BY HARUMI KONO

ピーコック・アレーの中央に鎮座する時計は、ウォルドーフ・アストリア・ニューヨークの象徴である時計をオマージュしたもの。当時「Meet me at the clock (時計台で会いましょう)」という言葉が交わされ、多くの出会いを見守ってきた
ウォルドーフ・アストリア・ホテルズ&リゾーツ(以下、ウォルドーフ・アストリア)は、現在エンパイア・ステート・ビルが建つニューヨーク34丁目に、1893年創業のウォルドーフ・ホテルと1897年創業のアストリア・ホテルが隣接して建てられたことに始まる。時はアメリカの黄金時代。上流階級の人々や文化人らが集い、両ホテルでニューヨークの文化が育まれた。やがて2つのホテルは通路で結ばれ、羽飾りのついた帽子を被った婦人たち、ステッキを手にした紳士たちが行き来し、その様子がまるで孔雀が歩いているようだったことから、「ピーコック・アレー」と呼ばれるようになった。ピーコック・アレーは現在、世界のウォルドーフ・アストリアのアイコニックな場所として受け継がれている。
1931年、2つのホテルが統合されて現在のパーク・アヴェニューに移転すると、当時は珍しかったレストランでの食事、ルームサービス、客室への電話の設置などホテルの礎が築かれ、エッグベネディクト、ラズベリーチーズケーキがここで誕生して世界に広がっていった。美しいアールデコに彩られたウォルドーフ・アストリア・ニューヨークは、歴代のアメリカ大統領をはじめ英女王エリザベス2世、昭和天皇らが宿泊し、ニューヨークのレガシーとなったのだ。

JR大阪駅に隣接する複合施設「グラングリーン大阪」南館。高層階に位置する「ウォルドーフ・アストリア大阪」。手前の建物、最上階のガラス張り部分が2フロア吹き抜けの「ピーコック・アレー(Peacock Alley)」。客室は奥の建物31階から38階部分を占め、252室のすべての客室から大阪の眺望を望むことができる
「ウォルドーフ・アストリア大阪の開業で大切にしたのは、ウォルドーフ・アストリア・ニューヨークのレガシーと大阪の調和です。たとえば、ニューヨークのアール・デコがどのように大阪に溶け込むのか。デザインを担当したアンドレ・フーは、フランク・ロイド・ライト設計の『ヨドコウ迎賓館』にインスピレーションを得ていました」と話す総支配人アンドリュー・ムーア氏。
アンドレ・フーの解釈は“大阪モダン・アール・デコ”。レストランのある建物と客室棟を結ぶコリドールにはアール・デコの装飾が施され、千本鳥居を彷彿とさせる木のアーチが両側に連なっている。客室のヘッドボードには和紙や組子細工の装飾があり、西洋と東洋の美の対話がなされている。絨毯やファブリック類は孔雀の羽のようなインディゴブルーやコバルトブルーの青色、さらにセージグリーン、ジェードグリーンといった緑色の組み合わせで、非常に美しい。

様々な青と緑に彩られたプレジデンシャルスイート

ヘッドボードは高松の和紙と組子細工の装飾、テーブルに置かれた小さな苔の鉢、控えめな和の美しさが、大阪モダン・アール・デコと調和している。写真はプレミアルーム(キングベッド)

ホテル1階のグランドエントランス。エレベーターで29階に上がると、目の前にピーコック・アレーが広がる。和の雰囲気から洋の雰囲気へ瞬間移動するかのようだ

ウォルドーフ・ホテルとアストリア・ホテルを結んでいたコリドール「ピーコック・アレー(Peacock Alley)」の名を冠したラウンジ&バー。昼はアフタヌーンティー、夜はカクテルやジャズの生演奏を大阪の眺望と共に楽しみたい
1階のエントランスから29階に上がると、ラウンジ&バー「ピーコック・アレー」が大阪の絶景と共に目の前に広がる。「ラグジュアリーとは細かな部分を取り込むこと」と語るムーア氏の言葉の通り、孔雀の羽のパターンが描かれた大理石の床の上を、孔雀の紋様をデザインしたファッショナブルな制服に身を包んだスタッフが颯爽と行き交う様子が目に映る。

