BY RANDY KENNEDY, PHOTOGRAPHS BY PIETER HUGO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
かつては、すさまじいペースで作品を作っていたオルデンバーグだが、90歳が近づくにつれペースをゆるめている。だが、いまだ公共プロジェクトや大規模な彫刻に取り組みつづけている。カリフォルニアでは個人が発注した《Dropped Bouquet》という作品を仕上げているところで、その色鮮やかな模型が彼のスタジオに置かれている。ニューヨークのペース・ギャラリーではこの10月〜11月に、彼の新作の展覧会が開かれた。
彼は、脚を鍛えるためにエアロバイクを漕いで体力の一部を消費しているが、まだまだ活力が漲っている。インタビューの時間も3時間をすぎたが、彼の話はなかなか終わらなかった。彼が話すべき題材を見つけるたびに、キーキーと音がする古い業務用エレベーターに乗って、私は彼と建物の上や下へ行くはめになった。エレベーターは小型車が入るぐらいの広さがある。「スタジオの中に住むのが好きなんだ」と彼は言った。「そこにあるものすべてを把握できるし、何か変えたいなと思えば、いつでも自由に変えられるからね」
ニューヨークのダウンタウンで活躍した昔の偉人たちのうち、ジャスパー・ジョーンズは今コネチカットに住んでいるし、2008年に亡くなったラウシェンバーグは晩年のほとんどをフロリダで過ごした。だが、オルデンバーグは彼らと違い、彼の作品を育ててくれたニューヨークの街に断固として残っている。彼がニューヨークを離れたのは、ロサンゼルスに住んだ二度と、あとはフランスで過ごしたときだけだ。彼とヴァン・ブリュッゲンはフランスの城を購入して、改装したのだ。「前のように出歩くことはもうあまりない。でも、外に出たいと思うときは、ニューヨークの街がいつもここにあるんだと感じている」
彼の娘は、父が仕事のために長年蒐集してきたゴミ箱の山の中から、父の許しを得て、兄弟と一緒におもちゃを探し出したことを憶えている。彼女は私にこう言った。「いつも思うけど、父たちがどうやってここでいまだに仕事をこなせているのか、ちょっと不思議。父はものすごく物持ちがよくて、あとで使いたいものをずっととっておくタイプだから」
そんな彼女の言葉を証明するかのように、彼はいま改良中だという、蒐集品の小山のような作品をいくつか見せてくれた。小さな金属の棚の上には、何の価値もなさそうながらくたが、シンプルながらも雑然と置かれていた。
現在制作中の作品のひとつは、ピンナップガールの段ボール製フィギュアと、茶色いスポンジ状のベレンスタイン・ベアがついている景品のヘッドバンド、塗料が付着してしまったマドラーや、赤いロープの切れ端でできていて、ほかには特筆すべきものはなかった。それはセザンヌが描いた水浴図を脱構築したような感じで、見ても意味がわからない。
「ここに物を置いて、長い時間眺めるんだ。もし作品にそぐわないものがあれば、それは勝手にいなくなるんだ」。彼は小さなプラスチック製のてんとう虫のおもちゃをじっと見つめていた。それは蒐集品の山の端にとりあえず置かれていた。「いなくなれと言ったんだけど」と彼は言う。「こいつまだいるな」。そして期待を込めるようにこう言った。「こいつは残るかもしれないな」
DIGITAL TECHNICIAN: BRIAN DEPINTO AT ETHIC. PHOTO ASSISTANT: DAVID CHOW