ル・コルビュジエ、アイリーン・グレイ、ココ・シャネルらが別荘を建て静かな時を過ごしたフレンチ・リヴィエラの村、ロクブリュヌ=カップ=マルタン。隠された宝石のようなこの場所に、イギリスの名門ホテルグループ、メイボーンが2021年にオープンした「ザ メイボーン リヴィエラ」。誰かに語りたくなるような極上のストーリーが生まれるホテルの魅力とはーー

BY HARUMI KONO

画像: ロクブリュヌ=カップ=マルタンの断崖絶壁に建つ「ザ メイボーン リヴィエラ」

ロクブリュヌ=カップ=マルタンの断崖絶壁に建つ「ザ メイボーン リヴィエラ」

「ザ メイボーン リヴィエラ」は、ロンドンを中心に展開するメイボーンのメンバーホテル。現在はロンドンの「クラリッジズ(Claridge’s)」、「ザ コノート(The Connaught)」、「ザ バークレー(The Berkeley)」、「ジ エモリー(The Emory)」、アメリカの「ザ メイボーン ビバリーヒルズ(The Maybourne Beverly Hills)」とあわせた6つのホテルから構成されるこのホテルグループは、小規模ではあるが、顧客リストには世界のロイヤルファミリーや国家元首が名を連ねる。中でもロンドンのクラリッジズは、天皇皇后両陛下が滞在された最上級の格式を誇るホテルとして知られている。

画像: インフィニティープールが付いたインフィニティ ブルー スイート

インフィニティープールが付いたインフィニティ ブルー スイート

 2021年、メイボーンが初めてフランスに進出。選んだ地がフレンチ・リヴィエラで密かに人気を集めるロクブリュヌ=カップ=マルタンだ。イタリアとモナコの間に位置するこの地に魅せられたのは、自身が建てた「休暇小屋」で晩年を過ごした建築家のル・コルビュジエ、ビベンダムチェアやアジャスタブルテーブル、そして自身のヴィラE1027をデザインしたプロダクトデザイナーのアイリーン・グレイ、そしてココ・シャネル。シャネルは北フランスの高級避暑地ドーヴィルに最初のブティックを開き、パリで激動の時代を生きた。その彼女が安らぎを求めて「ラ パウザ」(イタリア語で休憩の意味)という名の別荘を建てたのがロクブリュヌ=カップ=マルタンだと聞けば、ここがどれほど人々に寛ぎを与える場所であるか、お分かりいただけるだろう。

画像: パノラミック スイートは二方面に地中海の絶景が広がる

パノラミック スイートは二方面に地中海の絶景が広がる

画像: 開放感あるベッドルームのデザインはケンブリッジ大学を卒業した才媛ミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同作。グループ内のグローバル ヘッド オブデザインを務めている

開放感あるベッドルームのデザインはケンブリッジ大学を卒業した才媛ミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同作。グループ内のグローバル ヘッド オブデザインを務めている

 ザ メイボーン リヴィエラはロクブリュヌ=カップ=マルタンの山頂、モナコを見下ろす断崖に建つ。65部屋のすべてがバルコニー付きで、太陽の光と地中海を五感で感じることができるインフィニティービューという贅沢な空間を有する。建築家ジャン=ミシェル・ウィルモット氏によるモダンでシャープな建物とは対照的に、ホテルの中は地中海の波のような曲線美に満ち溢れている。レストランのテーブルや椅子、バーのカウンターに至るまでもだ。

画像: リヴィエラ スイートのリビングルーム(写真上)とダイニングルーム(下) デュープレックス(2階建て)のリヴィエラ スイートはヨットのキャビンに着想を得たもの。丸みを帯びたインテリアに注目したい

リヴィエラ スイートのリビングルーム(写真上)とダイニングルーム(下)
デュープレックス(2階建て)のリヴィエラ スイートはヨットのキャビンに着想を得たもの。丸みを帯びたインテリアに注目したい

画像1: 大人のための至福のホテル案内
Vol.6 ザ メイボーン リヴィエラ
フレンチ・リヴィエラに佇む秘宝

 スイートルームの一つ「リヴィエラ スイート」のコンセプトはヨットのキャビン。部屋にいながら海に浮かぶヨットの中にいるようだ。デザインはメイボーンのグローバル ヘッド オブ デザインのミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同制作。外部の著名なデザイナーとコラボレーションしながら、社内のデザイン部門がデザインを担当していることもメイボーンの特徴だ。
 
 ロンドンの老舗グループホテルに比べると、ザ メイボーン リヴィエラに滞在して感じることは若いスタッフの活躍だ。笑顔を絶やさないスタッフのスマートなサービスが心地良い。「トマトとフルーツサラダの例えで有名な言葉(註)にもあるように、知識を持ち合わせていたとしても、現場では状況を理解してゲストに対応する知恵が必要です。若いスタッフが持つ可能性をいかに伸ばすか、仮にミスをしたとしてもそれを過ちと捉えるのではなく次のステップへの過程と受け止め、彼らにヒントを与え正しい方向に導く。それが私の大切な仕事です」と語るのは、総支配人のフランシスコ・ガルシア氏。投げかける質問に、格言やビジネス書の引用を交えて丁寧に答える知性派だ。

