京都⽣まれ、京都育ちの⾷いしん坊、京都でおいしいものに出合いたければ、この⼈に聞けばハズレなし!そんなアマジュンこと天野準⼦の絶品満腹⼝福アドレス。今⽉は「和食の新店」を紹介。第1弾は「MUBE」へ

TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO

玄豚「MUBE」

画像: 築150年の屋敷。美しいアプローチに期待が高まる

築150年の屋敷。美しいアプローチに期待が高まる

 2025年8月にオープンしたばかりの「MUBE」。店主・泉貴友さんは、「じき宮ざわ」や「ごだん宮ざわ」の料理長を務められていて、その時から泉さんの料理が大好きだ。2024年5月、店を卒業されてから1年余り、オープンを待ちわびていた人も多く、最近では「MUBE行った?」という声を街のあちこちで聞く。

画像: 店主・泉貴友さん。実家は長浜で料理屋を営んでいて、幼い時から発酵は身近な存在だったそうだが、料理の道に進んでから改めて発酵文化を学び直したという

店主・泉貴友さん。実家は長浜で料理屋を営んでいて、幼い時から発酵は身近な存在だったそうだが、料理の道に進んでから改めて発酵文化を学び直したという

 泉さんは専門学校卒業後、京都の料亭「天㐂」で5年修行した後、2010年「じき宮ざわ」宮澤政人さんの料理に感銘を受け、弟子入り。宮澤さんのもとで茶懐石の流れを汲む料理や美意識を学び、2014年、宮澤さんが「ごだん宮ざわ」を開店するにあたり、「じき宮ざわ」の料理長となった。
 泉さんの故郷である滋賀県長浜には発酵文化が根付いていて、「じき宮ざわ」時代から発酵を料理に取り入れられていたが、自身の店ではさらに磨きがかかっている。
 最近は発酵ブームにのって、発酵食品や調味料を使う店が増えているが、泉さんの作る料理は、”いかにも”な発酵料理ではなく、とっても自然体かつオリジナリティに満ちている。

画像: カウンターの目の前で調理。なにを切っているかと思えば、ぬか漬けしたサツキマス

カウンターの目の前で調理。なにを切っているかと思えば、ぬか漬けしたサツキマス

 例えば、琵琶湖で獲れたサツキマスは糠に2時間漬けて、上からごま油をたらりとかけて、いただく。糠漬けは通常、糠を洗って落としてから食べることが多いが、自然栽培の米のぬかは、甘味があり風味も良く、塩と相まって、マスのいい調味料になっている。

画像: メニュー表には料理名ではなく、素材名のみ表記されている。「皐月鱒 米糠」

メニュー表には料理名ではなく、素材名のみ表記されている。「皐月鱒 米糠」

 糠床以外にも、店内には発酵棚があり、さまざまな発酵食品や発酵調味料を作っている。メニューに「椎茸」と書かれた料理には、マグロをのせたシイタケを炭火で焼き、シイタケと米麹を発酵させた自家製きのこ醤油をかけて供される。口に運ぶとマグロにも負けないシイタケの旨みがジワリと広がる。

画像: 自家製きのこ醤油を使った「椎茸」

自家製きのこ醤油を使った「椎茸」

 訪れた日は、ほかにも、鳥取の「久米桜酒造」に一度送って、麹菌を振りかけてから送り返してもらったという“旅する” 納豆餅や、天然鮎の炭火焼きに鮎とかぼちゃのなれずし、発酵スイカのサルサソースを合わせ、そば粉のトルティーヤで巻くタコス、ハッカがたっぷり入った天然鰻の薬膳鍋など、日本古来の素材や発酵の技を使いながら、ワクワクさせる料理に仕上げていく。

画像: 天然鰻と冬瓜が入った鍋にたっぷりのハッカを加え、いい香りが立ちこめる

天然鰻と冬瓜が入った鍋にたっぷりのハッカを加え、いい香りが立ちこめる

 泉さんは、自身の地元・長浜の発酵料理だけに限らず、日本の食を発信。「発酵の技や郷土料理など、日本にしかないすばらしい食文化を今に伝える。日本料理ではなく、日本の料理をしたいと思っています」。
 店を構える玄琢は、江戸時代、学者野間玄琢が薬草園を開き、多くの人々を癒やした場所であり、養生料理を心がける泉さんの想いとも共鳴。「料理とはただ美味を追うものではなく人を養い、日々を慈しむものでありたいと思っています。うちの料理が食べた方の体を作っていくわけですがから、安心、安全で有機的な料理を作っていきたいです」。

画像: 食事の部屋へは靴を脱いで入室。目の前には自然が息づく庭が広がっている

食事の部屋へは靴を脱いで入室。目の前には自然が息づく庭が広がっている

 約400坪の敷地を持つ屋敷は主が隠居することになり、この地を理解し、文化的に使ってくれる方に貸したいと思い、泉さんに打診があったという。京都・紫野のギャラリー「kankakari(カンカカリ)」が監修し、これまでに度重なる手が加えられてきた建物を、元の状態を想像しながら、時を遡るように改修が行われた。
 門から石畳の階段を上り、店に入り、玄関の間や薄暗い三和土の間を抜け、食事をいただく部屋にたどり着く。この一見無駄なように見える間こそ、心をリセットするのに重要な余白になっている。

画像: 薄暗い部屋を通り、食事をいただく部屋へ向かう

薄暗い部屋を通り、食事をいただく部屋へ向かう

 玄琢という場所は街中から車で20分ほどかかり、京都人ですら「遠い」と思う場所ながら、滋味あふれる料理と共に古き良き日本の美意識や価値観、自然の恵みを感じることができるとっておきのロケーションだ。帰る頃には「ここで店を開いてくれて良かった」と、心から想い、すがすがしい気持ちで店を後にすることができる。

画像: 店内にある発酵棚

店内にある発酵棚

「MUBE」
住所:京都市北区大宮玄琢北町11-1
営業時間:12:00〜、18:30〜共に一斉スタート
定休日:不定休
料金:コースは昼¥17,600、夜¥28,600
TEL. 075-384-9987 
公式インスタグラムはこちら

画像: 天野準子 生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント

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