豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。郷土で愛されるソウルフードから、地元に溶け込んだ温かくもハイセンスなスポットまで…その場所を訪れなければ出逢えない日本各地の「トレジャー」を探す旅に出かけたい。案内人は、手しごと発掘に情熱を注ぐクリエイティブディレクター樺澤貴子。幕開けは大分県から。幕末まで小藩分立制度により8藩7領に分かれていた大分には、エリアごとに異なる郷土の魅力が溢れていた

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

市街地を囲むように高崎山、鎧ヶ岳、霊山、九六位山、樅木山が個性的な稜線を描き、市域の約半分を森林が占めるほど緑に恵まれた「大分市」。北に別府湾を臨み、渡たる風はどこまでも瑞々しい。この土地を見守り遥かなる時を刻んできた聖なる森へ、まずは挨拶に参じたい

《SEE》「柞原八幡宮(ゆすはらはちまんぐう)」
八幡様の森で、太古の神秘に抱かれる

画像: アニミズムを根底とする日本の神道。巨大な楠を見上げると、神様の依り代として崇めてきた古代の人々の思いと繋がるようだ

アニミズムを根底とする日本の神道。巨大な楠を見上げると、神様の依り代として崇めてきた古代の人々の思いと繋がるようだ

 森には不思議な吸引力がある。人間の手で荒らされることのない「入らずの森」なら、なおの事だ。柞原八幡宮は豊後で最大とされた神社で、1200年近い歴史を持つ神域。社を構える柞原の森は、「八幡様の森」と呼ばれ、数千年前からの森の姿を今に留めている。森に圧倒的な存在感を与えているのは、暖かい気候に適したイチイガシ、コジイ、シイノキ、そしてイスノキなど常緑広葉樹の高木だ。表参道の石段を上るとすぐに樹齢約450年のホルトノキがお出迎え。天を仰ぐほどの凛々しい姿に後ろ髪を引かれながらも、さらに奥へと歩を進めると原生林の鼓動が聞こえてくるようだ。

画像: 樹高25mにも及ぶホルトノキ。南蛮貿易ゆかりの渡来種としてポルトガル人が植えたという伝来をもつ

樹高25mにも及ぶホルトノキ。南蛮貿易ゆかりの渡来種としてポルトガル人が植えたという伝来をもつ

 柞原八幡宮の起源は、天長4(827)年の平安時代にまで遡る。比叡山延暦寺の金亀(こんき)和尚が、八幡神社の総本宮である宇佐神宮に1000日間の宮籠りに入った際、お告げにより「八幡神の衣が空を飛び柞原の森の大楠にとまる」という験(しるし)に遭遇する。この出来事は朝廷に奏上され、仁明天皇の命によって大楠のある土地に社殿を創建。承和3(836)年に完成を迎え、柞原八幡宮の歴史の幕が開ける。神社の名称は、元来「由原八幡宮」と表記されてきたが、明治以降に「柞原」の文字が使われるように。「柞」はクヌギ類の総称であると同時に、樹高が20m以上にも達するイスノキ(別名ユスノキ)を意味。森を形成する樹々の恩恵に預かり、その名に当てたとされている。

画像: 国の天然記念物に指定されている樹齢約3000年と伝えられている大楠。回り込んで観察すると幹には空洞も見られ、計り知れない生命力に畏敬の念が湧き上がる

国の天然記念物に指定されている樹齢約3000年と伝えられている大楠。回り込んで観察すると幹には空洞も見られ、計り知れない生命力に畏敬の念が湧き上がる

 社殿は本殿を中心に、申殿や拝殿、廻廊、楼門が続く典型的な八幡造りを成し、ほとんどが国の重要文化財に指定されている。その見所の一つがご神木の近くに佇む南大門だ。別名「日暮し門」と呼ばれ、銅板葺の入母屋造で前後に大きな唐破風の向拝が付けられ、どっしりとした趣がある。壁面には聖人や龍、花、鳥などが彫刻され、豊後国随一の入口を飾るに相応しい職人技が光る。また、この土地を訪れたい……そう思える自分だけの「宿り木」を見つけながら、神様の森を巡ってはいかがだろう。

