おいしいもののためならどこまでも! 国内外問わず、食の探求のためにさまざまな地に暮らしてきたノマドなエディター、ヤミー高山こと、高山裕美子さん。いつもは北海道が舞台でしたが、今回は日本を飛び出して同じく北の国フィンランドへ。自然と共に歩み、旬の恵みを大切にする森の人たちに会いに、北の大地を駆け抜けていま、会いにゆきます!

TEXT & PHOTOGRAPHS BY YUMIKO TAKAYAMA, SPECIAL THANKS VISIT FINLAND,VISIT KUUSAMO,FINNAIR

画像: スモークサウナが名物のロッジ「イソケンカイステン・クルビ」は湖のすぐ横にある。サウナの後はこの湖に飛び込んで体を冷やす

スモークサウナが名物のロッジ「イソケンカイステン・クルビ」は湖のすぐ横にある。サウナの後はこの湖に飛び込んで体を冷やす

サウナで有名なロッジは、自然の恵みをふんだんに用いた料理も評判

 今回の「北の国」は、北海道を飛び出して、フィンランド北部のラップランド地方にあるルカ・クーサモ。ラップランド地方は「森と湖の国」と呼ばれているだけあって、クーサモ空港着陸前の飛行機の窓から見えるのは森林と湖のみ! 空港から車で40分ほど走らせた森の中の湖のほとりにある、スモークサウナが有名なロッジ「イソケンカイステン・クルビ」へ。出迎えてくれたのは2代目店主のシルパさんとカティヤさん姉妹だ。スモークサウナとは、2000年以上前からある、フィンランドの伝統的なサウナで、煙突のないサウナ小屋のなかで薪を燃やし、その煙と熱で、サウナストーンと室内を温めるというもの。

画像: ランチは昔ながらの建物「コタ」で。木造の円錐形の建物で、内側は中央に囲炉裏があり、天井の中心にある穴から調理の煙が出る構造。囲炉裏は、火を焚いて調理をしたり、暖を取ったりするために使われる

ランチは昔ながらの建物「コタ」で。木造の円錐形の建物で、内側は中央に囲炉裏があり、天井の中心にある穴から調理の煙が出る構造。囲炉裏は、火を焚いて調理をしたり、暖を取ったりするために使われる

 1993年、このロッジがオープンすると、当時の首相をはじめ、政府関係者が多く訪れた。フィンランドでは、そういった権力や資金がある人たちのことを「イソケンカイステン(大きな靴の人たち)」と呼び、「大きな靴の人たちのクラブ」となったのがロッジの名前の由来だ。1997年には食堂のある母屋が完成し、その後、宿泊施設などを増設した。使用している木材は地元のものか、古い小屋を解体して出た廃材。「古くなったからと捨てたりしないで、新たに命を吹き込んで使うことを私たちは大切にしている」とカティヤは言う。

画像: 手前がシルパさん、奥がカティヤさん。「コタ」の中は天井が高いため、閉塞感はない

手前がシルパさん、奥がカティヤさん。「コタ」の中は天井が高いため、閉塞感はない

 今回の旅の目当ては、ラップランド地方の森の恵み満載の「ワイルドフードランチ」。料理はセルパさんが担当しており、白樺の薪を使って料理をする。清涼感とほのかに甘い白樺の木の香りがリラックス効果抜群。セルパさんは、薬草や香草の利用法、効能などに精通しており、自ら摘んだベリー類の葉を使ったハーブティーもオリジナルブレンドだ。

画像: ムイックをバターで揚げ焼きにしているところ。味付けは塩のみ

ムイックをバターで揚げ焼きにしているところ。味付けは塩のみ

 最初に出てきた料理は「ムイック(モトコチマス)」という湖で獲れる小魚を、バターで表面をカリっと揚げたもの。小麦粉を付けて揚げたものがポピュラーだそうで、フィンランドの夏のソウルフードとか。定番のライ麦パンにのせると、ライ麦の香ばしさとほのかな酸味、リッチなバター、カリカリとした小魚フライの融合が最高。

画像: バターで揚げたムイック。クセがなく、わかさぎに近い。ディルと玉ねぎを加えたサワークリームのディップと

バターで揚げたムイック。クセがなく、わかさぎに近い。ディルと玉ねぎを加えたサワークリームのディップと

 訪れた8月末はきのこのシーズンでもあり、森で収穫した5種類のきのこのクリームスープが提供され、濃厚な味わいだ。ミルフォイユ(西洋ノコギリソウ)というハーブがアクセントに使われており、黒胡椒のようなスパイス感とほのかな苦みを添えている。ラップランド地方ではスープやキャセロールは定番で、最低気温マイナス20度になることもある冬には、薪ストーブの上に鍋をおいて調理するのが日常的だそうだ。

