魅力的なホテルは数あれど、宿泊や食にとどまらず、滞在すること自体に価値を見出せる究極のホテルとはーー国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心に担う髙野はるみが、プロの視点で厳選した、ラグジュアリーなステイ先を紹介する海外編。

BY HARUMI KONO

ウォーレン・ストリート・ホテル

グラマラスなデザインでNYを席巻

映画、アート、グルメといった文化の拠点としてニューヨークの最先端をゆくロウアーマンハッタンのトライベッカ。2024年2月に、カラフルな色の組み合わせ、大胆なデザインとファブリック使いを得意とするデザイナーのキット・ケンプが手がける「ウォーレン・ストリート・ホテル」がオープンした。ミシュランガイドによるホテルセレクションで最も優れた滞在を提供する宿泊施設に与えられる「ミシュランキー」で、早くも1キーを獲得している。

画像: 赤を基調にしたデラックス ジュニアスイート ©︎Simon Brown

赤を基調にしたデラックス ジュニアスイート

©︎Simon Brown

華やかなデザインと巧みなファブリック使い、美しい色に彩られたホテル

 2024年2月、トライベッカにオープンした「ウォーレン・ストリート・ホテル 」は1985年、ティム&キット・ケンプ(Tim & Kit Kemp)夫妻がイギリスで創業したホテルグループ「ファームデールホテルズ 」の一つ。現在、ファームデールホテルズはロンドンに8つのホテル&レジデンス、ニューヨークに3つのホテルを展開している。

 ファームデールホテルズおよびキット・ケンプ・デザインスタジオの創設者兼クリエイティブ・ディレクターであるキット・ケンプは、日本では名窯ウェッジウッドのデザインを手がけたことで有名だが、アート、インテリア、デザイン、ファッション業界の人々はもちろん、流行に敏感な人たちが注目するデザイナーだ。何故なら彼女は大胆で凝った色使い、ミスマッチと思えるような柄やモチーフ——ストライプ、水玉、花柄、チェック、バティックなど——をいく通りものパターンに組み合わせて美しい相乗効果を生み出すデザインに定評があるからだ。

画像: バスケット素材の作品はアルゼンチンのアーティスト兼デザイナー、クリスチャン・モハデット(Cristian Mohaded)作。木材を重ねた美しいフォルムのテーブルはロエベ財団のノミネートアーティスト、アメリカのクリストファー・カーツ(Christopher Kurtz)の作品 ©︎Simon Brown

バスケット素材の作品はアルゼンチンのアーティスト兼デザイナー、クリスチャン・モハデット(Cristian Mohaded)作。木材を重ねた美しいフォルムのテーブルはロエベ財団のノミネートアーティスト、アメリカのクリストファー・カーツ(Christopher Kurtz)の作品

©︎Simon Brown

 スイートルームを含む全69室のウォーレン・ストリート・ホテルは、ターコイズブルーの窓枠に11階から上の階は黄色という建物外観もカラフルだ。エントランスを開けるとオレンジの壁に囲まれた空間に巨大なアート作品がゲストを迎える。ホテル内にある総計700点以上のアート作品はキット・ケンプがおよそ4年をかけて集めたコレクションで、アーティストたちの国籍も様々であれば、バスケット、大理石、木材、紙製のビーズと素材も様々で、ロビーがまるで多様性をテーマにしたアートギャラリーのようだ。

画像: 「鳥のさえずり」がテーマの「スリーベッドルーム ソングバード スイート」のリビングルーム。鳥の卵の形をしたと植物モチーフの壁紙がテーマにぴったり

「鳥のさえずり」がテーマの「スリーベッドルーム ソングバード スイート」のリビングルーム。鳥の卵の形をしたと植物モチーフの壁紙がテーマにぴったり

画像: グレー系のインテリアでシックにまとめたユニークな形のベッドボードとトルソーは、ファームデールホテルズのオリジナリティを表現している ©︎Simon Brown

グレー系のインテリアでシックにまとめたユニークな形のベッドボードとトルソーは、ファームデールホテルズのオリジナリティを表現している

©︎Simon Brown

 ポップな壁紙にアート作品が飾られたエレベーターを降りて客室に入ると、目に飛び込んでくるのが美しくて大きなベッドボード。壁紙、照明、カーペット、カーテンがベースとなる色やテーマをもとに多種多様なモチーフが散りばめられている。一見するとバラバラに見えるクッションとソファーのファブリック使いも、よく見ると不思議と統一感がありキット・ケンプのセンスの良さが伝わってくる。各部屋に置かれているトルソー(マネキン型)は、それぞれの部屋のデザインを象徴していると同時にファームデールホテルズのロゴでもある。

