味は世に連れ、世は味に連れ――。日々進化する日本の美食の最前線から、明日を読む。ベテランのフードジャーナリストが、いま注目するレストランを厳選して紹介する。第2回は神保町のモダン・タイキュイジーヌ「KHAO(カオ)」へ。

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA

伝統的な料理をベースにシェフの独創的な感性を重ねたモダン・タイキュイジーヌ「KHAO(カオ)」

画像: 「ヤムマクアパオ」。焼きなすに、魚介類と豚肉、イカ墨、カラスミの和えもの。

「ヤムマクアパオ」。焼きなすに、魚介類と豚肉、イカ墨、カラスミの和えもの。

 昨年、東京・神保町にオープンしたばかり。タイ料理は甘味、辛味、酸味のバランスがよく、複雑かつはっきりした味が多いが、穂積依里シェフの料理には、洗練と穏やかさが加わる。穂積は中学生のときに出合ったタイ料理の味が忘れられず、のちに単身タイに渡り、3年ほど修業。帰国後、タイで出会った料理人の夫と地元・愛知でカジュアルなタイ料理店を開いた。その後、自分が求める味にさらに挑戦すべく、東京に移転。シンプルなインテリアに、一斉スタートでワインやお茶のペアリングもあると聞けば、イノベーティブな料理店を想像するが、登場するのはタイ伝統の味をベースにした料理。たとえば、タイの焼きなすの和えものに、穂積はイカとイカ墨を加える。なすの皮の焦げた香ばしさにイカ墨のねっとり濃厚な風味が加わり、赤ワインに寄り添う味に。米の生地をところてんのように突き出して作る自家製の麺はタイの屋台料理だが、ハーブや調味料使いはそのままに、新鮮なアジを使うのが穂積流。

画像: 「鹿とナンプリックパオ」。長野県の猟師・宮川仁司さんが仕留める本州鹿に、タイのエシャレットソースとマンゴーソース、コブミカンオイルを組み合わせ、新しい味を表現。

「鹿とナンプリックパオ」。長野県の猟師・宮川仁司さんが仕留める本州鹿に、タイのエシャレットソースとマンゴーソース、コブミカンオイルを組み合わせ、新しい味を表現。

画像: 手がかかるので、今やタイの家庭でも作られなくなってきたナンプリック(タイのチリペーストの総称)を、穂積は手作業で作る。風味が立ち、香り高さが違うそう。

手がかかるので、今やタイの家庭でも作られなくなってきたナンプリック(タイのチリペーストの総称)を、穂積は手作業で作る。風味が立ち、香り高さが違うそう。

 この秋、「ミシュランガイド東京2026」で、タイ料理店として日本で初めて一ツ星に輝いた。「星は目的ではないけれど、おかげで人脈が広がり、お店の信頼度も高まって食材の仕入れがしやすくなりました」。ひたすらにわが道を突き進み、開店して1年強で一ツ星を獲得の快挙。彼らはそこにとどまることなく、さらに自らの料理の進化を目指す。訪れるたびにレベルアップしている彼らから目が離せない。

画像: 「カノムチンナムヤー」。もっちりとコシがある米麺と、焼きアジとガチャイ(ショウガ科のスパイス)のソース。

「カノムチンナムヤー」。もっちりとコシがある米麺と、焼きアジとガチャイ(ショウガ科のスパイス)のソース。

KHAO
住所:東京都千代田区神田神保町2の12の7  フェルメール1F  
TEL.050-3204-2928
コース¥22,000~
公式サイト

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