「ケーンズ&テイルズ (Canes & Tales)」の壁には江戸時代の大阪の古地図が描かれた陶板タイル。1920年代のジャズエイジをテーマにした店内ではニューヨークと大阪の今と昔が交錯する。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』など、著名作家の小説のタイトルにちなんだカクテルが楽しめる
ニューヨークの歴史に根付いたウォルドーフ・アストリア。ホテルで華やかな黄金時代を体感できる場所がデスティネーションバー「ケーンズ&テイルズ」だ。シグニチャーカクテルは同時代(1920年代)に文壇デビューしたF・スコット・フィッツジェラルドの『ジャズ・エイジの物語』に収録された、11編の短編の名前がつけられている。ごぼう、生姜、紫蘇などの和の素材が使われ、それぞれのストーリーがグラスの中で繰り広げられる。また、定期的に国内外からミクソロジストを招き、カクテルを通じて世界と交流しながら、バーの文化を盛り上げている。

ウォルドーフ・アストリア大阪 総支配人
アンドリュー・ムーア氏 (Andrew Moore)
アイルランド生まれ。父、兄、叔父、従兄弟がホテリエという家庭に育ち、12歳でキッチンポーターとして初めてホテルの現場に立つ。2008年、ヒルトンに入社。アイルランド、イギリスの同グループホテルにて実績を積み、「ヒルトン北京」、「コンラッド・ソウル」にて要職を経験。「コンラッド・ダブリン」総支配人を経て現職。休日は六甲山のサイクリングを楽しむなど、スポーツ全般が得意。
ウォルドーフ・アストリアというブランドと大阪についてムーア氏は、「兄がウォルドーフ・アストリア・ニューヨークに勤務していたことがあり、いつか自分もウォルドーフ・アストリアで働きたいと思っていました。また、私は20回近い来日経験がありますが、大阪の人々はとてもフレンドリーで人と人との距離が近く、独自の鼓動を感じます。実際に私が街を歩いていたとき、偶然入ったコーヒーショップ『リロ コーヒー ロースターズ』のコーヒーがとても美味しかったので、ホテル専用の焙煎を申し入れて実現しました」と話してくれた。そのコーヒーの名は「ビッグアップルブレンド」。メイドイン大阪のニューヨークテイストだ。
日々、多くのゲストで賑わうウォルドーフ・アストリア大阪。開業当日は朝6時からオープンを待ちわびる人々が列を作っていたほどだった。成功の秘訣について、ムーア氏がインタビュー中に繰り返していたのは、「素晴らしいチームに恵まれた」という点だ。実際にホテルを訪れると、現場を統括し自らもゲストを迎えるクオリティ管理ディレクターを中心に、それぞれの部署で良いチームが構築されていることが伝わってくる。
奇しくもウォルドーフ・アストリア・ニューヨークが8年に及ぶ改装を終え、再び扉を開いたのが2025年8月。ウォルドーフ・アストリア大阪の開業と同じ今年だ。ニューヨークに宿るタイムレスな美しさ、レガシーホテルの理念を、ウォルドーフ・アストリア大阪で感じてほしい。

シグネチャーレストラン「月見(Tsukimi)」。和食を希望のゲストは寿司と鉄板に特化した「月見」で、食の都・大阪の真髄を味わってほしい

モダンフレンチブラッスリー「ジョリー ブラッスリー(Jolie Brasserie)」では、ウォルドーフ・アストリア発祥のエッグ・ベネディクトをぜひ
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF WALDORF ASTORIA OSAKA
ウォルドーフ・アストリア大阪
住所:大阪府大阪市北区大深町5-54 グラングリーン大阪 南館
公式サイトはこちら
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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