画像: 向拝の額は「由原八幡宮」とある。「八幡由原宮」「賀来社」とも呼ばれていた

向拝の額は「由原八幡宮」とある。「八幡由原宮」「賀来社」とも呼ばれていた

画像: 二十四孝を題材に壁面に施された木彫は、日が暮れるまで鑑賞したくなるほど見事

二十四孝を題材に壁面に施された木彫は、日が暮れるまで鑑賞したくなるほど見事

画像: 楼門を中心に東西に羽を広げるように設えた回廊。濃密な原生林にすっぽりと包まれるように、荘厳な社殿が連なる景観は圧巻だ

楼門を中心に東西に羽を広げるように設えた回廊。濃密な原生林にすっぽりと包まれるように、荘厳な社殿が連なる景観は圧巻だ

画像: 参拝するなら、早朝がおすすめ。高木の間から差し込む光に照らされ、苔むす参道が一層幻想的

参拝するなら、早朝がおすすめ。高木の間から差し込む光に照らされ、苔むす参道が一層幻想的

画像: 南大門を抜けると、参道は二手に分かれる。左を進むと、一箇所だけ扇型の敷石があり、踏むと幸運が舞い込むと伝わる

南大門を抜けると、参道は二手に分かれる。左を進むと、一箇所だけ扇型の敷石があり、踏むと幸運が舞い込むと伝わる

住所:大分県大分市大字八幡987
電話:097-534-0065
公式サイトはこちら

《STAY》「JR九州ホテル ブラッサム大分」
絶景を眺める天空のスパで「ととのう」

画像: 別府湾がほのかに色づく早朝の露天風呂 COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

別府湾がほのかに色づく早朝の露天風呂
COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

 旅の宿は、何に価値を求めるかが大切だ。ここ「JR九州ホテル ブラッサム大分」の魅力は、ホテルの19~21階に設えた『CITY SPA てんくう』の眺望にある。地上80m、最上階の天空露天風呂は、湯船に身を沈めると水面と別府湾の水平線が並行し、個性的なシルエットを描く山々がフレームのように連なる。「露天風呂は時間帯を変えて、ぜひ3つの顔を楽しんでください」と語るのは、支配人の木原誉さん。幻想的な夜明けのマジックアワー、山も海も珊瑚色に染まるトワイライトタイム、そして精緻な街明かりが美しい暮夜……。

 露天風呂や内風呂に加え、多種多様のスパが堪能できるのも嬉しい限り。フィンランド産の香花石を使ったサウナは、優しい光とともに眼下に大分の街並みが広がる開放感。そのほか、柔らかなミストが身体の疲れをゆっくりと解きほぐすアロマスチームサウナや、岩塩壁から発せられる輻射熱が代謝を促すアロマソルトスパ、発汗後に自然と呼吸が深まるクールスパなど。巡るだけで精神まで研ぎ澄まされるよう。

画像: 九州最大級の広さを誇る室温60℃のドライサウナ(別料金) COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

九州最大級の広さを誇る室温60℃のドライサウナ(別料金)
COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

画像: 見た目にも涼やかな空間で、温まった身体をクールダウン(別料金) COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

見た目にも涼やかな空間で、温まった身体をクールダウン(別料金)
COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

 このホテルのもう一つ特筆すべき点は、クルーズトレイン「ななつ星in九州」を手がけた水戸岡鋭治氏が手がけた内装にある。九州に由来する石や木をふんだんに用い、伝統工芸の組子細工がロビーラウンジに独創的な温もりを演出。さらに、客室の家具やインテリア照明に到るまで、まるで豪華列車の旅気分を体感することができる。大分駅直結という好立地に加え、滞在したゲストにしかわからない解放感がここに。

画像: 木の優しい味わいに心安らぐ客室。写真は二面に窓を設えたプレミアムキング COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

木の優しい味わいに心安らぐ客室。写真は二面に窓を設えたプレミアムキング
COURTESY OF JR KYUSYU HOTEL BLOSSOM OITA

住所:大分県大分市要町1-14
電話:097-578-8719
公式サイトはこちら

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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