 様々な色と柄に彩られたウォーレン・ストリート・ホテルは、オープンして半年足らずでミシュランガイドのホテルセレクションで1キーを獲得している。ミシュランキーを手繰り寄せたのは総支配人ニック・ハムディ(Nick Hamdy)氏の存在がある。ハムディ氏は、ニューヨークにある他の2つのファームデールホテルズ、ミッドタウンの「ザ・ウィットビー・ホテル(The Whitby Hotel)」、ソーホーの「クロスビー・ストリート・ホテル(Crosby Street Hotel)」の総支配人、副総支配人を経験しているが、その2つのホテルがミシュランホテルセレクションにて最高位の3キーを獲得している。3キーを獲得したのは全米で11のホテル。そのうちニューヨークは、わずか4つのホテルだけに与えられた栄誉だ。

画像: ウォーレン・ストリート・ホテル 総支配人 ニック・ハムディ氏 ファームデールホテルズのホスピタリティを語る上で大切な存在のハムディ氏。ホテル内のアート作品で一番好きな作品は美しい色彩のジョー・ティルソン(Joe Tilson)の作品だという。趣味は料理とガーデニング。 ©︎Simon Brown

ウォーレン・ストリート・ホテル 総支配人 ニック・ハムディ氏

ファームデールホテルズのホスピタリティを語る上で大切な存在のハムディ氏。ホテル内のアート作品で一番好きな作品は美しい色彩のジョー・ティルソン(Joe Tilson)の作品だという。趣味は料理とガーデニング。

©︎Simon Brown

 心暖まるホスピタリティを提供するハムディ氏の仕事の原点は、祖父がホテルの総支配人だったことだという。「子供の頃、夏休みになると祖父のホテルに遊びに行きました。お客様、スタッフ、多くの人がいて、その人々の中で過ごすことがとても心地良かったのです」。14歳になると人の役に立ちたいと自転車で新聞配達の仕事を始め、15歳でレストランのキッチンスチュワードに、16歳でデザートワゴンの担当へと昇格していった。ケンブリッジ大学でフランス語とドイツ語を学び、卒業後にファームデール・ホテルの幹部候補生プログラムにチャレンジ。トレーニングの2年間はレストラン、フロント、宿泊など様々な部署で研修を続け、レストランマネージャーとして本格的にキャリアをスタートする。その後、ロンドンの「シャーロット・ストリート・ホテル」の総支配人を経験してからニューヨークに渡り、前出の2つの姉妹ホテルの要職を経て、ウォーレン・ストリート・ホテルの総支配人となった。海外のホテルにおいて総支配人の多くはホテルスクール出身者が多い中で、ハムディ氏はファームデールホテルズ一筋だ。

 ハムディ氏が大切にしていることがゲストとのコミュニケーションだ。「可能な限り朝食の時間にレストランに行きます。朝食の時、ゲストに挨拶をして話をすることで、ゲストの人となりや体調、食事の好みがわかりますから」と答えてくれた。

画像: デザイン性に優れるアートピース、電気スタンド、家具類にもキット・ケンプのセンスが光る ©︎Simon Brown

デザイン性に優れるアートピース、電気スタンド、家具類にもキット・ケンプのセンスが光る

©︎Simon Brown

画像: 青と黄色の「デラックス トップ フロア ルーム」。楽しいお茶の時間を連想させるクッションに注目。キングサイズベッドはツインベッドとしての対応も可能 ©︎Simon Brown

青と黄色の「デラックス トップ フロア ルーム」。楽しいお茶の時間を連想させるクッションに注目。キングサイズベッドはツインベッドとしての対応も可能

©︎Simon Brown

 ホテルがオープンしておよそ6ヶ月、現在の状況について「お陰様で好調なスタートだと思います。すでにジャーナリストやリピーターのお客様からの予約も多く、ホテルの在り方がお客様や地域に受け入れられていることを感じますが、同時にホテルのアイデンティティを一つ一つ積み重ねています。例えば、ニューヨークは秋から冬が本格的なシーズンです。様々なセクションを束ねて、初めて迎えるシーズンに向けて毎日が大切な準備期間と感じています」。

