世界屈指の観光地ヴェニス。星の数ほどのホテルが軒を連ねるなか、家族経営のようなホテルがある。フランスで発足したルレ・エ・シャトーに加盟するロンドラ・パレス・ヴェネツィア。そのホスピタリティと社会貢献を紹介する

BY HARUMI KONO

画像: サン・マルコ広場から徒歩2分ほどのロンドラ・パレス・ヴェネツィアは、ヴァポレット(水上バス)の降車場がホテルの目の前にある便利なロケーション

サン・マルコ広場から徒歩2分ほどのロンドラ・パレス・ヴェネツィアは、ヴァポレット(水上バス)の降車場がホテルの目の前にある便利なロケーション

 ロンドラ・パレス・ヴェネツィアはヴェニスで唯一のルレ・エ・シャトーのメンバーホテル。1954年にフランスの8軒のオーベルジュから始まったルレ・エ・シャトーは、高いレベルのホスピタリティとその土地でしか味わうことのできない食を提供するという理念を掲げる非営利団体。現在、世界65カ国で、厳正な審査をクリアした同じ志を持つ580の宿泊施設やレストランがメンバーとなっている。日本では「あさば」、「べにや無何有」などの宿泊施設と「銭屋」、「レフェルヴェソンス」といったレストランを含む 合計20のプロパティが加盟している。ちなみに、 ルレ・エ・シャトーでは邸宅の主人としてゲストを迎えるという考えに基づいて、総支配人を「メートル・ド・メゾン(Maître de Maison)」(邸宅の主人)と呼ぶ。

画像: 正面にサン・ジョルジョ・マッジョーレ大聖堂を望むチャイコフスキースイート

正面にサン・ジョルジョ・マッジョーレ大聖堂を望むチャイコフスキースイート

 1853年、サン・マルコ広場にほど近いヴェニスの中心地に創業したロンドラ・パレス・ヴェネツィアは、『八十日間世界一周』の作者ジュール・ヴェルヌが泊まり、チャイコフスキーが1877年のクリスマスを過ごしたという歴史を有する。1938年よりイタリアのバビーニ家がオーナーとなり、隣接するホテルを併合して1973年に現在の形となった。2024年に大規模な改装を終え、ホテルは全52室を擁するアール・デコを基調としたヴェネツィアン・モダンな雰囲気へと、装いを新たにした。

画像: 『八十日間世界一周』の作者ジュール・ヴェルヌの名を冠したジュール・ヴェルヌスイート

『八十日間世界一周』の作者ジュール・ヴェルヌの名を冠したジュール・ヴェルヌスイート

画像: ヴェネシアンシルクがヴェネツィア共和国の栄花を彷彿させるクラシックルーム

ヴェネシアンシルクがヴェネツィア共和国の栄花を彷彿させるクラシックルーム

 172年という長い歴史をもつこのホテルで2011年からメートル・ド・メゾンを務めるのはアラン・ブッロ氏。多くのホテルが一定の期間でトップが交代する中、この在職期間は異色だ。コンシェルジュやレストラン、裏方のスタッフも20年から30年以上と在職期間が長いことからもホテルへのロイヤリティの高さがうかがえる。コロナ禍で退職したスタッフが一人もいなかったというのも驚きだ。このロイヤリティはホテルの仕事が好きであることはもちろんだが、ブッロ氏の統率力や人柄によるところが大きい。氏を中心にスタッフが長い時間を過ごしている間に家族のような関係が構築されているからだ。実際にブッロ氏の父もまた、このホテルに56年間勤めていた。ドアマンとして働いていたとき後にブッロ氏の母となる女性と出会ったのもこのホテル。ロンドラ・パレス・ヴェネツィアはブッロ家の歴史そのものだ。

「父はドアマンから始めて最後はチーフコンシェルジュとして働いていました。最初は父と同じ職場で働くことは嫌でした。でもいつの間にか、ゲストに私から『父と一緒に働いています』、と自己紹介するようになりました」と言うブッロ氏の心の変化は、やはりホテルと、ホテルに集まる人々が好きだったからだ。父親が「誰もがVIP」という気持ちでゲストに接していたことや子供の頃、何度も訪れたホテルの様子を今でもはっきり覚えているという。

画像: ロンドラ・パレス・ヴェネツィア メートル・ド・メゾン アラン・ブッロ氏 (Alain Bullo) 大学でツーリズムエコノミーを専攻後、ホテル・ヴィラ・チプリアーニ・アーゾロ、ホテル・エクセルシオール・リド・ディ・ヴェネツィアを経て、2001年よりロンドラ・パレス・ヴェネツィアに勤務。フロントオフィスマネージャーとしてキャリアをスタートし, その後、副支配人兼セールスマネージャーを経て、現在はゼネラルマネージャー。ロンドラ・パレス・ヴェネツィアでの年月は24年に及び、そのうちの13年は父親と共に勤めている。

