高のものを作りだすには、伝統をリスペクトしつつも革新を続けなくてはなりません。加えて、時には“大胆さ”も必要となります。マダム・クリコのようにね(笑)」
マダム・クリコは1800年初頭、ナポレオンが発した大陸封鎖令をかいくぐって「クリコ社」のシャンパーニュをロシア宮廷に売り込み、メゾンを発展させた。彼女はビジネスウーマンの先駆けという存在でもあったのである。以後、ヨーロッパの王侯貴族たちは、こぞって「クリコ社」のシャンパーニュを愛飲したという。彼女はまた、引退した従業員のために“リタイアメント・ハウス”を用意するなど、福祉に注力した女性としても名を残している。
「ヨーロッパには、優しくて強い女性のことを『ベルベットの手袋の中に鉄の拳を隠している』と表す言葉がありますが、これはまさしくマダム・クリコのことですね」とジャン=マルク・ギャロはほほ笑む。芍薬や木蓮など白い花の香りをもち、フレッシュでスタイリッシュな味わいの「ヴーヴ・クリコ イエローラベル ブリュット」。凛とたたずむ女性のようなイメージの奥には、今もマダム・クリコの精神が生きている。
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