日本の食文化の礎にある出汁。昆布は、出汁に不可欠なものだが、現在、その天然昆布が危機に瀕しているという。北海道は世界でも最も旨味のある昆布がとれる地だ。国内外問わず、食の探求のためにさまざまな地に暮らしてきたノマドなエディター、ヤミー高山こと、高山裕美子さんが、次世代を担う昆布漁師に会いに行った

TEXT & PHOTOGRAPHS BY YUMIKO TAKAYAMA

画像: 「拾い昆布」漁を行う保志弘一さん。漁師家系3代目になる。品質のいい昆布をよりわけてまとめる

「拾い昆布」漁を行う保志弘一さん。漁師家系3代目になる。品質のいい昆布をよりわけてまとめる

250年以上前から継承されている
「拾い昆布」漁が残る十勝・広尾町

 日本でとれる昆布の9割以上の産地は北海道。世界的に見ても、出汁にしたときに最も味がいいのが北海道でとれる昆布だというから、私たちは恵まれている。ただ近年、地球温暖化や磯焼け(海水温上昇などでウニが大量発生し、昆布を始めとする海藻を食べつくしてしまっている状況)の影響で、天然昆布の漁獲高が激減。加えて後継者が減っており、今後昆布漁はどうなっていくのか。

 9月のある日、十勝・広尾町の昆布漁師、「ほし乃家」の保志弘一さんの漁を見学させてもらえることになった。保志さんは地元広尾町の出身。もともとはサケマスやイカ、毛ガニを専門に採る漁船漁業の漁師だったが、原油の高騰や漁獲高が年々激減していたことで、2015年前後から昆布漁に徐々に転向していった。広尾町で採れるのは「日高昆布系」の昆布。柔らかくて煮えやすいのが最大の特徴で、だしを取るだけでなく、おでんや昆布巻き、佃煮などの具材としても非常に万能。昆布漁は250年以上も前からこの地域の大切な産業だ。

 広尾町の昆布漁は、7月中旬に解禁され10月頃までとされており、採り過ぎを防ぐため漁をしていい時間は朝5時から10時30分まで、と決まっている(漁協協同組合と昆布部会で設定し、年によって異なる)。ここでの昆布漁は海で昆布をとり、天日で干すという昔ながらの方法。「まず、“旗持ち”という各浜の代表が集まり、その日の天候や海の状態を見て漁をするかどうか判断をします。GOサインが出たら即時に各浜に連絡が飛び、港にある旗を上げ、操業(漁の開始)を呼びかける。その後、漁師たちが船を出し、5時から一斉にとり始めます。3メートルから5メートル程のカギ竿で水中の昆布を引き寄せ、一本一本手で抜きます。船がいっぱいになったら港に戻り、その様子を陸から見ている“おかまわり”と呼ばれる人達(陸上の作業する人達)が、船が戻るのを確認したらトラックで港に積み込みに走ります」と保志さん。5時から10時30分までの間、船での漁は多くて5往復くらい、平均3〜4往復だそう。漁の期間は3カ月以上あっても、天気が悪いと漁には出られず、霧が出る日も多いことから昆布を干せない日もあり、実際に稼働する日程は少ない。「漁の最中でも、霧や雨が来そうな時は旗持ちが相談して、途中で辞めることもあります。100%天日干しがこのエリアの特徴なので、年間10日前後の操業日数となっています」と保志さん。それは少なすぎる!
 