画像: 宿泊のゲスト専用のサロン「ドローイングルーム」では、本を読んだり、お茶を飲んだり、アペリティフを楽しんだり、思い思いの時間を過ごすことができる。宿泊ゲストは専用のルーフテラスの利用も可能 ©︎Simon Brown

宿泊のゲスト専用のサロン「ドローイングルーム」では、本を読んだり、お茶を飲んだり、アペリティフを楽しんだり、思い思いの時間を過ごすことができる。宿泊ゲストは専用のルーフテラスの利用も可能

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画像: トライベッカを一望できる宿泊のゲスト専用のルーフテラス ©︎Simon Brown

トライベッカを一望できる宿泊のゲスト専用のルーフテラス

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ニューヨーカーたちの前向きな気持ちが集結したトライベッカ

 ウォーレン・ストリート・ホテルがあるトライベッカは、ロバート・デ・ニーロ、ビヨンセ、テイラー・スウィフトなど多くのセレブリティが住み、トライベッカ映画祭が開催されるなど文化の中心地としてニューヨークでも注目を集めているエリアであるが、「30年前には倉庫が立ち並ぶ閑散とした地域でした。それが2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件により大きな被害を受け、人々はトライベッカを良い方向に再建したいと思うようになりました。その前向きな思いが少しずつ実を結び、今ではミシュラン星付きのレストランやお洒落なカフェをはじめ、チェルシーから移転してきた名高いギャラリーやセンスあるブティックが増え、多くのセレブリティが移り住んだこともあり人気のエリアとなりました。ファームデールホテルズがトライベッカにホテルを建てたということは、つまり地元の人も近くで働く人も、国内外から訪れる人も、みんなにトライベッカの雰囲気を感じてほしいという思いがあります。そして、人々の多様性を尊重すると共に、様々な面においてintimate(親しみ)という概念を重視しています。ですからレストランをブラッスリーにして誰でも気軽に利用していただけるようにしました」とハムディ氏は語る。

画像: 「ウォーレン・ストリート・バー」では、毎週木曜の夕方に始まるジャズの生演奏が大人気。昼間はアフタヌーンティーで優雅なひと時を過ごすことができる ©︎Simon Brown

「ウォーレン・ストリート・バー」では、毎週木曜の夕方に始まるジャズの生演奏が大人気。昼間はアフタヌーンティーで優雅なひと時を過ごすことができる

 ©︎Simon Brown

画像: 「ウォーレン・ストリート・レストラン」は、150席のブラッスリースタイルのレストラン。使用している食器「トール・ツリーズ 」もキット・ケンプがデザインしたもの ©︎Simon Brown

「ウォーレン・ストリート・レストラン」は、150席のブラッスリースタイルのレストラン。使用している食器「トール・ツリーズ 」もキット・ケンプがデザインしたもの

©︎Simon Brown

 そしてハムディ氏にニューヨークの他の2つのホテル、ザ・ウィットビー・ホテルとクロスビー・ストリート・ホテルとの違いを尋ねると「ミッドタウンにあるザ・ウィットビーは場所柄ビジネスのゲストが多く、ソーホーのクロスビー・ストリート・ホテルはビジネスとライフスタイルのゲストが半々で、滞在日数がウォーレン・ストリート・ホテルに比べてやや少ないことでしょうか。ウォーレン・ストリート・ホテルはスイートルームにテラスやキチネット(小さなキッチン)もあることから滞在日数も長く、ライフスタイルを重視してトライベッカで過ごしたいというゲストが多いことが特徴です。そして何よりキットと二人の娘さん、ミニーとウィローが親子で初めて手がけた記念すべき第一号のホテルであることです。他の2軒よりホテル内がカラフルなのは、娘さんたちのセンスが表れているからです」という答えが返ってきた。

 歴史を辿ると19世紀にはテキスタイルの中心地だったというトライベッカ。布使いの名手キット・ケンプがこの地にホテルを建てたのは、見えない糸に導かれていたのではないだろうか。

画像: レストランの奥にある「オランジェリー」はプライベートイベントにも対応。トライベッカの新たな集まりの場として活用されている ©︎Simon Brown

レストランの奥にある「オランジェリー」はプライベートイベントにも対応。トライベッカの新たな集まりの場として活用されている

©︎Simon Brown

Warren Street Hotel (ウォーレン・ストリート・ホテル)
86 Warren Street New York
NY 10007, USA
公式サイトはこちら