画像: ザ メイボーン リヴィエラ 総支配人 フランシスコ・ガルシア氏(Francisco García) スペイン生まれ。ホテリエだった父の仕事に伴い幼少期をパナマ、ベネズエラ、メキシコで過ごす。コーネル大学卒業後、「フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツ」、「オテル ド クリヨン ア ローズウッドホテル」、「マンダリン オリエンタル」、「シュヴァル ブラン クールシュヴェル」でのホテルマネージャー、総支配人の要職を経て2024年7月より現職

ザ メイボーン リヴィエラ 総支配人 フランシスコ・ガルシア氏(Francisco García)

スペイン生まれ。ホテリエだった父の仕事に伴い幼少期をパナマ、ベネズエラ、メキシコで過ごす。コーネル大学卒業後、「フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツ」、「オテル ド クリヨン ア ローズウッドホテル」、「マンダリン オリエンタル」、「シュヴァル ブラン クールシュヴェル」でのホテルマネージャー、総支配人の要職を経て2024年7月より現職

「メイボーンは小さなホテルグループです。私たちは宣伝に焦点を当てるのではなく、ゲストが滞在されたときに何をどう感じるかに焦点を当てています。ですから、お客様とともにメイボーンという文化を作り、ストーリーとして語り継がれるような時間をお過ごしいただきたいと願っています」

 ザ メイボーン リヴィエラにとって、ゲストの言葉は重要な意味を持つ。ガルシア氏はゲストが投稿する評価すべてに必ず目を通し、一人一人のゲストにカスタマイズしたホスピタリティを提供することが真のラグジュアリーと考え、ゲストを迎えている。

 2024年7月に着任したばかりのガルシア氏は、初めてホテルに来たときのことを鮮明に覚えているという。「初めてこのホテルを訪れたのは2024年の5月でした。その時、今まで経験したことのない高揚感とリラックスする気持ちを感じたのですが、それはロクブリュヌ=カップ=マルタン独特の地形や自然、受け継がれてきた文化に由来すると思います。イタリアから日が昇り、モナコで日が暮れる。静かな時間が流れ、山と海と空をこれほど近くに感じる場所はフレンチ・リヴィエラの中でも珍しく、隠された宝石のような場所です。ぜひこのホテルにいらして滞在をお楽しみいただきたいと思います」

画像: 緩やかに波打つバー「Le 300」のカウンター

緩やかに波打つバー「Le 300」のカウンター

 その場所に行かないとわからない空気や質感――ザ メイボーン リヴィエラはそうした魅力に満ちている。イタリアとフランスとモナコ。三つの国の文化が交錯するのは地理的な条件だけではなく食の分野にも表れている。プールサイドのレストランではナポリ市出身の職人がピザ窯でピザを焼き、バーでは地元の特産のレモンを使ったカクテルでアペリティフを楽しみ、地中海産のシーフードで三つの国の食を味わえる。

画像: 岬の先端にはビーチクラブがあり、専用の車でアクセスできる。地中海の夏のヴァカンスを満喫したい(夏期のみ営業)

岬の先端にはビーチクラブがあり、専用の車でアクセスできる。地中海の夏のヴァカンスを満喫したい(夏期のみ営業)

 夏には岬(カップ マルタン)のビーチクラブで過ごしたり、インフィニティープールで泳いだり、館内の美術館級の作品を鑑賞したり、スパで身体を癒したり。ホテルを楽しむ時間は様々だ。

画像: 紺碧の地中海が眼下に広がるインフィニティプール PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE MAYBOURNE RIVIERA

紺碧の地中海が眼下に広がるインフィニティプール

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE MAYBOURNE RIVIERA

 ゲストが自由に写真を撮って持ち帰ることができるように、客室にはインスタントカメラが置いてあり、滞在中の出来事を綴り手紙を出せるよう、国際郵便の切手が貼られたポストカードが用意されている。ザ メイボーン リヴィエラで過ごす日々が、旅が終わってからも鮮明に蘇り、必ず誰かに楽しい滞在だったと話をしたくなるストーリーが展開する。そこにはガルシア氏が目指すメイボーン独自の文化が着実に育まれている。

(註)
”Knowledge is knowing that tomato is a fruit. Wisdom is knowing not to put it in a fruit salad.”
「知識とは、トマトは果物であると知ることである。知恵とは、それをフルーツサラダには入れないことである」

ザ メイボーン リヴィエラ
The Maybourne Riviera
1551 Route de la Turbie, 06190 Roquebrune-Cap-Martin, France
公式サイトはこちら

髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら

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