BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA
大人になった今、藤村さんが仕事帰りにふらっと立ち寄るのが「銀座ウエスト」。1947年創業の老舗、銀座本店は開店時のたたずまいを今も色濃く残す。パリッと純白のテーブルクロスがかけられたテーブル、日本人の体型にぴたっと添い、包み込むような特注のイス、頻繁に生け替えられるみずみずしい旬の花、そしてつかず離れずの心地よい接客――。声高ではない、けれど確固たる美学がそこここにあふれる、文化的サロンのような空間だ。
「あの喫茶室では、本も持たず、パソコンも開かず、ただただ目の前にあるケーキに集中します(笑)。それくらい、あそこのケーキが好きなんでしょうね。ウエストには昔から大好きなお菓子がたくさんありますが、子どもの頃はそうでもなかったけれど大人になって魅力に目覚めたのが、『ゴルゴンゾーラパフ』でしょうか」。軽やかなシュー生地の中に、ゴルゴンゾーラチーズ入りのミルキーな生クリームがたっぷり。甘さとともに独特の風味が口中でめくるめく、一度食べたら忘れられない味のシュークリームで、ワインとの相性もいい。
美容のこと、健康のことなど、これまでたくさんの専門家や医学者に取材をしてきた。そこで得た情報や知識を踏まえ、また自分の年齢や体調を考慮して、一昨年は“完全糖質制限”を試みたそう。「健康体にはなれましたが、僕はもともと無類のおやつ好き。だからなのか、糖質オフの生活は、なんだかつまらなかったんです(笑)。今は、甘いものを欲したときは、本当に食べたいもの、おいしいものを選んで、よく味わって食べています。でも甘いものを食べるのは活動量が多い14時~15時くらいまでで、20時以降は基本的に固形物はいっさい食べない。健康やボディメイクのために極端に食事制限したりハードなトレーニングを積むよりも、こんな風にメリハリをつけて食べるほうが、僕の性格に合っているみたいで」
男性美容のマーケットを、長きにわたり見つめ続ける藤村さん。この市場は今後どうなっていくのか? そして藤村さんが思う、ご自身の使命とは?
「美容の世界を掘れば掘るほど、男性だってそれぞれ年令も違えば、趣味嗜好もまったく違うんだということを改めて感じます。女性と同じように多様性があるにもかかわらず、“男ってこうでしょ!?”とひとくくりにして何かを押しつけたり、枠組みを作ってしまうのはナンセンス。でも、従来の古くて固い常識や考え方を否定するばかりじゃなく、『じつはこういう考え方もある。こんなアイテムもおすすめですよ』と、気さくな感じで広くアナウンスするのが僕の役目かな、と。スキンケアやヘアケアは言うまでもなく、最近は男性もメイクする時代になってきました。いろいろなジャンルでボーダーレス化がすすむ今、どこか女性の特権という印象があった美容もおやつも、素直に“好き”と言える世の中になれば、人生はもっと楽しくなる、と信じています」