ロンドラ・パレス・ヴェネツィア メートル・ド・メゾン 
アラン・ブッロ氏
(Alain Bullo)

大学でツーリズムエコノミーを専攻後、ホテル・ヴィラ・チプリアーニ・アーゾロ、ホテル・エクセルシオール・リド・ディ・ヴェネツィアを経て、2001年よりロンドラ・パレス・ヴェネツィアに勤務。フロントオフィスマネージャーとしてキャリアをスタートし,
その後、副支配人兼セールスマネージャーを経て、現在はゼネラルマネージャー。ロンドラ・パレス・ヴェネツィアでの年月は24年に及び、そのうちの13年は父親と共に勤めている。

「父の代から変わらないことは、カードキーではなくキーホルダーについた鍵を使っていることです。コンシェルジュやレセプションスタッフがお客様に鍵を手渡しすることで、小さなヒューマンタッチが生まれます。その小さなことの積み重ねを大切にしています」とブッロ氏。これは鍵の受け渡しからゲストの様子を伺うホスピタリティであるが、「日本のお客様は遠慮深い方が多く、質問もあまりされません。お客様の様子を伺いながらこちらからお声掛けするようにしますが、負担にならないように配慮しています」と細かい配慮を怠らない。

画像: ヴェネツィアングラスの美しいシャンデリアがかかるLPVリストランテ

ヴェネツィアングラスの美しいシャンデリアがかかるLPVリストランテ

画像: ラグーンを行き交うゴンドラを見ながら食事を楽しむことができるLPVリストランテのテラス席

ラグーンを行き交うゴンドラを見ながら食事を楽しむことができるLPVリストランテのテラス席

 ルレ・エ・シャトーのメンバーホテルとして、リストランテではヴェニスで正式な、それでも肩肘張らないイタリアンを堪能することができる。気候が良い季節はテラス席がおすすめだ。リアルト市場から仕入れた新鮮な魚介類のメニュー「Pescaria(ペスカリア)」、地元ヴェネト州産の農産物を使った「Beccaria(ベッカリア)」のメニューがあり、特にペスカリアの自家製のパスタやエビのタルタルは日本人の味覚に合う優しい味わいだ。

画像: 最上階にあるスイートルーム。リビングルームとひと続きになったテラスからは、ラグーンとヴェニスの街の両方の眺望が楽しめる

最上階にあるスイートルーム。リビングルームとひと続きになったテラスからは、ラグーンとヴェニスの街の両方の眺望が楽しめる

ホテルを通して社会貢献

 ロンドラ・パレス・ヴェネツィアのオーナーであるバビーニ家はヴェニスのほかに、フィレンツェとウンブリアにもホテルを所有し、ホテルコレクション「ザ・ホスピタリティ・エクスペリエンス(The Hospitality Experience)」を展開しているが、ホテルの運営に留まらず、2020年には「ザ・プレイス・オブ・ワンダーズ(The Place of Wonders)」財団を設立した。イタリアの職人たちが築いてきた手仕事の技の継承を目的に作られたこの財団は、ゲストが伝統工芸を理解することにも役立っている。また、ロンドラ・パレス・ヴェネツィアはムラーノ島のガラスビーズ職人アレッシア・フーガ氏とジュエリーアーティストであるマリサ・コンヴェント氏とパートナーシップを結び、ゲストがアトリエを訪問するプログラムを実施している。その費用や宿泊費の一部は財団に寄付され、それによって4名の若者が奨学金を得ることができた。

 イタリアの職人技に触れる旅を、ぜひロンドラ・パレス・ヴェネツィアから始めてみてはいかがだろうか。

画像: レセプションの横にあるサロンはゲストが自由に寛ぐスペース。ザ・プレイス・オブ・ワンダーズに携わるアーティストたちの作品を展示することも。書棚にはバビーニ家が所有する書籍が並ぶ PHOTOGRAPHS: COURTESY OF LONDRA PALACE VENEZIA

レセプションの横にあるサロンはゲストが自由に寛ぐスペース。ザ・プレイス・オブ・ワンダーズに携わるアーティストたちの作品を展示することも。書棚にはバビーニ家が所有する書籍が並ぶ

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF LONDRA PALACE VENEZIA

ロンドラ・パレス・ヴェネツィア
Londra Palace Venezia
Riva degli Schiavoni, Castello 4171
30122 Venezia – Italia
公式サイトはこちら

髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら

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