BY KIMIKO ANZAI
イタリア・トスカーナ州を代表するワインと言えば「キャンティ」が思い浮かぶが、これをあえて造らず、この地のテロワールにフォーカスした独自のワインを生み出しているのが「イル・ボッロ」だ。フィレンツェから南に車で約40分、キャンティ・クラシコ地区に近いヴァルダルノ・デイ・ソープラに位置し、村全体が中世の面影を残したリュクスなリゾート地として知られる。オーナーはイタリアを代表するファッションブランド「フェラガモ」を擁するフェラガモ・ファミリーで、ワインもその名にふさわしい品格とエレガンスを備えるが、なにより魅力的なのは、「イル・ボッロ」がブレない”芯”を感じさせるワインであるということだろう。
フェラガモ・ファミリーがイル・ボッロ村の広大な土地を購入したのは1990年代のこと。ここは18世紀にはメディチ・トルナクインチ家が所有していた土地で、ワイナリーやブドウ畑があったという。イタリアではトスカーナ大公コジモ3世がワイン産地を保護するため1716年に原産地呼称を制定したが、現在のイル・ボッロ村が位置するヴァルダルノ・デイ・ソープラもそのひとつで、良質なワインを産出する地であったのだ。
フェラガモ・ファミリーはワインビジネスを本格化し、‟スーパー・タスカン”「ルーチェ」などの醸造家を務めるニコロ・ダフィット氏を監修のもと、ワイン造りに着手した。その後、初リリースの1999年以来、「イル・ボッロ」のワインは『ワインスペクテイター』などの権威あるワイン誌で高く評価され、一躍認知度を高めた。3代目で長男のサルヴァトーレ・フェラガモ氏がワイナリーを率いてからは、2011年にはキャンティの大手「ルフィーノ」で長らく醸造を担当したステファノ・キオッチョリ氏を招聘、さらに進化した素晴らしいワインの数々を生み出している。
「イル・ボッロ」のワインの特徴はエレガントであることはもちろんながら、ナチュラルで繊細な味わいが感じられることだろう。化学飼料などは不使用、栽培はビオロジック農法(一部ビオディナミ)で、ブドウ本来の力を引き出している。「イル・ボッロ」ではもともと有機栽培を行っていたが、フェラガモ氏は2012年ごろから、より強く自然栽培を意識するようになったという。特筆すべきは「イル・ボッロ」のワインすべてがオーガニックの認証を受けていることで、EUで最も有名な有機認証「ユーロリーフ」やイタリアの有機生産の管理・認証機関「スオーロ・エ・サルーテ」の認証を取得しているのだ。また、ブドウの収量にもこだわり、樹1本からの収量はワイン1本という低収量で、まるで‟オートクチュール”のような造りを実践している。フェラガモ氏は語る。
「私たちは、自然に敬意を払いつつ、そのテロワールをボトルの中に表現したいと日々考えています。私たちの土地の風や香りを、飲む方に伝えられたらうれしい」
確かに、「イル・ボッロ」のワインからは、テロワールの特徴が伝わってくる。たとえば「ベトルーナ 2018」は、山の斜面の岩の多い土壌で育つサンジョヴェーゼで造られており、繊細な果実味とミネラル感を感じさせる。「ピノ・ノワールと間違えられることが多いのですよ」とフェラガモ氏が笑う。また、カベルネ・ソーヴィニョンとメルロ、シラーをブレンドした「イル・ボッロ 2018」は国際品種のみを使用していながらも、どこか明るいトスカーナの太陽を思わせ、“スーパー・タスカン”であることを物語っている。
フェラガモ氏は続ける。
「私たちが願うのは、この地で自然を守りながら美しいワインを造ること。ただそれだけです。ここにはレストランもあり、”ファーム・トゥ・テーブル”をコンセプトに、無農薬野菜を提供していますが、これが素晴らしくおいしい(笑)。ブドウもしかりで、きちんと認証を取ることで、自然を守るという私たちの決意のようなものを示したかった。今の時代、ワイン生産者自身が変わり、自然と向き合うことが大切だと思ったのです。日々恩恵を受けている自然を大切にするのは当然のことですし、これは、次世代への私たちの責任でもあるのです」。
「イル・ポッロ」のワインは美しい。それは、フェラガモ氏の哲学がブレない芯として、ボトルに反映されているからなのだろう。
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