ローズウッド香港

最上級のホスピタリティが輝きの証

龍島のランドマーク「ローズウッド香港」は2024年度、世界のベストホテル50で第3位、2023年度は第2位と2年連続でベスト3に選出された輝かしい実績を誇る。ホテルを支えるのは、ゲストのために努力を厭わないスタッフによる最上級のホスピタリティ。その根底にはローズウッドが大切にしているゲストとの永続的な関係を構築する「リレーションシップ ホスピタリティ」がある。ゲストが享受する心温まるホスピタリティとは――

画像: 6階にあるインフィニティープール

6階にあるインフィニティープール

 香港・九龍島の尖沙咀(チムサーチョイ)地区のウォーターフロント、ビクトリア・ドックサイドに2019年にオープンした「ローズウッド香港」は65階建てのビルの高層部を占め、413ある客室の8割以上がビクトリアハーバーを臨み、マウンテンビューも緑あふれる美しい景色が広がる絶好のロケーションにある。

 その土地のアイデンティティや文化を反映する「A Sense of Place®︎ (センス オブ プレイス®)」を理念に掲げ世界にウルトラ ラグジュアリーホテルを展開するローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎は1979年、アメリカ・テキサス州ダラスの「ローズウッド マンション オン タートル クリーク」から始まった。「マンション」という名が示す通り、ゲストには邸宅に住まうようにくつろいで欲しいという創業者キャロライン・ローズ・ハント氏の思いが込められている。

画像: 九龍のビクトリア・ドックサイドのランドマーク、ローズウッド香港。近隣にはビジュアル・カルチャー美術館「M+」があり活気あふれる

九龍のビクトリア・ドックサイドのランドマーク、ローズウッド香港。近隣にはビジュアル・カルチャー美術館「M+」があり活気あふれる

 2011年、ローズウッドは香港のニューワールド デベロップメントに経営権が移り、現在は創業者チェン・ユートン氏の孫であるソニア・チェン氏がCEOとして創業者のホスピタリティ哲学を忠実に踏襲しながら、ニューヨークの「ザ カーライル」、パリの「オテル ドゥ クリヨン」、ヴェニスの「バウアー」といった各都市を象徴する由緒あるホテルをグループに加え、新たなホテルを世界五大陸に展開している。

 このようにローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎の世界におけるラグジュアリーホテルとしてのブランドの確立、ローズウッド・ホテルグループでは人柄や情熱を重視した、様々な職業や年代のメンバーで構成される新しいスタイルの会員制クラブ「カーライル & コー(Carlyle & Co)」の創設などが高く評価され、ソニア・チェン氏は2024年度、ホテル業界に多大な貢献をした個人に授与される世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)の特別賞「セブンルームス アイコン アワード(SevenRooms Icon Award)」を受賞している。

画像: ホルツカフェに飾られている羽にクリスタルが輝く孔雀はコロンビア出身のクラリダ・ブリンカーコフの作品。香港の喧騒が聞こえてくるようなタクシーのコラージュ作品は地元のアーティスト、ナンシー・リー作

ホルツカフェに飾られている羽にクリスタルが輝く孔雀はコロンビア出身のクラリダ・ブリンカーコフの作品。香港の喧騒が聞こえてくるようなタクシーのコラージュ作品は地元のアーティスト、ナンシー・リー作

 香港生まれのソニア・チェン氏にとってローズウッド香港は、世界のローズウッドの総本山とも言える、とりわけ大切なプロパティ。ホテルが建つ場所は祖父がニューワールド デベロップメントを創業した地であり、家族と共に過ごした少女時代の思い出が詰まった特別な場所であるからだ。ホテル内の「ホルツカフェ(Holt's Café)」の名前の由来はこの場所が旧ホルツ居留地だったこと、広東料理の「ザ レガシー ハウス(The Legacy House)」は、広東省出身の祖父が残した遺産(レガシー)へのトリビュートとして名付けられていることにも彼女の家族への敬意が表れている。

CEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏の審美眼

画像: エレベーターと客室の間にあるサロンはミッドセンチュリーとモダニティがミックスした空間。イタリア製ジョルジェッティの椅子に身を委ねて寛ぎの時間を過ごしたい

エレベーターと客室の間にあるサロンはミッドセンチュリーとモダニティがミックスした空間。イタリア製ジョルジェッティの椅子に身を委ねて寛ぎの時間を過ごしたい

 ゲストがローズウッド香港で邸宅の雰囲気を強く感じるのは、エレベーターを降りてから客室に向かう前にあるサロンではないだろうか。椅子とサイドテーブルが置かれ、貴重なアートピースが美しく陳列された空間は、ここがホテルであることを忘れさせてくれる。客室のドアの前には作り付けの傘立てがあり、雨の多い香港で自由に傘が使える配慮がなされている。多くのホテルではゲスト用の傘はクローゼットの中に置いてあるのだが、ローズウッド香港ではドアの外(玄関先)に傘が置かれていることにも邸宅を意識したソニア・チェン氏とトニー・チー氏の心使いを感じる。客室はチェックのデザイン、ヘンリーボーン柄のスリッパ、ウイリアム・ローが描く香港の風景画、風水を意識した大理石のバスルーム、ロロ・ピアーナの壁紙、カクテルブックが置かれたバーワゴンなどゲストが目にするもの、手に触れるもの、すべてが二人の審美眼に叶ったものだ。

「ザ レガシー ハウス」、インド料理「チャート(Chaat)」といったミシュラン星付きレストランをはじめ合計8つのレストラン、2023年にアジアのベストバー50の9位にランクインする人気のバー「ダークサイド(DarkSide)」を擁し、世界のアートコレクターが目を見張る貴重な数多くのアート作品があるラグジュアリーホテルの模範と言えるローズウッド香港であるが、このホテルを語る上で欠かせないのは、ゲストの期待を超えるために努力を惜しまないスタッフによる最上級のホスピタリティだ。

画像: ビクトリア湾の美しい眺望が広がる「グランド ハーバービュー ルーム」(53㎡)。椅子やテーブルをあえてテイストの違うものにして邸宅の居間の雰囲気を出したCEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏のセンスに脱帽

ビクトリア湾の美しい眺望が広がる「グランド ハーバービュー ルーム」(53㎡)。椅子やテーブルをあえてテイストの違うものにして邸宅の居間の雰囲気を出したCEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏のセンスに脱帽

画像: 「グランド ハーバー コーナー スイート」(123㎡)のリビングルーム。大きなシーリングウィンドウから昼と夜の景色の移り変わりを楽しみたい

「グランド ハーバー コーナー スイート」(123㎡)のリビングルーム。大きなシーリングウィンドウから昼と夜の景色の移り変わりを楽しみたい

画像: 「デラックス ハーバースイート」(105㎡)は木の温もりが落ち着いた雰囲気を醸し出す。ネイビーの壁紙(生地)はロロ・ピアーナ

「デラックス ハーバースイート」(105㎡)は木の温もりが落ち着いた雰囲気を醸し出す。ネイビーの壁紙(生地)はロロ・ピアーナ

リレーションシップ ホスピタリティ

 ローズウッドが大切にしている「リレーションシップ ホスピタリティ」は、すべてのゲストにとってホテルで過ごす時間が、かけがえのないような経験となるように、真のホスピタリティを提供することでゲストとの間に永続的な関係を築くことだ。

 マネージング・ディレクターのヒューゴ・モンタナーリ氏は「2023年にローズウッド香港が世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)のベスト3に選出され、アジアではナンバーワンというマイルストーンを築くことができたのは才能あるチームのおかげ」と語るが、モンタナーリ氏は自ら上質なホスピタリティの追求に余念がない。ホテル内では自身がユニフォームを着用し、スタッフ用のレストランでランチをサーブするなど現場の仕事を理解し、スタッフとコミュニケーションをとっている。

画像: ローズウッド香港 マネージング・ディレクター ヒューゴ・モンタナーリ氏 (Hugo Montanari)スイスにあるホテルスクールの名門校 エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ卒業後、ドバイ、ニューヨーク、バンガロール、三亜、天津、モロッコなどで名だたるラグジュアリーホテル業界にてキャリアを積む。イタリアとフランスの二つの国籍を持ち、様々な国での経験を有するモンタナーリ氏はグローバルな視点でローズウッド香港を牽引する。2023年1月より現職

ローズウッド香港 マネージング・ディレクター
ヒューゴ・モンタナーリ氏 (Hugo Montanari)スイスにあるホテルスクールの名門校 エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ卒業後、ドバイ、ニューヨーク、バンガロール、三亜、天津、モロッコなどで名だたるラグジュアリーホテル業界にてキャリアを積む。イタリアとフランスの二つの国籍を持ち、様々な国での経験を有するモンタナーリ氏はグローバルな視点でローズウッド香港を牽引する。2023年1月より現職

