TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
祇園「祇園にしむら」

円熟の技で料理を作る西村元秀さん
テーマは”通いたくなる和食店”だが、「祇園にしむら」は実際に20年近く通っている店だ。コンスタントというわけではないが、こんなに長きに渡るお付き合いの店は多くない。
東京から来る食いしん坊の友人たちも「祇園にしむら」が好きな人が多い。若い時は京都に来る度に新店や話題店の開拓に勤しんでいた人たちも、「やっぱりにしむらが落ち着く」と言って、また通っている。
店主・西村元秀さんは、東京「吉兆」で修業後、地元である京都に戻り、1994年、祇園に自身の店を構えた。
西村さんの作る料理は、奇をてらわず、”正統派”。”正統派”はともすると無難な味になりがちだが、西村さんの手にかかると、煮物椀一つとっても、味がビシッと決まっていて、「ムムムッ」と思うおいしさだ。

魚のあらの出汁を使った潮汁に見えるが、一番出汁を使い、雑味がない上品な味に仕上げた煮物椀
「おいしいです!」と感想を伝えると、「めちゃくちゃうまいやろ」と、西村さん。お料理を褒めた時、サラッと微笑むか礼儀正しく「ありがとうございます」と応えてくれる人がほとんどだが、気取らず、満面の笑みで共感してくれる大将は希少。そういうところも大好きだ。
接待中のお客さんが居合わせた時などは、西村さんがおすましモードになることもあるが、基本、L字カウンターでは距離が近く、トークも弾む。

10月から3月まで、お凌ぎで出される鯖寿司に千枚漬をのせた「八坂の雪」
コースに必ず登場する名物料理も常連の心を掴んで離さない。一つ目は鯖寿司。今でこそお凌ぎで鯖寿司を出す店は珍しくないが、西村さんは30年前から行っていて、先駆けと言える。鯖寿司は通年出されているが、冬になると千枚漬けがのって登場し、レアめに〆た鯖と千枚漬の相性の良さに驚かされる。

甘くこっくり濃厚な胡麻ソースを絡め、スプーンでいただく胡麻豆腐
そして二つ目はクリーミーな胡麻ソースがたっぷりかかったなめらかな胡麻豆腐。ふるふるねっとりな胡麻豆腐とソースが口の中で一体となり、とろけていく。

格子や犬矢来を備えた美しい京町家
花街情緒溢れる石畳の路に建つ一軒家は、カウンター席のほか、接待や会食向けの座敷もあり、料亭的に利用することも。料理を盛る器も、和食店で見かける絵柄・・・と思ったら、写しではなく、そのオリジナルとなる歴代の「永楽」や「楽」だったり。
最近、京都の和食店ではコースの価格が高騰したり、新しい店も最初から強気な価格設定だったり、足が遠のいてしまうことが多いが、「祇園にしむら」は、料理、しつらえ、器、そしてサービス精神旺盛な店主のキャラも込みで、良心的だ。
「祇園にしむら」
住所:京都市東山区祇園町南側570-160
営業時間:17:00〜20:00入店
定休日:日曜、不定休あり
TEL. 075−525−2727
コース¥13,000〜(税・サ別)
公式サイトはこちら

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント
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