画像: アンズ茸など5種類のきのこが入った森のきのこスープ。きのこのうま味たっぷり

アンズ茸など5種類のきのこが入った森のきのこスープ。きのこのうま味たっぷり

フィンランド版フレンチトースト「ケユハット・リタリット」の幸せ

画像: チェリー、ブルーベリー、ラズベリー、クラウドベリーがたっぷりなフィンランド版フレンチトースト。料理にいい香りが付くので、白樺の薪を好んで使っている

チェリー、ブルーベリー、ラズベリー、クラウドベリーがたっぷりなフィンランド版フレンチトースト。料理にいい香りが付くので、白樺の薪を好んで使っている

 メインディッシュはフィンランド版フレンチトースト「ケユハット・リタリット」。「貧乏騎士」という意味だそうだが、生クリームのホイップを添えるだけで「金持ち騎士」に呼び名が変わるとかで、今回食べたのは金持ちバージョンであると推定。「プッラ」というカルダモン入りのほんのり甘いパンを使用するのがお決まりだそうで、食感はブリオッシュのよう。量を気にすることなく、これでもかっ!とベリー類をかけて食べられるのは、本当に贅沢でしかない。しかもすべて森で摘んできたものだから、ベリー類が高価な日本から来た者としてはちょっとうらやましい。「ケユハット・リタリット」はラズベリージャムとホイップクリームとのバランスも完璧で、ぺろりと平らげてしまった。

画像: 右は敷地内でベリー類を収穫するシルパ

右は敷地内でベリー類を収穫するシルパ

 食事後は敷地内に生えているベリーやハーブの説明を受けながら、香りや味わいを確かめる。ベリーというと木になっているイメージだったけど、真っ赤なリンゴンベリーやブルーベリーの原種ビルベリーは5~30cmの低木植物で、うっかりすると踏んでしまう。リンゴンベリーは酸味と苦みが強いのだけど、ポリフェノールとビタミン、ミネラルを豊富に含むので、この時期にたっぷり収穫して加工したり、瓶詰めにして保存しておくのだとか。抗酸化作用や美肌効果があるということで、フィンランドは肌のきれいな女性が多いのはそのせいかも?

画像: この日提供されたハーブティーに使用している植物も森から収穫したもの。ポリフェノールを多く含むリンゴンベリーやブルーベリーの原種ビルベリーなどベリー類の葉、ミルフォイユ(西洋ノコギリソウ)など

この日提供されたハーブティーに使用している植物も森から収穫したもの。ポリフェノールを多く含むリンゴンベリーやブルーベリーの原種ビルベリーなどベリー類の葉、ミルフォイユ(西洋ノコギリソウ)など

自然の恵みのなかで心身を慈しみ、なごやかな暮らしを楽しむ

 ラップランドの人たちの暮らしぶりには、美しい自然の恵みに敬意を払っていることがよみとれる。森から、キノコやベリー類などの食材を調達する。サウナで親しい人とコミュニケーションを取りながら、心身の浄化を行う。自然とのつながりのなかで、日常のささやかな喜びを大切に、心穏やかな生活を送ることに価値を見出す彼らを見て、「精神的な豊かさ」とはこういうことだなぁと心が温かくなった。

画像: ラップランドで秋から冬に見ることができる「ノーザンライト」と呼ばれるオーロラ ⒸRuka-Kuusamo,revontulet,harritarvainen

ラップランドで秋から冬に見ることができる「ノーザンライト」と呼ばれるオーロラ

ⒸRuka-Kuusamo,revontulet,harritarvainen

 今回、人生で初めてオーロラが見られるかも、と期待値マックスだったのだが、普段の行いが悪いのか残念ながら現れず。日本からの空の旅はフィンエアーを利用したのだけど、運が良ければ、飛行中に機内の窓からオーロラが見えることもあるとか。ちなみにフィンエアーは成田空港深夜発で、フィンランド・ヘルシンキのヴァンター空港到着は午前中。日本時間感覚で寝て、行動できるのがめちゃくちゃ楽ちんなのでおすすめだ。続編はヘルシンキでのきのこ狩りをお伝えします。

Isokenkäisten Klubi (イソケンカイステン・クルビ)
住所:Heikinjärventie 3, 93800 Kuusamo, Finland
宿泊料金(2名1室、朝食込み):サマーシーズン(5/1~10/31)124ユーロ、ウィンターシーズン(11/1~4/30)142~183ユーロ
・コタでのランチ68.50ユーロ、夕食48ユーロ~
・スモークサウナ料金は別途(ネットから要予約)
公式サイトはこちら

高山裕美子(たかやま・ゆみこ)
エディター、ライター。ファッション誌やカルチャー映画誌、インテリアや食の専門誌の編集者を経て、現在フリーランスに。国内外のローカルな食文化を探求することがライフワーク。2024年8月に、東京から北海道・十勝エリアに引っ越してきたばかり

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