 さらに、モンタナーリ氏はホテル内のみならず幹部メンバーとともに”Adventure in the Dark(暗闇の中の冒険)”という興味深いプログラムに参加していることにも注目したい。これは多様性のある香港で世界中からゲストを迎え、様々なバックグラウンドを持つスタッフを最良のチームとしてまとめる大きなヒントとなっているからだ。

 モンタナーリ氏は、「視覚に頼らずに目標を達成するチームワークと信頼を得る体験をすることができました。暗闇の中の冒険を通して、メンバーの絆を深めると同時に、多様性、公平性、インクルージョン(多様な人材が尊重され、それぞれの人材の才能が発揮されること)の推進を見直すことができました」と感想を述べている。

画像: ミシュラン1つ星のレストラン、インド料理「チャート」。味覚はもちろん、巧みなスパイス使いで嗅覚を、色彩豊かな食材で視覚を刺激する。非常に人気のレストランなので滞在を決めたらすぐに予約を

ミシュラン1つ星のレストラン、インド料理「チャート」。味覚はもちろん、巧みなスパイス使いで嗅覚を、色彩豊かな食材で視覚を刺激する。非常に人気のレストランなので滞在を決めたらすぐに予約を

画像: 高級ジュエリーブティックのような「バタフライパティスリー」

高級ジュエリーブティックのような「バタフライパティスリー」

画像: パティスリーの隣にある「ザ・バタフライルーム」の壁にはダミアン・ハーストの蝶の作品

パティスリーの隣にある「ザ・バタフライルーム」の壁にはダミアン・ハーストの蝶の作品

 2024年3月にオープン5周年を記念して行われた文化的プログラム「フロント ロウ」では、リーダーシップの専門家メルカート・ルハナ氏を招聘し、チームワーク、リーダーシップ、ストーリーテリング、サービスの卓越性についての理解を深めるワークショップが行われた。この結果、チームの洞察力の強化、ローズウッドのミッションを再評価、ブランドコミットメントを再確認するという効果をもたらした。400室を超える大きなホテルでパーソナルなホスピタリティを可能にしているのは、モンタナーリ氏を中心に、こうしたトレーニングを通してリレーションシップ ホスピタリティを念頭に学び続けるスタッフの努力に他ならない。

画像: アートバーゼル香港の公式ホテルパートナーであるローズウッド香港。ホテル内にはオーナーのコレクションが至る所に飾られている。1階のエレベーターホールの壁一面を飾るのはアメリカ人アーティスト、ジョー・ブラッドリーの抽象画

アートバーゼル香港の公式ホテルパートナーであるローズウッド香港。ホテル内にはオーナーのコレクションが至る所に飾られている。1階のエレベーターホールの壁一面を飾るのはアメリカ人アーティスト、ジョー・ブラッドリーの抽象画

画像: ホテルの2フロア、総面積3,600㎡を占めるローズウッドのウェルネス施設「アサヤ」。アロマ アトリエでは好みの香りを調合してオリジナルのオイルを作ることができる PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ROSEWOOD HONG KONG

ホテルの2フロア、総面積3,600㎡を占めるローズウッドのウェルネス施設「アサヤ」。アロマ アトリエでは好みの香りを調合してオリジナルのオイルを作ることができる

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ROSEWOOD HONG KONG

 ローズウッドの「リレーションシップ ホスピタリティ」が今後、世界のローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎でどのように展開されるのだろうか。まもなく開業予定の日本初となる「ローズウッド宮古島」への期待が高まる。

ローズウッド香港
Rosewood Hong Kong
Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong
公式サイトはこちら

ザ メイボーン リヴィエラ

フレンチ・リヴィエラに佇む秘宝

ル・コルビュジエ、アイリーン・グレイ、ココ・シャネルらが別荘を建て静かな時を過ごしたフレンチ・リヴィエラの村、ロクブリュヌ=カップ=マルタン。隠された宝石のようなこの場所に、イギリスの名門ホテルグループ、メイボーンが2021年にオープンした「ザ メイボーン リヴィエラ」。誰かに語りたくなるような極上のストーリーが生まれるホテルの魅力とはーー