画像: マッケと呼ばれるいかりのような道具を海に投げ入れ、漂っている昆布をとる保志さん

マッケと呼ばれるいかりのような道具を海に投げ入れ、漂っている昆布をとる保志さん

 この日、保志さんが行った漁は船を使わずに浜で行う、「拾い昆布」という漁。「拾い昆布」とは、海に漂っていたり、浜に打ち上げられた2年ものの昆布をとるという手法だ。昆布は一般的に2〜3年の寿命を持つが、1年目の薄っぺらい「水昆布」が成長を終えて枯れてから、その根元から再生した2年目の昆布を採取する。2年目の昆布は、1年目のものより大きく、厚みがあり、味がいいのだ。拾い昆布は船を使う必要がないため、経済的にも環境にもやさしい。しかも、オールシーズン、毎日漁を行うことができる。昆布の専業農家には冬も「拾い昆布」をする人もいるという(ちなみに保志さんは冬はつぶ貝のかご漁を行っており、この地域では複数の漁を行う漁師がほとんど)。保志さんを訪ねた日の前日が大しけで、そういう日は多くの昆布が浜に打ちあがるため、「拾い昆布」漁日和なのだとか。実際、ほかの浜でも昆布を拾う漁師を数多く見かけた。

画像: 昆布は長いもの10メートル以上ある。かなりの重さになるため、二人がかりで運ぶ

昆布は長いもの10メートル以上ある。かなりの重さになるため、二人がかりで運ぶ

 浜に流れ着いた昆布の塊を選別して束にして積み上げていく。ときおり、マッケという“いかり”のような形の道具を海に投げ入れ、流れてきた昆布をひっかけてとるのだが、海水をまとった大量の昆布はかなりの重量になるため、海から引きずりだす作業ではその都度、保志さんの父がサポートに入っていた。漁が終わり次第、小さなクレーンを使ってトラックに昆布をのせ、海からすぐの場所にある「フンベの滝」で昆布を洗って(収穫した昆布を真水で洗うが、海水で洗う地域もある)、ゴミなどを取る。そして干場へと運び、昆布を並べて乾かす。炎天下のなかでの作業になるため、体力をかなり消耗させる。漁の時間も制限があり、日照時間も限られている。乾燥させないと昆布は腐ってしまうし、雨に当たると商品価値はゼロになるから、一連の作業は時間との勝負だ。

画像: 専用の干場で干される昆布。川の石と海の石を混ぜておき、それぞれの特性を生かしている。海の石は温度が上がりやすく、すぐ乾くがくっつきやすい。川の石は温度はあまり上がらないが、くっつかない

専用の干場で干される昆布。川の石と海の石を混ぜておき、それぞれの特性を生かしている。海の石は温度が上がりやすく、すぐ乾くがくっつきやすい。川の石は温度はあまり上がらないが、くっつかない

商品にならない昆布を加工して
持続可能な未来の昆布漁を目指す

 実は保志さん、10年以上前に昆布漁に転向したが、生活が楽になった訳ではなかったと言う。昆布は前述の一連の作業の後、等級ごとに選別して切りそろえるという作業もある。手間に対して収入が見合わないと、地域では漁師離れが進んでいた。「昆布漁を始めた当初は僕自身、林業と兼業しないと生計を立てられない状況で、この昆布漁の仕組み自体を変えていかないと、地場の産業として衰退する一方だと感じました」と、保志さん。日高昆布は、真昆布や利尻昆布、羅臼昆布よりも、“庶民派”な昆布として安価で取引されている。加えて日高昆布の産地内でも「浜格差」があり、広尾町は比較的格付けが下のほうだということも、低収入にならざる負えない原因のひとつだった。

画像: 高台にある昆布の干場で熱く話をする保志さん

高台にある昆布の干場で熱く話をする保志さん

 広尾町の昆布に付加価値をつけられないか──。2020年に建築家の友人と、問題を解決する新しい漁業の仕組みを1年間、毎日議論した。広尾町の昆布を規格サイズに細断するときに出る端財の昆布を利用すべく実験を始めた。今までくず昆布として廃棄されていたものだ。「もともと出汁が出るものだから、粉砕してうまみ調味料のように料理に利用できないかって、昆布をミルで挽いてみたんです」。建築家の友人は料理好きで、その昆布の粉を加えた料理をあれこれと試作し、なかでもトマトソースが格段においしくなったという。しかも挽いたときの粒子の大きさによって味が異なることに気が付いた。帯広にある食品加工技術センターに持ち込んで調べてもらったら、2mm角にまで粉砕された昆布は、通常の昆布の2倍のうまみ成分が出ることが判明。
「これだ!って思いましたね。おいしい昆布出汁をとるっていうと敷居が高いけど、粉になると途端にハードルが下がる。僕みたいなズボラな人間でも使える手軽さがいい。なによりもみんなが“くず”と呼んでいたものを、本物を超える価値にして、広尾町の名物にしようと思ったんです」と、保志さん。

