豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す連載。山間を染める桜や藤を見送ったころ、訪れたのは新緑を迎えた箱根。強羅に誕生したスモールラグジュアリーの宿を拠点に、緑雨の森と戯れた

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

画像: 「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」の鮮やかな紫陽花ストリートが雨の日を悦びへと誘う

「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」の鮮やかな紫陽花ストリートが雨の日を悦びへと誘う


《STAY》「ふふ 箱根」
すべてが極上、新緑の“箱根時間”にたゆたう

画像: ナトリウム塩化物温泉の客室風呂。窓を開けると間近に新緑が迫り、鳥のさえずりに包まれる

ナトリウム塩化物温泉の客室風呂。窓を開けると間近に新緑が迫り、鳥のさえずりに包まれる

 時として人は意表を突かれると、その驚きが感動へと変わることがある。ここ「ふふ 箱根」では、幾度となくハッとする瞬間が訪れた。全室をスイートルーム仕様に設えたスモールラグジュアリーな宿として、2007年に熱海を最初の地として誕生した「ふふ」ブランド。2022年には、箱根エリアで待望のデビューを迎えた。客室は39室、その全室に客室風呂を備えている。何度訪れても新鮮な高揚感を得られるように、全ての部屋の家具の配置とインテリアが異なることも、上質を熟知した大人の感性をくすぐる。

画像: 客室のエントランスから、この抜け感のある眺めに迎えられる

客室のエントランスから、この抜け感のある眺めに迎えられる

 今回レコメンドしたい部屋は、傾斜を利用した敷地を見下ろす4階の「ふふラグジュアリープレミアムスイート」。客室の扉を開くと、目の前にはゆったりとしたパウダールームが広がり、その先に新緑を借景とした内風呂が一直線で眺められる。 “意表”を突いた間取りは、冒頭のごとく瞬時に高揚感へと変わり室内へと誘われた。心の赴くままに向かった客室風呂の隣には、ベッドルームを配置。朝目覚めて真っ先に視線に飛び込む新緑を想像するだけで、森の生命力を存分に堪能する間取りと絶妙のロケーションに再びの感動が蘇る。

画像: 窓を全開にすると半露天風呂感覚で自然とつながる。防水ベッドを備え、自分のペースでゆっくりと“整う”ことができる

窓を全開にすると半露天風呂感覚で自然とつながる。防水ベッドを備え、自分のペースでゆっくりと“整う”ことができる

画像: オリジナルのアメニティ。松や檜、杉など森をイメージした香りは箱根限定(スーベニアコーナーで購入可能)

オリジナルのアメニティ。松や檜、杉など森をイメージした香りは箱根限定(スーベニアコーナーで購入可能)

画像: ベッドから望む景観は、新緑という絵画を眺めるよう。シモンズベッドとのコラボレーションから生まれたマットレス「SLEEPLEASURE」は、その名のとおり眠りの悦びを体感できる

ベッドから望む景観は、新緑という絵画を眺めるよう。シモンズベッドとのコラボレーションから生まれたマットレス「SLEEPLEASURE」は、その名のとおり眠りの悦びを体感できる

 ここ「ふふ 箱根」は、強羅という土地からインスピレーションを受け、全体を“森と岩”をテーマに構築している。リビングへ回り込むと、部屋全体が清々しい香りに包まれていることに気づく。ディフューザーとして設えたオブジェには、約400年前の箱根火山の噴火で生まれた「小松石」がおかれ、森の空気とともに「ロックブラウン」と銘打った香りが室内を浮遊する。L字型に配されたソファに加え、窓際にはデイベッドを据え、テラスにも防水ソファを設えたインテリアに、“何にも捕らわれず、何もしない贅沢な時間”のための最上の演出を感じた。

画像: 広いリビングの空間。時間帯によって“今”という瞬間を味わう自分の居場所に留まりたい

広いリビングの空間。時間帯によって“今”という瞬間を味わう自分の居場所に留まりたい

画像: 強羅という土地を想起させるオリジナルのエッセンシャルオイル「ロックブラウン」。小松石のディフューザーも購入可能

強羅という土地を想起させるオリジナルのエッセンシャルオイル「ロックブラウン」。小松石のディフューザーも購入可能

 ディナーはプリフィックススタイルの日本料理を堪能する。コースのプロローグとなる向付けは、ホタルイカを添えた卯の花和えや桜エビとひじきの笹巻き寿司、蕗の薹のカステラなど、季節の恵みに彩られた滋味溢れる品々が目を楽しませる。14品のメニューから3品を自由に組み合わせられる進め肴も、ひとりひとりの体調や気分を尊重した、ほかにはない趣向といえる。この日は定番の一品である「地鶏のタルタルの香薫春巻き 黄身辛子」「平貝と山菜の山椒和え 酒盗クリーム 旨酢ジュレ」「箱根山麓豚の香味焼き ベリーソース ワインソース」という3品をオーダー。食材の香りと食感を存分に味わった。