画像: ロクブリュヌ=カップ=マルタンの断崖絶壁に建つ「ザ メイボーン リヴィエラ」

ロクブリュヌ=カップ=マルタンの断崖絶壁に建つ「ザ メイボーン リヴィエラ」

「ザ メイボーン リヴィエラ」は、ロンドンを中心に展開するメイボーンのメンバーホテル。現在はロンドンの「クラリッジズ(Claridge’s)」、「ザ コノート(The Connaught)」、「ザ バークレー(The Berkeley)」、「ジ エモリー(The Emory)」、アメリカの「ザ メイボーン ビバリーヒルズ(The Maybourne Beverly Hills)」とあわせた6つのホテルから構成されるこのホテルグループは、小規模ではあるが、顧客リストには世界のロイヤルファミリーや国家元首が名を連ねる。中でもロンドンのクラリッジズは、天皇皇后両陛下が滞在された最上級の格式を誇るホテルとして知られている。

画像: インフィニティープールが付いたインフィニティ ブルー スイート

インフィニティープールが付いたインフィニティ ブルー スイート

 2021年、メイボーンが初めてフランスに進出。選んだ地がフレンチ・リヴィエラで密かに人気を集めるロクブリュヌ=カップ=マルタンだ。イタリアとモナコの間に位置するこの地に魅せられたのは、自身が建てた「休暇小屋」で晩年を過ごした建築家のル・コルビュジエ、ビベンダムチェアやアジャスタブルテーブル、そして自身のヴィラE1027をデザインしたプロダクトデザイナーのアイリーン・グレイ、そしてココ・シャネル。シャネルは北フランスの高級避暑地ドーヴィルに最初のブティックを開き、パリで激動の時代を生きた。その彼女が安らぎを求めて「ラ パウザ」(イタリア語で休憩の意味)という名の別荘を建てたのがロクブリュヌ=カップ=マルタンだと聞けば、ここがどれほど人々に寛ぎを与える場所であるか、お分かりいただけるだろう。

画像: パノラミック スイートは二方面に地中海の絶景が広がる

パノラミック スイートは二方面に地中海の絶景が広がる

画像: 開放感あるベッドルームのデザインはケンブリッジ大学を卒業した才媛ミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同作。グループ内のグローバル ヘッド オブデザインを務めている

開放感あるベッドルームのデザインはケンブリッジ大学を卒業した才媛ミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同作。グループ内のグローバル ヘッド オブデザインを務めている

 ザ メイボーン リヴィエラはロクブリュヌ=カップ=マルタンの山頂、モナコを見下ろす断崖に建つ。65部屋のすべてがバルコニー付きで、太陽の光と地中海を五感で感じることができるインフィニティービューという贅沢な空間を有する。建築家ジャン=ミシェル・ウィルモット氏によるモダンでシャープな建物とは対照的に、ホテルの中は地中海の波のような曲線美に満ち溢れている。レストランのテーブルや椅子、バーのカウンターに至るまでもだ。

画像: リヴィエラ スイートのリビングルーム(写真上)とダイニングルーム(下) デュープレックス(2階建て)のリヴィエラ スイートはヨットのキャビンに着想を得たもの。丸みを帯びたインテリアに注目したい

リヴィエラ スイートのリビングルーム(写真上)とダイニングルーム(下)
デュープレックス(2階建て)のリヴィエラ スイートはヨットのキャビンに着想を得たもの。丸みを帯びたインテリアに注目したい

画像: フレンチ・リヴィエラに佇む秘宝

 スイートルームの一つ「リヴィエラ スイート」のコンセプトはヨットのキャビン。部屋にいながら海に浮かぶヨットの中にいるようだ。デザインはメイボーンのグローバル ヘッド オブ デザインのミシェル・ウー氏とデザインスタジオ「リグビー&リグビー」の共同制作。外部の著名なデザイナーとコラボレーションしながら、社内のデザイン部門がデザインを担当していることもメイボーンの特徴だ。
 
 ロンドンの老舗グループホテルに比べると、ザ メイボーン リヴィエラに滞在して感じることは若いスタッフの活躍だ。笑顔を絶やさないスタッフのスマートなサービスが心地良い。「トマトとフルーツサラダの例えで有名な言葉(註)にもあるように、知識を持ち合わせていたとしても、現場では状況を理解してゲストに対応する知恵が必要です。若いスタッフが持つ可能性をいかに伸ばすか、仮にミスをしたとしてもそれを過ちと捉えるのではなく次のステップへの過程と受け止め、彼らにヒントを与え正しい方向に導く。それが私の大切な仕事です」と語るのは、総支配人のフランシスコ・ガルシア氏。投げかける質問に、格言やビジネス書の引用を交えて丁寧に答える知性派だ。