ちょっと粗目の粉砕なので、食感をいかした使い方をするといい。おにぎりに混ぜ込んでも

COURTESY OF HOSHIKUZUKONBU

 事業計画書を書き、国の「事業再構築補助金」の審査を通過。まずは天気による乾燥のリスクを回避するために乾燥機を導入し、天日干しと乾燥機のダブル乾燥を行うことにした。ミルでの作業はかなりの労働量となるため、ハイパワーの粉砕機を特注。昆布を粉砕したものを2021年2月に「星屑昆布」という名で売り出した(すばらしいネーミングセンス!)。実際、自分でも使用してみたが、100%昆布で塩味もあるので塩感覚で使える。例えばじゃがバターやチーズトーストなど、いつもの料理にうま味が足されて美味だった。

バターに「星屑昆布」を混ぜて、蒸したじゃがいもにトッピング。ほどよい塩味でプチプチ食感

 昆布のことをもっと知ってほしいと、起業家の集まりなどに登壇して自らの挑戦を語り、地元の小学校で出張授業を行い、広尾町の観光協会とともに昆布漁体験の受け入れも始めた。そういった地道な取り組みのおかげか、「星屑昆布」を帯広市の有名店の料理人も使うようになったという。そして、そんな「星屑昆布」が、総合食品卸大手の目にとまり、2024年から「星屑昆布」コンビニのポテトチップスやポップコーンといった期間限定商品の加工に使用されるなど、大躍進を遂げている。

画像: 干場の前に建てられた「星屑昆布」の加工場。乾燥室と粉砕室がある

干場の前に建てられた「星屑昆布」の加工場。乾燥室と粉砕室がある

 保志さんの話で興味深かったのは、今後は船を使った昆布漁ではなく、「拾い昆布」漁を中心にシフトしていきたいということだ。「地域の伝統を守ることは大事であり、リスペクトされるべきだと思います。ただ、次世代に引き継ぐ事を考えると、そもそもの社会の前提条件も変わり、課題も多い。伝統や文化に敬意を持って、未来を見据えた変化と改善、または選択肢と可能性の探求が必要。拾い昆布は広尾町では代々引き継がれてきた昆布漁の手法。サステナブルな漁だし、みんなで端材の昆布を粉砕して商品化することで、環境にやさしい町としてもブランディングできる。町が良くなって、漁業も良くなって、地域も良くなる。そんな風になったらいいなと思っています」

 すでに保志さんに続けとばかり、昆布を粉砕して加工をはじめた地元の若手漁師もいるという。持続可能な昆布漁で町おこしができたら、そしてそのことが昆布のある日本の食文化を守ることにつながったらそんな素晴らしいことはない。私も、昆布を後世に繫げるために何かできないか、真剣に考えたいと思う。

画像: 「星屑昆布」(50g¥555)と、右は乾燥昆布を小さく切ったものが入ったアイデア商品「噛む噛む昆布」(25g¥600)/ほし乃家 ほし乃家公式サイトはこちら

「星屑昆布」(50g¥555)と、右は乾燥昆布を小さく切ったものが入ったアイデア商品「噛む噛む昆布」(25g¥600)/ほし乃家

ほし乃家公式サイトはこちら

高山裕美子(たかやま・ゆみこ)
エディター、ライター。ファッション誌やカルチャー映画誌、インテリアや食の専門誌の編集者を経て、現在フリーランスに。国内外のローカルな食文化を探求することがライフワーク。2024年8月に、東京から北海道・十勝エリアに引っ越してきたばかり

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