画像: 向付けでは、箱根連山の雲海を演出。あしらわれた山の花々も風情を添えて

向付けでは、箱根連山の雲海を演出。あしらわれた山の花々も風情を添えて

画像: 低温調理で柔らかく仕上げた豚の香味焼きはベリーソースが春らしいアクセントに。平貝は、まずは山菜の苦味とともに。続いて湘南ゴールドの酸味で変化を楽しみたい

低温調理で柔らかく仕上げた豚の香味焼きはベリーソースが春らしいアクセントに。平貝は、まずは山菜の苦味とともに。続いて湘南ゴールドの酸味で変化を楽しみたい

 満たしたお腹が落ち着いた頃、湯殿へと足を運ぶ。客室風呂と大浴場とで異なる泉質を引いていると聞き、夜は室内の湯に浸り、朝は大浴場で四肢を伸ばす。建物全体が3棟から構成され客室は外廊下と中庭で繋がるため、部屋を一歩出るだけで深い森の気配に包まれる。湯冷めしないようにと用意された丹前や綿入りの羽織にもセンスが宿り、“目に見えないラグジュアリーの本質”が感じられた。全室をスイートルームに仕立てた一流の設えはもちろんのこと、それらを省いたとしても「これぞ日本のおもてなし」と思える細やかな引き算の心尽くしが「ふふ 箱根」には満ちていた。

画像: 木立の間から箱根連山を眺める、最上階の大浴場 PHOTOGRAPH: COURTESY OF FUFU HAKONE

木立の間から箱根連山を眺める、最上階の大浴場

PHOTOGRAPH: COURTESY OF FUFU HAKONE

画像: 傾斜を利用した中庭を渡り、施設内を移動するのも一興である

傾斜を利用した中庭を渡り、施設内を移動するのも一興である

住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-807
電話:0570-0117-22
公式サイトはこちら

《CAFÉ&SEE》「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」
花とアートの競演を愛でる大人ピクニック

画像: 生憎の雨でもレインブーツのレンタルがあるため、安心してガーデン散策を楽しめる

生憎の雨でもレインブーツのレンタルがあるため、安心してガーデン散策を楽しめる

 あるがままの森の姿も美しいが、意図的に構築された庭もまた美しい。デザインした人物が類稀なセンスの持ち主であれば、なおのことである。ここ「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」は、箱根の原生林と都会的な感性が絶妙に交差する庭園として、長年の構想を経て2022年4月に誕生。人間の手を加えすぎず、それでいて森の整備に繋がるように、自然を尊重しながら守ることを核として作り上げられた。敷地内には、ガラス張りのパビリオンが点在し、四季折々の花々とともにシーズナブルな企画を展開。取材で訪れた頃は、ちょうど2周年のアニバーサリーイベントとして春の花が咲き誇り、ニコライ・バーグマン氏によるフラワーインスタレーションを展示。さらに、デンマークのアーティスト、エスケ・トゥボルグによる「FLOW, US」の作品が園内の随所に彩りを添えていた。

画像: それぞれのパビリオンごとに、異なるフラワーアレンジとアートを設えて

それぞれのパビリオンごとに、異なるフラワーアレンジとアートを設えて

画像: カフェでテイクアウトしたチキンクラブサンドイッチをレンタルバスケットにおさめ、好きなポジションでランチタイムを

カフェでテイクアウトしたチキンクラブサンドイッチをレンタルバスケットにおさめ、好きなポジションでランチタイムを

 取材日は雨模様だったが、それも森を育む恵みの雨と思えば、目に映る新緑が一層の瑞々しさを増すように思えた。チェックインを済ませると、レインブーツのレンタルがあると聞き、この雨を逆手にとって楽しもうと気分が上がる。カフェでサンドイッチとドリンクをテイクアウトし、意気揚々と園内を巡る。椅子やテーブルがセットされているパビリオンが3箇所あるため、雨のピクニックも安心して楽しめる。ガラス張りの天井に降り注ぐ雨と木立の雫が耳をくすぐり、無数の花々とアートが視界を満たす。やまない雨に怯むことなく、小径を進むと足元がふかふかとしていることに気づく。枯れたクマザサなどを敷き詰めた優しい大地は、雨の日でもぬかるむことなく園内を散策できるための演出だという。

画像: ニコライ バーグマンらしい黒を基調に、ナチュラルなウッドテイストが心地よい

ニコライ バーグマンらしい黒を基調に、ナチュラルなウッドテイストが心地よい

画像: 季節ごとのスイーツさえも、色鮮やかな花のよう

季節ごとのスイーツさえも、色鮮やかな花のよう

 ひとしきり園内を堪能し、再びカフェに戻りひと休みをする。雨の中の撮影を無事に終えてほっとしたせいか、インテリアのディテールに目がとまる。園内の倒木で創作したテーブルや幾何学的に組まれた梁、自然光が差し込む屋根や心地よい風が訪れる大きな扉など……。ニコライ・バーグマン氏本人が創案した、スカンジナビアスタイルの心地よい空間であったと知る。テーブルには、その日の朝に活けたフラワーアレンジがちりばめられていた。森の魅力を感じる箱根の旅の記憶に、可憐な花々がビビッドな彩りとして刻まれた。

画像: 2周年のアニバーアリーを迎えたこの時期には、珍しい品種のチューリップやムスカリが園内をビビッドに満たしていた

2周年のアニバーアリーを迎えたこの時期には、珍しい品種のチューリップやムスカリが園内をビビッドに満たしていた

住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1323-119
電話:0460-83-9087
公式サイトはこちら

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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