画像: ザ メイボーン リヴィエラ 総支配人 フランシスコ・ガルシア氏(Francisco García)スペイン生まれ。ホテリエだった父の仕事に伴い幼少期をパナマ、ベネズエラ、メキシコで過ごす。コーネル大学卒業後、「フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツ」、「オテル ド クリヨン ア ローズウッドホテル」、「マンダリン オリエンタル」、「シュヴァル ブラン クールシュヴェル」でのホテルマネージャー、総支配人の要職を経て2024年7月より現職

ザ メイボーン リヴィエラ 総支配人 フランシスコ・ガルシア氏(Francisco García)スペイン生まれ。ホテリエだった父の仕事に伴い幼少期をパナマ、ベネズエラ、メキシコで過ごす。コーネル大学卒業後、「フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツ」、「オテル ド クリヨン ア ローズウッドホテル」、「マンダリン オリエンタル」、「シュヴァル ブラン クールシュヴェル」でのホテルマネージャー、総支配人の要職を経て2024年7月より現職

「メイボーンは小さなホテルグループです。私たちは宣伝に焦点を当てるのではなく、ゲストが滞在されたときに何をどう感じるかに焦点を当てています。ですから、お客様とともにメイボーンという文化を作り、ストーリーとして語り継がれるような時間をお過ごしいただきたいと願っています」

 ザ メイボーン リヴィエラにとって、ゲストの言葉は重要な意味を持つ。ガルシア氏はゲストが投稿する評価すべてに必ず目を通し、一人一人のゲストにカスタマイズしたホスピタリティを提供することが真のラグジュアリーと考え、ゲストを迎えている。

 2024年7月に着任したばかりのガルシア氏は、初めてホテルに来たときのことを鮮明に覚えているという。「初めてこのホテルを訪れたのは2024年の5月でした。その時、今まで経験したことのない高揚感とリラックスする気持ちを感じたのですが、それはロクブリュヌ=カップ=マルタン独特の地形や自然、受け継がれてきた文化に由来すると思います。イタリアから日が昇り、モナコで日が暮れる。静かな時間が流れ、山と海と空をこれほど近くに感じる場所はフレンチ・リヴィエラの中でも珍しく、隠された宝石のような場所です。ぜひこのホテルにいらして滞在をお楽しみいただきたいと思います」

画像: 緩やかに波打つバー「Le 300」のカウンター

緩やかに波打つバー「Le 300」のカウンター

 その場所に行かないとわからない空気や質感――ザ メイボーン リヴィエラはそうした魅力に満ちている。イタリアとフランスとモナコ。三つの国の文化が交錯するのは地理的な条件だけではなく食の分野にも表れている。プールサイドのレストランではナポリ市出身の職人がピザ窯でピザを焼き、バーでは地元の特産のレモンを使ったカクテルでアペリティフを楽しみ、地中海産のシーフードで三つの国の食を味わえる。

画像: 岬の先端にはビーチクラブがあり、専用の車でアクセスできる。地中海の夏のヴァカンスを満喫したい(夏期のみ営業)

岬の先端にはビーチクラブがあり、専用の車でアクセスできる。地中海の夏のヴァカンスを満喫したい(夏期のみ営業)

 夏には岬(カップ マルタン)のビーチクラブで過ごしたり、インフィニティープールで泳いだり、館内の美術館級の作品を鑑賞したり、スパで身体を癒したり。ホテルを楽しむ時間は様々だ。

画像: 紺碧の地中海が眼下に広がるインフィニティプール PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE MAYBOURNE RIVIERA

紺碧の地中海が眼下に広がるインフィニティプール

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE MAYBOURNE RIVIERA

 ゲストが自由に写真を撮って持ち帰ることができるように、客室にはインスタントカメラが置いてあり、滞在中の出来事を綴り手紙を出せるよう、国際郵便の切手が貼られたポストカードが用意されている。ザ メイボーン リヴィエラで過ごす日々が、旅が終わってからも鮮明に蘇り、必ず誰かに楽しい滞在だったと話をしたくなるストーリーが展開する。そこにはガルシア氏が目指すメイボーン独自の文化が着実に育まれている。

(註)
”Knowledge is knowing that tomato is a fruit. Wisdom is knowing not to put it in a fruit salad.”
「知識とは、トマトは果物であると知ることである。知恵とは、それをフルーツサラダには入れないことである」

ザ メイボーン リヴィエラ
The Maybourne Riviera
1551 Route de la Turbie, 06190 Roquebrune-Cap-Martin, France
公式サイトはこちら

髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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